学園の一日

学園の一日


WIDの朝は…実はそこまで早くない。いやまあ朝番とか夜番がある日は別だがなんやかんや学生である。元々治安がそれなりに良いこともあり、治安維持組織とはいえそんな社畜じみた労働状態ではない。

…時々緊急事態が起こってデスマーチに陥ることもあるが。

ゲヘナ?あれは例外だから…

さらに戦術人形技術から分かるように夜中の巡回や監視は結構自動化されている。重大事件が起こると叩き起こされることもあるが、朝それなりの時間に起きて登校するのが普通である。


午前中の学習と訓練を終え、向かうは自治区中心部にあるWID司令部。戦術人形がブレイザーやスレイド、ハンドガトリングを携えて警備している門の前で生体認証を済ませる。そのまま建物に入り、地下の委員長執務室を目指す。執務室及びその周辺は強化コンクリートで固められた特別仕様の地下空間となっており、いざという時はここからWIDの指揮をとることになる。

さて、確認する書類は…


「今週のブレイザー調達数…ちょっと少ないな、何があった?あ、製造設備点検ね、問題なしと…」

「自治区内の犯罪件数は先週に比べ3%増加…密輸入の一時的増加?どこからだよ」

「今週の違h…兵器輸出のリストと…問題なし。改めてアコギなことやってんなあウチの学園…剣先や空崎から電話きた時は生きた心地しなかったぞ」

「ASS部隊の活動記録…こっちも相変わらず色々やってるなあ…(違法度68)」


違法武器の販売やASSの一部の活動を注意こそすれ積極的に止めてこないのは、先生が基本生徒のやりたいことを優先させるタイプの人で良かった点である。もし先生が秩序を重んじるタイプの人だったら、学園はどこかのタイミングでシャーレと敵対せざるを得なくなっていただろう。


とまあこんな感じで雑事をこなしていく。音は聞こえないが、隣のやや大きな部屋でも所属する生徒やWIDが雇った市民の事務員が仕事をしている。

…っと電話か


「はいもしもし、こちら鬼巻…」

『団長!ヘルメット団捕まえたんで連行お願いします』

(ギャーギャーワーワー(社長と事務員と一般社員の騒ぐ声))

(うわあ…)


出たよ歩く災害


「…直接俺ではなく最寄りのWIDの詰所にかけろと言ってるだろう」

『だってこっちの方が早いじゃないですか!』

「はあ…で、何人だ?」

『数えてないですけど…50人は超えてますかね?』


便利屋の仕事となると一つの詰所では対応できないレベルの連行者が出るから、結局周辺に応援を要請することになる。それを考えると俺が直接トップダウンで指示を出すのが早いのはそうなのだが…心臓に悪いからやめてほしい。というか課長と話していると常に命の危険がある。

この前俺が課長に「胸に手を当てて考えろ」と言ったら一人のバカが「胸ないでしょ」と言ったことがあった。俺は「あ、コイツ死んだな」と思ったのだが、ソイツだけでなく何故か俺にまで黄昏が飛んできた。

いや本当になんで?下手すりゃ死んでたぞ?

あ、でもゲーム開発部の皆や先生、こっちで仲良くなれた人たちが葬式に出てくれるなら悪くないかも…


…というか、もし俺が死んだら流石に先生も動くだろうし、そうなれば後は先生の主人公パゥワーでなんやかんや学校が平和になるのでは?一考の余地アリだな。

いや流石に自殺する気はさらさらないが、もし死んだらその死も利用できるようにはしておいた方がいい。

犬死は、したくない

となると遺書もあった方がいいか、「後はお願いします」的な。今夜あたり書いておこう。


まあとにかく、そのとばっちり黄昏事件以降、俺はコイツと普通に話す時、絶対に「胸」というワードを出さないようにしている。常に頭の中で「プロトコル:ワードハント」を実行している状態だ。正直疲れる。


