孫自慢

孫自慢



「ふわぁ~ぁ……」


海軍本部、マリンフォード。


この大海賊時代における『正義』の象徴である厳格な場所。

そこで昼間からアイマスクをつけ大あくびをかきながら元帥室に向かう男が1人。

男の名はクザン。通称『青雉』。この海軍において大将という階級に属するが普段は全くやる気を見せない海軍の問題児の1人。

そんな問題児が、何と書類を期限に余裕を持って提出するという奇跡が起きている。


(いやぁ頑張った。頑張ったよ俺。なーんか奇跡的にやる気でた。センゴクさんぶったまげるだろうなあ)

などと考えているがいざ出しても、センゴクから「いつもそうしろ!」と怒られるだけである。が、クザンはそれに思い至らない。考える事すら億劫なのである。

そんななので深く考えず扉を開けてしまった。


「そこで確信したんじゃあ!!わしの孫は最強の海兵になると!!」

「もう分かった!!もう聞いた!!その話はもう止めろ!!」

ガープがセンゴクの机に上半身を付きだし拳を振り上げ何事か力説している。


「どーもガープさん、センゴクさんも。お取り込み中っすか?」

「おお!クザン!いやぁ丁度終わったぞ!!」

「…はあ、クザン……。どうした…」

ガープはいつにもましてイキイキとしているが、対するセンゴクは深いため息をついている。クザンはとりあえず仕事を済まそうと要件を言う。


「どうしたって書類っす。ほら」

「は?……。期限にはまだ余裕が有るが……」

「言うと思ったー。なーぜかやる気でたんすよ」

クザンから受け取った書類をある程度見たセンゴクが驚く。それに適当な返事をしたクザンにセンゴクの雷が


「ぶわっはっは!見ろセンゴク!ルフィが海兵になると言っただけで奇跡が起きたぞ!!こりゃなった時には想像もつかん事が起きるな!!」


…落ちなかった。有り難いがさっさと仕事を済ませたい。


「すんませんねガープさん。センゴクさん、内容はどうです?」

「…まあ内容については心配しとらん。内容については。確かに受け取った」

大いに含みが有るが問題は無さそうだ。クザンの用事が済んだと見たガープはにこれでもかと視線を送る。


(お孫さんの話してーんだろうなぁ。確か海賊なりたがってたから、更正出来たって事だよな?まあ仕事よかマシかぁ)

クザンは一瞬躊躇したがガープに問う。


「……何か有ったんすか?ガープさん」

「聞いて驚けクザン!!わしの孫が海兵になると言ってきたんじゃあ!!しかも女の子の為に!」

(お。面白そう)

「そう!事の始まりはわしが軍艦での巡回中じゃった……!」

(……ルフィ君と女の子の事だけにしてくんねーかな)

ガープは情景を思い出してるのか目を瞑っている。


「……センゴクさん、長いっすよね?この話」

「ああ長い。しかもお前が聞いたせいで私が聞くのは5回目だ」

ガープは聞こえてないのか話を続ける。


「ルフィから電伝虫が来てな?次はいつ来れるのか?と聞いてきたんじゃ。わしは言った。『来る日を把握して逃げようとしても無駄だ』と。しかしルフィは…!」

「『違う。ちゃんと話をしたいんだ』」

「そうはっきりと、今まで聞いた事の無い力強い声色で言った。……そこまで言うならと日付を伝えてフーシャ村に行ったら……」

さっきからガープが身振り手振りを交えながら話すせいでそれを避けながら聞いている。センゴクはこれを4回やったのだと思うと尊敬する。


「……知らない女の子が居てな。とりあえずわしはルフィと挨拶して、で、ルフィとその子が二三やり取りしたら、まずその子が海兵になると言ったんじゃ」

「そして次の瞬間、ルフィが!『海兵なる』と言ってくれたんじゃあ!」

ようやく登場した女の子とルフィ。

ようやくしてくれた海軍への入隊宣言。

特にルフィは散々海賊になるとか言って海兵になってくれない、とガープから愚痴を聞かされていたクザンは拍手をする。


「いやー、おめでとうっす。ガープさん。やっぱ本部につれて来るんすか?」

「いや!志は立派じゃが体が出来上がっとらんからな!」

確かに。まずは基礎体力づくりからだろう。

「まずは千尋の谷に放り込んで、その次は夜のジャングルじゃ!」

…………?

