安らかな痕
何の前触れも無く、唐突にあたしの目はハッキリと開いた。
さっきまで熟睡していたのが嘘みたいに意識も覚醒したけど、流石に真っ先に我が目に入ったものを理解するのには少し時間を要した。
布団の上で横になっていたあたしの顔の目と鼻の先で、同じく体を横にして静かに寝息を立てている恋人のハルトの顔。
何で彼があたしの目の前で寝ているのか不思議に思ったけど、すぐに自身が置かれている今の状況に気付いたことでその疑問はすぐに氷解した。
お互いに服を脱いだ裸の姿を晒したまま、腕や足を互いの体に絡め合う様な形で抱き合っている。
そこまで状況を理解した瞬間、あたしは何故こうなったのかを思い出す。
そうだ。昨日の夜、この部屋でハルトと夜を過ごして、激しく交わった疲労感も相俟ってそのまま寝てしまった。
寝てしまってからの記憶は無いが、こうして抱き合ったままあたしが寝てしまったから、ハルトも身動きが取れないまま寝てしまったのだろう。
だけどそこまで考えた時、あたしは自分の体の下腹部に違和感を感じた。
熱がある硬い何かが体の中にある感触。覚えのあるものだったから視線と意識を下半身に向けて見ると、寝ていてもまだ元気なのか大きくなったハルトの分身があたしの中に埋め込まれていた。
昨夜は大きくなったそれで何回も激しくあたしの体の奥を突いて、中に滾った欲を放ったのに、今はまるでその熱をあたしの中に留めておく為の栓みたいに根元までピッタリと嵌っていた。
「ちょっと、まだ元気なの? ていうか挿れたまま寝ていたの?」
昨夜はあたしにお構いなく欲望のままに中を突き上げたり擦ったりして正気を失いそうになるくたいの快感を齎していたけど、今は動かないこともあって体内にある異物感の方が強かった。
加えてお互いに、と言うよりあたしの体は少し汗ばんでいるだけでなく、汗とは別の体液でも濡れていた。
行為の最中なら快感や潤滑油としての意味はあったけど、気分的にそうじゃない今はヌメヌメしている感触のまま過ごすのはちょっとだけ嫌だった。
それに夜明けが近いのか、窓の外の夜の闇が白み始めてもいたから尚更だった。
さっさと抜きなさいよ。
そう考えながら抱き付いているハルトの体を引き離して、彼の分身を抜こうとした時、あたしの中に埋まっていたハルトのがビクンと蠢いた。
感触を感じやすい中だったことも相俟って彼の動きはあたしの体を反応させるには十分な動きで、意図せずあたしの体は中に埋め込まれていた彼のを強く締め付けた瞬間、ハルトの分身は根元から全体的に膨らんで、昨夜みたいに熱く感じられる欲をあたしの中に吐き出した。
「っ~! っっ~!!」
中から伝わる熱と快感に、あたしは声を上げない様に目を固く瞑りながら必死に耐える。
昨夜、あれだけ出した筈なのにまだ出る何て、男はどんだけ欲深いんだと文句を言いたかった。
しかもあたしが体を強張らせて耐えているのに対して、ハルトはまだ夢の中、しかも心地良さそうにしているのだから尚更腹が立った。
拳骨の一つでも落としてやろうかしら。
そんな考えが頭を過ったけど、彼の体のあるものが目に入ってあたしを踏み止まらせた。
寝ているハルトの肩に、まるで歯型の様な痕がくっきりと残っていたからだ。
それを見たあたしは、頭が真っ白になる様な気持ち良さに耐えることに無我夢中になるあまり、思わず彼の肩に噛み付いたり、背中に爪を立ててしまった昨夜を思い出した。
あたしの体は汗とかの体液に濡れているだけなのと比べてみても、彼の体に残った歯型などの傷痕は少し痛々しく見えた。
ハルトも行為中であったとしても、少しは怒ったり止める様に言うことは出来たのに、一度もそういうことは言わなかった。
今思えば快感だけでなく痛みも堪えていたのかもしれない。
「…今日くらいは許してやりましょう」
体に埋め込まれたのは勝手に引き抜くことは出来るけど、引き抜いた後に中に出された彼のが垂れたりしたら、処理するのもそうだが間違って布団の上で暴発されるのはもっと最悪。
我ながら彼には甘いなと思いながら彼の素肌や中にある彼の分身から熱を感じながら、ハルトが起きて来るまで彼の抱き枕にされるのを受け入れて、あたしは彼の寝顔を見つめながらまた目を閉じた。