「わかった、部隊を向かわせるからその場で待っていてくれ」

『ありがとうございまーす』


「はぁ…とりあえず指示出すか」


内線電話で担当者に、近くのいくつかの詰所で協力して連行するように指示を出す。現場の連中すまんな。


『海岸近くで騒ぎが起こっている模様!』


と、隣の事務室兼司令室が騒がしくなった。とりあえず様子を見に行く。


「何があった?」

「また例の親衛隊技術部長が巨大マグロと巨大ハマチを釣り上げたようで…」

「ああ、萩原か…争奪戦か?」

「いやそれが、近くで美食研が出待ちしていたようで…」

「…はぁ、応援を送る。指揮は現場でどうにかできそうか?」

「はい」

「3個治安維持戦闘団及び1個戦闘ヘリ中隊の動員を許可する。包囲して捕縛しろ。援軍が必要だったらいつでも言え」

「了解しました」


ゲヘナから出てくんな、いやマジで。…それにしても巨大マグロとハマチか、ちょっと食いたいな。とりあえず執務に戻るか。


「えーと…六道から路上利用申請、これ俺が処理する書類じゃなくね?」

「アリウス生徒の情操教育状態について…まあ一朝一夕にはいかんな、気長に行こう」

「美食研捕縛完了?よくやった」

「…またウズマキやらかしてんなあ…今度は何の事件だ…?」


そんな風に雑務をこなしていく。途中ちょっと重要な話も電話でする。


「あ、先生。ちょっとお時間よろしいですか?」

“大丈夫だよ。何か用?“

「次のコンバットフレーム整備及び訓練の日時なのですが…あ、はい、ではそういうことで」


「リク、今捜査協力頼めるか?」

『大丈夫だよ』

「じゃあちょっと頼むわ。昨日八番街で変な事件が起こってな…」


「あ、もしもし副会長?ちょっとお時間よろしいですか?」

『うん?何?』

「やはりアリウス生の面倒を全部ウチで見るのは厳しいです。第二師団の人員については一部アリウス生と入れ替わりでRGやASSから出していただけませんか?できれば転化生ではなく純粋な生徒で」

『気軽に言ってくれるなあ…まあ考えとく』

「ありがとうございます。あ、それと萩原がなんか巨大魚釣り上げたらしいですし、それ学生食堂で買い上げられませんか?」

『うーん…調理師の事情もあるから、確約はできないかな』

「それで十分です、ありがとうございます」


「もしもし、鬼巻だ。土建屋、今ちょっと話せるか?」

『いいぞ、何だ?』

「WIDのインフラ整備ビジネスでちょっと相談したいことが…

…なるほど、参考になった。感謝する」

『別にいい』

「今度WIDでなんか工事するときはそちらに依頼することにしよう」


まあ、そんな風に仕事をこなしていく。日もそれなりに暮れてきた頃に仕事を終わらせ、そのまま学生食堂に向かう。と、食堂への搬入口の裏側で何やら作業をしている奴がいる。


「んー…あ、イツハか」

「あ、久しぶり」

「食堂へ食材届け終わったところか?」

「そそ、ついでに食事もしてきたよ」

「いつもありがとうな。それと、ちょっとリク借りるわ」

「どういたしまして。うん、リクからも話は聞いてるから大丈夫…あ、そうだ。今日マグロとハマチが入ってたよ」

「お、マジか、後で副会長にお礼言っとかないと。無くなっても困るし急ぐわ。じゃ、また!」

「またねー」


そのままダッシュで食堂に入る。…結構並んでるな。流石に残ってると思いたいが


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やー食った食った。流石巨大マグロに巨大ハマチ、十分残ってた。ハマチマグロ丼とか前食ったことあったかな?

