学術バーに潜り込んでいる人のはなし

学術バーに潜り込んでいる人のはなし


※この記事は"学術バーQ・Communicative Bar & Cafe HANABI Advent Calendar 2024" 3日目の記事です。いぇーい。ぴすぴす!✌️


「最近バーに通ってて。あっ、バーっていってもね、そんなオシャレな敷居が高い感じじゃなくて、なんならお酒が飲めなくてもよくて。学術バーっていうんですけど。週数回、その日ごとにイベンターがいて、研究者や大学院生が専門分野や研究について話してくれるんです。場所は御徒町で...」


私はこんな具合で学術バーQの顧客を増やそうとあちこちで触れ回っては、失笑を買っている。

前提として、プレゼンやロジカルな説明が得意ではない、一見まともそうに見えるだけで、社会人の皮をせっせと被って日々生きている、自称妖怪人間の私が語っていることなので、どうかご容赦いただきたい。


まどろっこしい説明のせいで、店の魅力が最大限にアピールできていない自負はある。毎度「あ~またやらかしたわ」と思いながら繰り返している始末だ。いい加減、改善したい。


しかしながら、毎回のように「バー行ってるの!? しかも学術? 気になるけど、専門家じゃないし、一人では行きづらいわ」的なリアクションを返されるので多少気まずい。


「まあ、気分が向いたら行ってみてくださいよ、ふへへ...」とにやけて、その場を濁す私もまた情けない限りである。


ということで、今回はこの場をお借りして、私なりに学術バーを熱く推薦できればと思う。


私が学術バーに通っている理由はいくつかあるが、その中には「世の中には自分の知らないおもしろいことがたくさんあると打ちのめされたい!」という願望が潜んでいる。


職場と家の往復で平日が終わる社会人はさぞや多いことだろう。

たまにふらりと遊びに出掛けても、大抵は元々興味のあることに関連するものに触れたり、気になっていたスポットに行くくらいで、まっさらな驚きや発見に出くわすことは少なくなっていく。社会人あるあるである。


実際、私は来年30歳になるが、なんとなく自分の人生はこんな感じで進むんだろうね......という予測と若干の諦念も生まれてきた。哀しい。

と同時に、まだ30年も生きていないのに、ましてやたいして賢くもないくせに、悟った顔をしている自分がほとほと嫌になることがある。


そういうときに、学術バーにふらっと行くのだ。

すると、「へぇ~知らなかったぁ!」ということに出会える。

それは、自分がいかにものを知らないかという、ある種の絶望や羞恥を突きつけられる瞬間でもある。

しかし、私は世の中のことを全部知ったら、「チッ、つまんねーな!解散!」と人生を投げてしまう自信がある人間ゆえ、知らない事柄に出くわすと、「まだ知らないことがこんなにあるんだ! じゃ、まだ知りてぇから、生きるわ」と生きる希望をもらえるのだ。

あぁ、単純でよかった。


割と最近気づいたこととしては、興味のある分野に行くのも楽しいが、自分と接点がまるでない分野に行くのはさらに良い。

投資もSDGsもまるで関心のない私だが、理由あってESG投資に関するイベント回に参加したときは、期待を越える面白さに「うわー、おもれぇ...そっか私こんなことも知らなかったんだなあ」としみじみして帰宅し、翌日友人にESG投資についてドヤ顔で語り、テキトーにあしらわれたことも印象に残っている。

反面、やっぱり、各イベントでの「今、ここ」が生み出す、独特の語りや高揚感はあの場でしか味わえないなとも思った。

真のドラマは現場で起きている。私は月2~3回しか行けていないので、数多の劇的な場面を見逃しているはずだ。それはちょっと悔しい。


逆に、ある程度知っている気で行った回でも「初めて聞いたのだが??」ということがたくさんある。

そういう日の帰り道はスマホでポチポチと調べものをしながら帰り、翌日も反芻がてら余韻に浸り、ほくそ笑むのが楽しい。

「かしこさが1上がった!」みたいな気持ちとともに過ごすひとときだ。


ときには、イベンターである研究者のみなさんのしゃんとした姿、研究に対する真摯な態度、聡明さなどを思い出して、私も自分の人生を真剣に、きちんと生きようと心を新たにすることもある。

個人的に仲良くさせていただいている方には頭が上がらない。みなさんのことを尊敬しているとお伝えしたい。


そんなわけで、幸いなことに「行って損したな」という回は今のところない。

盛況な回はもちろんよし、人のまばらな回はそれはそれで深い話が聞けるので得をした気分で満たされる。


ちなみに、その場でバカにされたことも、一度もない。ありがたい。

むしろ「ズブの素人なんですが」と言うと喜ばれる気すらする。

おそらく、イベンターのみなさんが一番恐れるのは、有識者からの鋭いツッコミであり、基本的に門外漢には優しいのだ。

だから、私は「すみません、この分野では赤ちゃんなんでぇ...」「パンピーですが何か?」という顔で潜り込んで、話を聞いている。

たぶん愚問もたくさんしているが、優しく受け入れてもらっている。


私自身、「私は素人の立場でいい、ここは私みたいな素人がいて良い場所なのだ」とも、うっすら思っている。

「全員が有識者なら学会と変わらないじゃないか。ここは学術バー、素人に学術の門を開く場所であってくれ」と思っているし、少なからずそういうマインドがしっかり整えられた場だと信じているからだ。


学術バーは、学問を通じて、世界の見え方が、平凡な日常が、ちょっと変わるような喜びを感じられる場である。

真剣に学びたいという方はもちろん、「人生つまんねーな、おもしろいことねーかな」という方にぜひおすすめしたい。

まとまっている気がしないが、ひとまず最後にこれだけ言って締めくくりたい。


胸を張って、素人よ来たれ。

どんどん来い。もっと来い。

門はすでに開かれている。(了)

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