子守歌
アイツら曰く、おれは時々一人で歌を歌ってるらしい
どんな時に歌ってるかと訊いてみると、夜の見張りで夜食を持っていった時に聞いたとか、昼寝の時に寝言かと思ったら歌っていたとからしい
自分では全く覚えがないから、本当に無意識なんだろう
もし変な歌なら確実にコックにからかわれる
そうなる前に対策をこうじようとアイツらにどんな歌だったかを訊いてみた
ルフィ曰く「あったかくて幸せな歌だ~」
ナミ曰く「なんだかすごく安心する歌だったわ」
ウソップ曰く「初めて聞いた筈なのに、なんか懐かしいかんじがしたな」
チョッパー曰く「なんだか心がポカポカするかんじだ!」
ロビン曰く「聞くと少し寂しい気持ちになるの。でも同時にすごく嬉しくもなるわ」
フランキー曰く「なんというか、優しい雰囲気だったな」
ジンベエ曰く「まるで月夜の凪いだ海のような、穏やかな曲じゃったな」
コック以外のクルーからの情報はこんなかんじだ
とりあえず変な歌じゃねェようで安心した(「お前もああいう歌歌うんだな」とは言われたが)
ここまでの情報を並べてみたが、答えが出そうで出てこない
だが最後にブルックに尋ねに行き、甲板で見たアイツの姿におもわず立ち止まった
~♪~♪~♪
今日のアイツはヴァイオリンじゃなくて横笛を吹いていた
奏でているのもいつものような陽気な曲じゃなく、ゆっくりと小舟が波に揺れているような、とても穏やかなメロディだった
横笛はおれの故郷でよく祭りの時なんかに吹かれてたのと同じ形で、なんだか懐かしかった
だがなにより、おれはこのメロディにひどく懐かしさを覚えた
おれはこの曲をどこかで聞いたことがある
そう思った途端、頭の中で記憶がどんどん遡った
たしかあれはルフィと出会う…いやもっと昔だ
そうだ、あの頃はまだ…
「おや、ゾロさん」
ブルックの声でおれはハッとした
「なにやらボーッとされてましたが、どうしました?」
「いや、なんだか懐かしい音が聞こえてな。その楽器はどこで買ったんだ?」
「これですか?これは篠笛というワノ国の楽器で、討ち入りの後のお祭りで町の方からいただいたのです。私は普段ヴァイオリンやピアノを弾いてますが、楽器は全体的にいけますので笛も吹けますよ」
「へェ、じゃさっきn「ブルック!いま、ゾロの歌弾いてただろ!」
どこからか急に飛んできたルフィの言葉におれは振り返る
「おれの歌?」
「おう、ゾロがボーッとしてる時に歌ってる歌だ」
「たしかに、言われてみるとゾロさんが時々口ずさんでいる歌に似ていますね」
ブルックの言葉にルフィが「おう!」と笑いながら頷く
「あー、やっぱりあったかくて幸せだー」
「そういえば、これは篠笛をくれた方から聞いたのですが先程の曲は元々ワノ国で子守歌として伝わっていたんだそうです。なのでルフィさんの言うあったかくて幸せな歌というのは、とても納得の感想ですね」
「ししし!よし、ブルックもう1回だ!」
ルフィがそう言ったタイミングでおれはその場から歩き出す
「ゾロさん、もう行かれてしまうのですか?」
「せっかくブルックがお前の歌演奏してくれるのにー」
「悪ィな。けど、おかげで謎は解けた。ありがとう」
首を捻る二人にそれだけ言って、おれはトレーニングルームに向かった
~♪~♪~♪
まどろみの中、微かに聞こえる笛の音色
思い出すのはまだ両親が生きていた頃
生意気に「ガキ扱いするな」なんて言ってたおれの枕元で、お袋はよくあの歌を歌ってくれた
過去を振り返ったりなんてのは柄じゃねェが、たまにはこういうのも悪くねェと思った
なァお袋
海賊にはなったけど、おれは今の自分に後悔なんてしてねェ
毎日騒がしいが、楽しい生活を送ってる
だから、親父やくいなといっしょに見届けてほしい
おれの、おれ達の行き着く先を
それから…おれを産んでくれてありがとう
親父とお袋に出会えて、本当によかった