さて、もう一つ用事を済ませてこよう。そのまま俺は射撃場の方に向かって歩いていく。目指すは射撃場近くの武器屋。


「店主さん?今大丈夫?」

「あ、鬼巻さん。大丈夫です、用意できてますよ」


そのまま武器屋に入り、注文していた品を出してもらう。


「こちらご注文の品、ワルサーGew43半自動小銃です」

「おーいいですねーやっぱ」


昔の半自動小銃はいい、コイツにしかないロマンがある。それまでの単発式ボルトアクションライフルからの確かな進化形でありながらも、その直後に自動小銃が誕生してしまったため、比較的短期間で主力小銃としての歴史は終わってしまった。(マークスマンライフルとかで利用されてるし絶滅はしてないが)しかし、その「短期間」というのはまさに第二次世界大戦の時期。

第二次大戦における最新鋭兵器というイメージと、アンティークという二面性を感じられる兵器だと思う。


「それとこちら、弾薬です」

「うーむ、このずっしり感、流石モーゼル」


とりあえずガーランドとSKSは既に手に入ってるし、半自動小銃のメジャー所はいい感じに制覇。次は何を狙うか…まあ後で考えよう。


「ありがとうございました、代金はこれで合ってますかね?」

「はい。今後ともご贔屓に」


早速射撃場でアイツに向かって撃つとしよう。プラネットカノンには敵わんが、モーゼルは痛いぞ〜?


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試し打ちをして的を鳴かせた後、一旦自室の保管庫にGew43を置いておく。風呂に入った後、そのまま東雲の部屋に向かう。


「東雲〜いるか〜?」

『はーい、今あけるよ』


そのまま東雲の部屋に上がり込む。


「お疲れ様、準備できてるよ」

「よし、じゃあ始めるか」


WIDの軍務の場ではなくプライベートな場であるため、普通にタメ口で話す。そのままパソコンで通信を繋げつつ、ついでに牛蒡茶を淹れておく。


「あーもしもし、聞こえてるか〜?」

『うん!聞こえてるよ!こんばんは二人とも!』


ゲーム開発部の声が聞こえてくる。ミレニアムに行けない時もちょくちょくこうして遊んでいる。


『じゃあ初めよっか!最初は誰にする?』

「まあいつものグットッパーでいいだろ。じゃあ行くぞ?グットッパーで…」


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「いやあマジでユズさんパねぇっすわ、マジリスペクトっす」

「まさか一人で本当にチャンピオンになるなんて…」

『私たち全員の勝利だね』

『お姉ちゃん達は何もしてなかったでしょ』

『すっごく綺麗にキルされてて面白かったです!』

『あぅぅ…』


上から俺、東雲、モモイ、ミドリ、アリス、ユズである。

ちゃうねん、ただ俺が敵と遭遇戦になってクソエイムを発揮し、一発も当てられず撃ち負け。そして俺の状況報告と悲鳴を聞いて笑い転げていたモモイが別グループの襲撃を受けダウン。仲良く死亡して後を全部ユズに任せただけやねん。

…なんでここからチャンピオン行けるんですか?


『…それにしてもボンちゃん、ちょっと機嫌良い?』

「ん?そう見えるか?」

『だねー、なんかちょっとハイテンションだよ?』

『ボンノウ、何か良いことでもあったんですか?』


…アレだろうなあ。実際嬉しかったし。


「まあ、嬉しいことはあったな。ただ、軍機にも関係することだからそれ以上は聞かないでくれ」

『わかったー!』



「アリス、そっちも狙えるか?」

『大丈夫ですよ〜バッチェ狙えてますよ〜』

「よし、じゃあブチ込んでやるぜ!」

『やめなよ二人とも!』



『敵が屋上を練り歩いています!」

「しゃあっ はーっ WID神影流“狙撃“!」

『外してんじゃん!?』

「やっべ」

「一応軍団長なんだからしっかりして?」

『ンアーッ!逃したチャンスがデカすぎます!』


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「…流石に遊びすぎじゃないかな?もうこんな時間だし」

「そうだな、もうそろそろ切り上げ時…」

『えー!?まだこれからじゃん!』

「まだ遊びたい気持ちはわかるが…」


流石に夜も遅くなってきた。もうそろそろ寝ないとまずい。ユズはまだ大丈夫そうだが、ミドリやアリスは後ろでウトウトし始めている。


『とにかく、後もう一戦、いや二戦ぐらいは…』

『モ〜〜モ〜〜イ〜〜?』

『げっ!?』

『ヒェ!?』


うわ、セミナーオオフトモモだ


『まだ部室に灯り点いてると思ったらこんな夜更かしして!もう寝なさい!』

『ちょっと待ってよユウカ!今良い所なの!』

『待たないわよ!健康に悪いからとっとと寝なさい!』


オカンかな?


