子の未来(逃亡編)
“偉大なる航路”の海上でひとつの海賊団が壊滅した。
壊滅せしめたのはモンキー・D・ルフィ元大佐とウタ元准将である。
今や海軍から追われる身となった2人だが敵は海軍だけではない。
2人の身柄目当てで襲撃してくる海賊も存在するのだ。
そんな海賊を返り討ちにしたのである。
海賊たちを拘束した後、ウタは船内に残党が隠れていないか確かめるべく“見聞色の覇気”を発動させると積み荷の中から気配がひとつ見つかった。
なんと箱の中に赤ん坊が入っていた。
乳歯が何本か生えてるし1歳くらいだろうか?
黒髪の女の子だ。
箱の中の赤ん坊について海賊たちを搾り上げて問い詰めるも知らないの一点張り。
いわくこの積み荷は半日ほど前に街から奪ったばかりで中身の検分は終わっておらず、おそらく親が赤ん坊を襲撃から守るために箱に入れていた所を、箱ごと奪ってそのまま船に積んでしまったんだろうとのことだった。
「これも何かの縁なのかな…」
ウタは宝箱に隠されていた所を赤髪海賊団に拾われることになった、自分の境遇を思い出す。
だがこの子はウタと違い、故郷の場所が分かっているし、実の親が生きている可能性もある。
元いた場所に送り届けなければ。
そう決意したウタは腕の中で大人しく抱かれる赤ん坊を見て、なんとも言えない微笑ましさを得た――のも束の間、赤ん坊がウタの胸元に吸いついた。
「ちょっと⁉︎吸っても出ないからね⁉︎」
「ん?出ねぇのか?」
「出るか‼︎」
思わず入れたツッコミに驚いたのか赤ん坊は吸い付くのをやめてくれたが今度はぐずりはじめた。
「あー、ごめんね…よーしよしよしよし」
赤ん坊を揺らして宥めつつ、アホな発言をした幼馴染に常識を説く。
「ルフィ、ええと…母乳っていうのは子供を産んだ人じゃないと出ないものなんだよ…不思議なことに」
「不思議なことに⁉︎そんなワケがあったのか」
…この幼馴染は胸が大きくなれば母乳が出ると思っていたのだろうか?
いや、そもそも子供を作るためにはどんな行為をするのか分かっているのだろうか?
まさかコウノトリやらキャベツ畑やらを信じていないだろうな。
そんなことを考えていたら拘束していた海賊たちが囃し立てはじめた。
「歌姫の授乳プレイ……ありだな」
「面白ぇモン見た」
「ウタちゃん、おれも!おれも吸いたい!」
海賊らしいというかすごく下品なヤジを飛ばされた。プレイ言うな。
「蹴り飛ばすよ⁉︎」
「歌姫に蹴られるならご褒美です!」
「むしろ踏んでください!」
「ムチとハイヒールでお願いします!」
…尋問しすぎて変な性癖に目覚めたのだろうか?
そういうのはインペルダウンの獄卒長にでも頼んで欲しい。
「もう黙ってろこの変態共‼︎」
赤ん坊が号泣してしまったのでウタは宥めるためにしばらく子守唄を歌い続ける事になった。
「育児って大変なんだね…」
件の襲撃された街に到着するまでのおよそ半日の間、ウタはルフィに操船を任せて赤ん坊の世話をした。
しかし、オムツやら離乳食やらと(敵海賊の)船医からの知識の実践の繰り返しと、事あるごとに泣き叫ぶ赤ん坊という小さな暴君への対応で、疲労困憊の有り様である。嵐の様な半日となった。
シャンクスたちもこんな苦労をして自分を育てていたのだろうか…とウタは久しぶりに赤髪海賊団に恨み以外の感情を抱いたのだった。
幸い、赤ん坊の両親は怪我を負いつつも生きており、襲撃後に必死で赤ん坊を探していたのですぐに見つかった。
一応変装はしていたが街の状況の為かお尋ね者である事には気付かれずに済んだ。
あるいは気付かないフリをしてくれたのか。
懸賞金のかかった海賊たちの身柄と引き換えに食料や物資を分けて貰えたりもした。
涙を流して感謝されて2人も泣きそうになった。
まだ僅かに見える街を眺めながら、船上で身を寄せ合うルフィとウタ。赤ん坊の世話という体験を経て考えることは2人とも同じだった。
比翼連理の言葉が似合う男女、まして伴侶以外の全てを失い、共依存に陥っている2人が自分達の子供を望むのは、もはや理屈を超えた生物としての本能か。
「ルフィ…いつか…今は、とても無理だけど……いつか落ち着いて暮らせるようになったら…赤ちゃん、欲しい…ルフィと私の…」
「いいなぁ…じいちゃんがなんで曾孫の顔見せろって言ってたか分かった…そうだな、10人はほしいなァ!」
「あはは…そんなに産めるかなぁ?…ビッグマムじゃあるまいし」
逃亡中の身の上であることは理解している。
身重になれば逃亡どころでは無くなる事も、生まれてきた子に苦難の人生を歩ませてしまう事も分かっている。
…きっと恨まれるだろうという事も。
それでも望んでしまうのだった。
子の未来(海兵編)
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