「あー、ガープさんと一緒でも子供はきっついでしょそれ。女の子もいるんでしょ?」

「?いやルフィと女の子…ウタって言う子でな?ルフィより2つ上じゃ。その2人だけじゃぞ?昔のわしが出来た事じゃし、この大海賊時代、それぐらいはなあ!!」


……隣でセンゴクが怒りで震えているのが分かる。何も言わないのは何回も聞いてその度に怒ってもう無駄だと分かるからだろう。ガープはなおも続ける。


「で、谷もジャングルも思ったよりルフィは傷ついて帰って来たんじゃが」

(死んでねえとは思ったけどすげぇな)

「ウタの方は少し汚れてる位でなあ」

「…もしかして、ウタちゃん?も能力者だったりします?」

どちらの場所も子供だけでどうにかなるとは思えない。ましてや6歳と8歳だ。


「ああ。ウタウタってやつでな?ざっくり言えば歌えば勝てるって能力じゃな。使った後非常に眠くなる弱点持ちじゃ」

「つまり猛獣とかはそれで何とかしたとしても、抱えてしかも守りながら移動したんすね。6歳が8歳を……」

「そうじゃあ!!立派じゃろ!!」

子供の2歳差は大きいだろう。まだ見ぬ未来の後輩を褒め称えたい。

……ガープからの扱われ方が可哀想になってきたので話題を変える。


「あー、ウタちゃんの事ってどこまで聞けます?海兵になるとかお孫さんが入れ込むとか色々気になりますけど」

「……海賊やってる親に捨てられた子でな。最初は親子共々フーシャ村に居て、ルフィとはその時仲良くなったそうで。が、その親がある日を境に居なくなってしまった上、その後そいつらの悪しき所業も聞いてしまった……」

先程の勢いとは違い苦虫を噛み潰したようにガープは答える。ウタには申し訳ないがありふれた話だ。海賊が悪行をし、それに子供を捨てるだなんて。


「ウタはずっと泣いていたそうじゃ……、置いてかれた、1人ぼっちだ、騙されていた……。」

「それに寄り添い、『一緒にいよう、それなら寂しくない』『海兵になって強くなろう、それならいつかウタの親に会える、言いたいこと、やってやりたいことか出来る』」

「そう言ったのがルフィ」

「あんなに生意気で弱っちかった子供が1人の女の子の心を救った」

「あんなになりたがってた海賊を諦めた」

「守りたいと共にいようと海兵の道を選んだ!」

「確信した!!」

「わしの孫は最強の海兵になると!!!」



感極まったのだろう、ガープは涙ぐんでいる。センゴクがゆっくりとガープに近づく。クザンはそれとなく距離を取る。

「そう思うなら」


「もう少し」


「丁寧に扱わんかあぁぁあ!!!!」



(ルフィ君がナイスガイなのを知れたのは良かったんだけどさ、話なら別の場所で聞きゃ良いし、これならいつもどーりの仕事しとくんだったなぁ。片付け手伝わされるでしょ、これ)


ガープに正論と覇気パンチが炸裂し、めちゃくちゃになった元帥室を見てクザンはため息をついた。



さてガープとしては「孫が男を見せた!」と言うつもりで広げたこの話。おつるにはセンゴクに続きこってり絞られた挙げ句、フーシャ村にまた行ってみたら村民から海岸で追い返されそうになったりしたのでさすがにガープも反省し、修行内容を優しくした。

『死ぬかも知れない』から『物凄く疲れる』程度では有るが。

周りの海兵としてはいつ2人が「やっぱり海兵やめる」と言い出すか気が気でなかったがそんな心配をよそに、ガープの修行進行報告(孫と孫娘?自慢)は入隊するまで続き、意思の強さもそうだがその成長速度にも聞く度に驚く事になる。


数年後

「おーいクザン!!聞いてくれ!!ルフィとウタがな!?」

元帥室に向かう所をガープに呼び止められる。ガープは周りの海兵に挨拶をしつつこちらに向かう。


「おー、ガープさん。今回はどーしました?とうとう本気出しました?」

「ぶわはっはっは!そりゃまだじゃ!でも六式は使わされたぞ!!」

「十分ヤバいっすよそれ……」

そうは言いつつもクザンの口角は緩んでいる。まだ見ぬ後輩の成長が嬉しいのだ。

ふとクザンは聞きたい事があった事を思い出す。


「そういや、配属とかの話って出てます?まーまだ入隊までもうちょいかかりますけど」

「あぁ。サカズキんとこらしいぞ」

(ちぇー。そーいう根回しホントはえーな。まぁガープさんが納得してるなら、)

「上からの圧力でなぁ。本人達を知らんせいで『ドラゴンの息子』と『赤髪の娘』としか見れんからいざという時に備えて、じゃと。全く!!」


…今何て?


「あの……、ガープさん、今の話……」

「ぶわはっはっは!……いかん。この話まだ秘密じゃった。今のナシ」



「「「「「えぇ~~!!?」」」」」



たまたま周りにいた海兵たち、それとこの時ばかりはクザンも声を張り上げて驚いた。


件の2人が入隊した後は、この時感じた驚きが序の口でしかなかった事を散々思い知らされるがそれはまた別のお話。







Report Page