『というか、誰と遊んで…って、あなた達ですか』

「こんばんは、早瀬さん。良いゲーム日和ですね」

『何を言ってるんですかあなたは…というか、治安維持と風紀を担う組織なら、モモイ達を夜更かしさせないでください!』

「我々は治安維持を司る組織の者かもしれませんが…我々は香川県警ではないので…」

『本当に何を言ってるんですか?』


さあ?


『もう!とにかくゲームはやめなさい!』

『え〜〜?』

『つべこべ言わない!ほら、通話切るわよ!』


あっ、強引に通信終了させた


「…んじゃ帰るわ。邪魔したな」

「はーい、じゃあまた今度」


楽しかったなあ…日々の癒しだ。

…まあ彼女らがこの学校にいたら確実に腹痛の元になってるんだが。


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自室に戻り、今日の昼間に思いついた遺書を書き始める。書き始めはオーソドックスに…


『拝啓

先生がこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのでしょう…』


つらつらと、遺書を書き進めていく

できるだけ丁寧に、先生に今までのお礼を述べ

そして先生を責めないように、しかし「どうして助けてくれなかったのか」という怨嗟がほんのり感じられるように

先生により深い罪悪感を刻めるよう、明確な悪意を持って

別に先生がそれを察しても良い

どっちにせよあの人なら勝手に罪悪感を感じて主人公パワーでどうにかしてくれる…かは正直わからないが

この世界に主人公補正があるのかはわからない

巻き込んでしまった結果先生に害が及んだら目も当てられない

が、本当の本当に俺ではどうしようもなくなった時に、解決法の心当たりは先生しかいない


…先生がこの手紙を読む時、俺はどういう死に方をしているのだろうか

転化生の反乱に巻き込まれて暗殺?

他校や反乱勢力との戦争で戦死?

キヴォトス外からの脅威と戦闘して戦死?

課長の機嫌を損ねて即死?

そうでなくとも敵が便利屋や特記戦力を雇って斬首戦法?

ゲマトリアのモルモットとして消費?


…なーんで死因がこんなに思いつくんですかね?っていうか他校の勢力はともかくウチの学校の生徒共についてはアイツら本当に元日本人だよな?

…いや、俺も諸事情で嬰児を殺処分しようとしたし似たようなものか。


さて、話は変わるがモモイに指摘されたように、今の俺はちょっと機嫌が良い。というのも、課長に対抗する手段を一つ手に入れたのだ。先日、色々あって課長の…まあ、感度が凄まじく上がってしまったのだ。

その結果今までは多大な犠牲を覚悟しなければならなかった課長戦はあっさりと終わってしまった…それもあっさりと。正直凄まじい徒労感を覚えたが、あの時サヤ製の感度3000倍薬を持ってきてくれたイナには感謝しかない。


その経験を活かして、WIDとしては課長を敵に回した時の対処法として「媚薬及び感度上昇薬を撃ち込んで無力化する」戦闘法を採用することになった。最初はイナが感度3000倍薬を手に入れたというサヤの所に行って、「そうした薬及び解毒薬をWIDにのみ販売する」契約を結ぼうとした。当然黒服の契約書も使って。

…まあ失敗したが。(45日目16 ???の判定 dice1d100=58 (58) 交渉45より45以下で成功)この契約を持ちかけた事に関する契約書を用いた口封じには成功したが、実に残念だった。


それはそれとして技研における感度薬の研究及び製造は進んでいる。入手したサヤの薬の解析により、オリジナルより多少効果は薄いものの十分な性能をもつ感度増幅薬が製造できるようになった。現在、兵器廠の極秘製造所でイグナイト及び戦闘ヘリ、フォボス、榴弾砲を用いて投射する弾薬を製造中である。配備が進めば、我々は秩序を維持する強力な手段を手に入れる事になるだろう


