孫二郎直義 えっち 真心

孫二郎直義 えっち 真心


性描写はありませんが直義が烏帽子を外すのでえっち!

※足利兄弟には仲良くお風呂に浸かってほしいという書き手の邪な願いから、足利兄弟は蒸気浴より温湯浴が好きという勝手な設定を作っていますので要注意




孫二郎は濡れ縁で夏の月を睨むように見上げていた

明日にでも北条時行率いる大軍勢がこの鎌倉に押し寄せてくる…

鎌倉将軍府執権の直義は主だった部下達を広間に集め、自ら総大将として出陣し北条勢を迎え討つと宣告したが、直義が鎌倉に籠もらずに打って出る心算でいることを孫二郎は先刻密書で知らされた

戦場は鎌倉市街地ではなく武蔵国の井出沢

直義は戦の最前線に立ち采を振る

孫二郎は後方を任されており、万が一の際は親王将軍と足利宗家に連なる方々、さらには今後の統治機構に欠かすことの出来ない二階堂氏等の吏僚達を北条の魔手からなんとしても無傷で逃さなければならない

己のなすべき優先事項は重々承知している

だがそれでも

僕が一番にお救いしたいお方は直義様なのだ…との思いを抑えられずにいる

「孫二郎」

ふいに声をかけられ孫二郎は慌てて振り返った

月明かりが直義の整った白い面を柔らかく照らしている

膝を折ろうとする孫二郎を制して直義が小さく微笑む

「眠れないのか?」

「そりゃあ、あんな大事をこっそり知らされたら落ち着いて寝てなんかいられませんって…」

「そう気負わずとも、お前ならば情報を無駄なく活用出来るだろう」

「…はい」

直義の厚い信頼に胸が高鳴る

それを誤魔化すように孫二郎は話題を変えた

「ところで、夜もだいぶ深けましたけど直義様もまだお休みじゃなかったんですね。どちらか向かわれるんですか?」

「湯殿だ。大戦の前に身を清めておこうと思ってな」

「ええっ?そんな悠長な…」

言いかけて口を閉ざした

万事抜かりのない直義のことだ

なすべき事はすべて済ませているのだろうと思い直す

直義はそんな孫二郎の有様に笑みを深くすると、とんでもないことを口にした

「ちょうど良い。お前も一緒に来い」

「………えっ?……なっ……えっ?」

どこに?湯殿に?

誰が?僕が?

直義様と?一緒に?

え?

頭の中の整理がつかない

返答を待たずに直義が歩き出してしまったため、孫二郎はその真っ直ぐな背中について行くしかなかった



足利のご兄弟は入浴時に湯を張って浸かるのを好まれる、と耳にしたことがある

蒸気の満ちた湯殿には大の男が二人入ってもなお余裕のありそうな大きな浴槽が設られていた

直義が胸紐の結びを緩めて直垂を脱ぎ落とす

孫二郎は咄嗟に目を逸らし俯きながらそれに倣った

衣擦れの音が妙にはっきりと耳に届いて、孫二郎を悩ませる

湯帷子に着替え終えた直義は世話の者達をすべて下がらせてしまい、湯殿には孫二郎と直義の二人きりになってしまった

緊張で立ち尽くす孫二郎の前で、直義が烏帽子を外し元結を解いた

癖のない射干玉の黒髪が滝のように流れ落ちる

孫二郎は一瞬自分が何を目にしているのわからなかった

「た、直義様!?」

「なんだ」

「あなたは僕が知っているお堅い直義様ですよね?偽物じゃ…ありませんよね?」

「?何を訳の分からぬことを…ああこれか」

直義は自分の頬にかかる髪を指先でさっと後ろへ払う

「お前になら別に構わないだろう」

「………」

昨日までの自分であったら、足利宗家の直義様に身内として扱われた特別だと喜んでいただろうに

今は…悔しい

早く大人になりたい

この方に認められたい

一人前の男として見てほしい

「どうした、入らないのか?」

湯に浸かった直義が孫二郎を呼んでいる

「〜〜〜今行きますっ!!」

今日だけだ

今日だけは子供らしく振る舞ってみせよう

いつか直義様が意識せざるを得ないほどの良い男になってやる!!

そう誓って孫二郎は浴槽に飛び込んだ



たっぷりと湯が張られた浴槽に肩まで身を沈める

はー……気持ちの良いものだなー……

手間も金も掛かる温湯浴は直義の唯一の贅沢と言っても良い

「孫二郎」

「はい」

「そんな隅に寄っていないでこっちへ来い」

手招きされて無視するわけにもいかずに、おずおずと身を寄せる

すると、背後から抱き締められて、心臓が口から飛び出る程驚いた

「なっ、なっ、なっ…何を!?」

「そんなに驚くことか?兄上と入る時はいつもこの体勢なのでつい、な………嫌か?」

「い、やじゃない…ですけど…でも、あの…」

振り向いて仰ぐと、心なしか直義の目が輝いて見えた

恐らく常は弟の直義が抱き締められる側なのだろう

逆の立場も一度やってみたかった!

孫二郎にはそう読み取れた

案外可愛らしい所のあるお人なんだなあ……

「…いいですよ…」

「そうか!」

ぎゅっと白い腕にさらに抱き寄せられ、湯帷子越しに身体が密着する

孫二郎の頬に濡れて重くなった直義の髪が張り付いた

物凄く良い匂いがする

「っっっ」

俯いて拳を強く握り締める

まったく、どこまで人を動揺させれば気が済むのだ

子供が相手だと思って油断が過ぎるだろう!

早く大人になってこの方をお守りしなければ…僕がやらなくて誰がやる…!!

孫二郎が決意を新たにしていると、ぽつりと直義が口を開いた

「先はああ言ったが…」

「はい?」

「…お前は元服前の子供だ」

「いや、まあ、そうですけど…そんな甘いこと言ってられないのが乱世だって、今回身に染みてわかりましたから…」

「お前にも…千寿王(義詮)にも…本来両親の元で健やかに過ごしてほしいと…お前が湯に飛び込んだ時はつくづくそう思った」

「水、お顔に跳ねましたよね、すみません…」

幼子じみた行いが途端に恥ずかしくなってくる

「はは…水遊びなど、それこそ元服する前の幼い頃に兄上として以来だ」

不意に直義が声を落とす

「渋川、岩松、石塔、今川…お前は皆を本当によく慕っていた。辛かったな、孫二郎」

囁くように言われて、涙腺が緩みそうになる

庇番の皆で笑い合ったのはつい先日のことなのに、もうあんな日は二度と戻らない

「な、んで……なんで急に、そんな……甘やかすんですか……僕はもう、悲しまないって決めて……それなのに……」

「孫二郎、お前は必ず強い男になる。明日の黎明の光と共に。だから、子供扱いはこれが最後だ」

ふわりと孫二郎の旋毛に触れた柔らかな唇

直義様は部下が死んでも涙を流さない

でも、もしかすると僕達は今、真心を共有しているのかもしれない

「直義様」

孫二郎は立ち上がって振り返った

水面が波立つ

濡れた布地が透けて恥ずかしいだとか、そんな考えは吹き飛んでいた

直義の頭を抱き締め、旋毛に向かって唇を落とす

僕はこれから先ずっと勝ち続け、生き続けなければならない

この人を守るということは、そういうことなのだ

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