学パロシュラリズ

学パロシュラリズ


1.

 ここは怒羅愚魔学園。

 この学園には喧嘩売ってはいけない人間が二人いる。その一人は喧嘩無敗の絶対番長。長学ランを身にまとい、学園一の自由な男。

 人呼んで、凶鳥のシュライグ。

 この寡黙な男が何を考えているのか誰も知らない。


(フェリジットのおっぱいを揉んでみたい。あの大きなものを手に収めたい)

 シュライグは屋上で寝転びながら物憂げな表情をしていた。彼は自分の片手をジッと見つめる。

(俺たちは恋人同士になったから何も問題はないはずだ。しかしフェリジットの意思もあるだろう。百年の恋も一瞬で冷めるという言葉がある。ここはムードと言葉を考えて……)


 少し離れたところでフェリジットとルガルがそんなシュライグを見ていた。

「やっぱりシュライグ堪えているわね。絶対風紀委員長との怪我も治ってないし、生傷がまだ痛々しいわ」

「仕方ないだろう。二人の絶対が喧嘩をしたのだ。教室二つを半壊させた伝説はすでにこの町に知れ渡っている。不敗伝説こそ守れたものの、シュライグに喧嘩を売る馬鹿はしばらく絶えないだろうな」


(流石に直は不味い。服の上から……)

 シュライグは手を握ったり開いたりしていた。


2.

「お待たせしました。シュライグ先輩」

 アルバスが指定された廃工場の扉を開ける。 マットをいくつか敷いた上にシュライグは座っていた。サンドバッグが一つ置いてある。

「まだ時間より前だ。気にすることはない」

シュライグは立ち上がる。彼は空手の道着を着ていた。

「先輩の流派は空手なんですか?」

アルバスの問いに、シュライグは首を横に振る。

「ただのコスプレだ。俺は格闘技など習ってないからな」

「でも格闘技の技を使ってましたよね」

 風紀委員長と番長の戦いの中、技の応酬が激しかった。そのことをアルバスは思い出していた。

「喧嘩した中に何人か使うやつがいた。そこで覚えただけだ」

「すごいこと言いますね。それで今日はなにを?」

 アルバスとの約束をシュライグは守るつもりでいた。だが、シュライグは人に喧嘩を教えるなどしたことがなかった。

「風紀委員長のパニッシュメントは中国拳法で言う発勁や空手の一撃必殺のようなものだ」

俺は格闘技を習ったことのない素人だがな、とシュライグは付け加えた。

 シュライグの拳を打つ。上半身だけでなく全身の筋肉を使う。拳が出す轟音とともにサンドバッグが大きく揺れた。

「すごいこれをどうやって?」

「これは腰をいい感じにいれて、足をいい感じにして……」

感覚的には分かるが言葉では伝えにくかった。シュライグはアルバスに向き直る。

「今日はこれ回避することを覚えてもらう」


 シュライグは方針を変えることにした。


3.

 夜の地下駐車場にはあまり人がいない。ここが少し繁華街から離れたところにあるくせに料金が街の中と一緒であるからだ。

「ねえ、三人で女の子を襲うなんて趣味悪いんじゃないの?」

 フェリジットは椅子に縛り付けられている。夜道を歩いている時に誘拐された。

「何とでもいいやがれ。俺らは凶鳥のシュライグをボコボコにできればいいんだよ」

不良の一人が椅子を蹴った。椅子ごと彼女は床に倒れる。

「武器まで用意してダサいわ」

三人とも鉄パイプを持っている。怪我をしている人物に対して過剰だ。

「チッ、あの一年に連れてこいって言ったが、まだかよ」

 足音が二つ。駐車場に響いている。

 凶鳥のシュライグ、そしてアルバスが来た。

「一人で来いって言ったよな」

「見学だ。いいだろ」

三人は一斉に飛びかかった。


 長物を持っている相手の対処法はいくつか知っていた。

 まず武器を持っている多くの場合激昂している。それは大振りになることが多く、必然的に長い間合いが必要になる。

 シュライグは一人の距離を詰めた。ここで誰かが振ったとしても確実に他の人物に当たると一瞬でも思わせればいい。鼻と鼻が付き合うような距離。残された時間はあまり長くない。ならば一撃で仕留める必要があった。

「パニッシュメント」

らしくないなと思いながら、シュライグは呟いた。好敵手の技を使うには敬意が必要だ。風紀委員長は経穴を狙うが、そんな芸当はできない。顎を打つ。脳に振動が伝わり、頭蓋骨の中を何度も反射した。一人目は意識を失い、膝から崩れ落ちた。


 次に更に長い間合いを使えばいい。シュライグは音で相手の位置に見当をつけて、後ろ回し蹴りを放つ。予想外の位置から蹴りを食らった二人目の体勢が崩れた。ジャブを三発ほど顔に叩き込んでから、隙きを与えずにボディに拳を当てる。肝臓ががら空きだったので更に当てる。

 二人目は痛みに耐えきれずに鉄パイプを手放した。シュライグは落ちた鉄パイプを蹴り飛ばす。武器がなくなったことに二人は恐れてそのまま逃げ出した。


 最後の一人は怯えていた。またたく間に二人を倒されたことで、戦意を喪失している。シュライグを裏拳を叩き込む。それから馬乗りになり、顔面の形が分からなくなるぐらいに殴ろうとした。フェリジットを傷つけようとするやつに遠慮はいらない。


「そこまで。それ以上殴ると死んじゃうよ」

 五発殴ったところで、フェリジットに止められる。アルバスが拘束を解いていたようだ。

「そうか」

「まっ、私もイライラしたから蹴るけど」

フェリジットが気を失った一人目の方を蹴った。目を覚ました男は顔面が腫れ上がったやつを連れて逃げていった。

「助けてくるのはわかったけど、ありがとう。貸しができちゃったね」

 別にいいと言おうとして、シュライグは思った。このムードなら行けるのでは、と。

「フェリジット、おっぱい揉ませてくれ」

 平手の音が駐車場に響いた。アルバスはその後のフェリジットの囁きを聞くのは野暮だと思って耳を塞いだ。


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