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…俺が思うに、課長の強さの秘密は「共同幻想」、あるいは「信仰」だと思う。あんな戦闘力、この世界に本来「存在する訳がない」のだ。


ではあの戦闘力の源はどこにあるのか、それが「信仰」である


元々キヴォトスの生徒は何らかの神やそれに連なる者がモチーフである。また、超常的な力の源は「神秘」といういかにもな存在である。であるならば、課長という神秘を宿した神が、人々の信仰、あにまん学園の生徒たちの「課長は最強」という共同幻想により力を増す事は十分考えられる。ウチの学校にはホシノと同じレベルの神秘を宿した生徒が多数いる。そんな連中からの信仰を一身に浴び続ければどうなるか…というのが今の課長ではないだろうか。


となると、対抗策はいくつか存在する。


  1. それ以上に信仰を集める善性の存在を用意する
  2. 共同幻想を消滅させる
  3. 共同幻想を逆に利用する

といった所だ。


まず1、「それ以上に信仰を集める善性の存在を用意する」だ。

これに関してパッと思いつくのは、先生及び原作最強勢に協力を依頼するということ。自治区内のあにまん民からの信仰は十分ある部類だ。


ただ、問題がある

一つ目は「課長の戦闘力が段階的に上昇した関係上、信仰が力になるにはそれなりの時間がかかる可能性がある」ということ。純粋に課長の伝説が広まるまでの時間なのか、あるいは他にもプロセスがあるのか…。信仰と力の関係には、まだ不明なことがあまりにも多すぎる。

そして仮に、信仰を力に変えることに成功したところで、「自治区内の人間は課長の暴力を直接目に焼き付けているが、先生及び最強勢の活躍はゲーム内画面でしか見たことがない人が多い」という問題。先生や最強勢の強さを直接目にしたことがあるのは、俺をはじめとした一部の生徒に過ぎないのだ。どちらの信仰が勝つか、というのはもう運勝負でしかない。主人公補正と原作勢パワーを信じて突っ込むのはあまりにも結果が不確定なので避けたい。


さらに言えば俺としては、「先生に率いられた最強勢はエピメテウスのいる深海まで生身で潜り、さらに破壊可能である」というレベルの強さを生徒たちに信じ込ませるのは無理があると思っている。なまじ原作を知っている生徒たちに、それ以上にとんでもない力があるのだと信じ込ませるのはかなり難しいだろう。自治区の生徒の大多数が、課長のブルアカの世界観を普通に壊してしまうような強さを目の当たりにしてなお「いやいや原作勢の方が強いだろ」という強い信仰、共同幻想を持っているのなら可能な策だが…そのような状況では、おそらくない。


…いや、信仰の絶対量で強さが決まるなら、先生たちが一人一人のイメージは弱くともより多くの信仰を集めればいけるのか?でも信仰のリソースとなる生徒の数は課長と先生達で同じなんだよなあ…どうやってより多くの信仰を集めれば良い?

ついでに言えば彼らに対する信仰の方向性は「強い」だけではない。多くの信仰を集めたとしても純粋な戦闘力の強化になるのだろうか?「先生が負けるはずがない」という運命論的な方向の信仰を集めれば行けるか?そういう事が可能なのかは検証のしようがないが。

それともこの説を公表すれば先生達の信仰の方が強くなる可能性もあるか?いや、現時点ではただの妄想(ゲマトリアの人たちからは「面白い考えですね(意訳)」とは言われたものの)に過ぎないんだぞ?誰が信じる?オカルト掲示板の与太話じゃないんだぞ?


そもそも、どうやって先生や原作勢の協力を得るのかという問題もある。美食研や温泉部を認める先生が、俺が「力を貸して欲しい」と言った所で俺と同じように考えて力を貸してくれる保証などないし、原作勢に関しては違法武器販売で良い印象を持っていない人も多い。

…後者に関しては自業自得だな、うん。


二つ目、「共同幻想を消滅させる」。

課長をコテンパンに叩きのめすのは現時点では困難。そうなると、どちらかと言えば「課長を共同幻想の源から引き離す」ことがメインになる。例えばDU内に誘き寄せて、そこで何とかして先生と協力して叩き潰す。

…が、これも問題がある。

「共同幻想の源から引き離されてすぐに弱体化する」とは限らないし、そもそも「どこまで信仰が届くのか」というのも定かではない。現時点、原作ネームドに我々の信仰由来と思われる強化が確認されていない以上(そもそも信仰が向けられていない可能性も考えられるが)、信仰の届く範囲には限界があるとは思うのだが…。ついでに言えば一つ目と同じ「どうやって協力を求めるのか」という問題もある


そこで三つ目、「共同幻想を逆に利用する」だ。

先日の騒動で、おそらく課長には新たな共同幻想が追加されたはずだ。それは「課長は性的刺激、感度上昇、胸に弱い」というもの。元来、神話に出てくる怪物や英雄には、何らかの致命的な弱点が存在する事が多い。それが課長の場合、性癖、性的刺激に固定化されたのではないだろうか?

今回の計画はそこを突いたものとなる。…ここまで考察しておいて的外れで、「ただのそういう存在です」とかだったら笑えないが。

しかしこの戦法は、上の主な対策の中で唯一有効性が確認されたものだ。(…核の使用はできれば避けたい)共同幻想に関する考察はおまけに過ぎない。


…まあ、問題が解決したわけではないのだが。解毒薬をWIDが独占できなかったということは、反社会的勢力もまたサヤの解毒薬にアクセスする機会を得るということだ。当然、そこには便利屋も含まれる。

薬品内部に含まれる成分を変えることで、従来型の解毒薬では対応できないようにしてあるが…サヤ相手ではどこまで持つか怪しいものだ。そうでなくとも、課長の体質もある。感度薬にも最後には適合し、自力で解毒してしまった。

それを考えると完璧な対策というわけでもない。


…そう、問題は解決していない。WIDは、まだ対抗策の一つを手にしただけに過ぎない。その対抗策も、感度上昇薬というバカげた薬だ。はは…バカらしくて泣けてくるな?


涙が、遺書の上に落ちていく

それでいい

先生なら、勝手に悪い方に想像して奮起してくれるはずだから


「…よし、こんなもので良いだろう」


遺書を書き上げ、引き出しの中にしまう。明日また見直しておこう。場合によってはもう少し書き足すかもしれない。


「…寝るか」


棚の上に置いてある睡眠導入剤、ソルピタムを「三錠」口の中に放り込む。元々不眠症気味であったから処方してもらったものだ。…医者からは「一回一錠で、それでも寝れない時は二錠」と言われているが、これぐらいしないとどうにもならん。

とは言っても、それは三錠飲まないと寝れないという事ではなく…


(…ああ、来た)


ソルピタムには、薬物としての依存性があるというのは有名な話だ。実際、俺もコイツを飲むとどこかフワフワした気分になる。三錠も飲めば、その感覚はより激しいものになる。

それこそ、明日への不安を忘れられるくらいには…わざわざやや古い薬を取り寄せて処方させた甲斐があった。


全てが、どうでも良くなる

全部、どうにでもなるさと思えるようになる

心地良い感覚に包まれて、眠りにつく

俺の日々の癒しの一つだ


(あぁ…そういえば)


ふと、思い出す


(今日の昼、「ゲーム開発部の皆が葬式に出てくれるなら悪くないかも」とか、思ってたっけ…)


だが


(俺が死んだ時、自治区内はどんな状況になってるんだ…?)


内戦か、混沌か、あるいは変わらず回っているのか

わからない

それでも…


(何かあった時に、巻き込むわけには、いかないよな…)


原作ネームドを、友達を、そんな所に放り込んで良い訳がない


(アイツらには、『葬式には来なくて良い』と、書いておこう…)

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