婚礼衣装大好きのデスピアン
阿刀田酒瓶クラッシャー「私は婚礼衣装大好きのデスピアン!」
花嫁のようなヴェールを被った八面体のデスピアンはそう名乗った。デスピアンの目の前で宙に浮く分厚い機械は神父の持つ聖書のように見えた。
「婚礼衣装大好きのデスピアン?」
「ゲキガミ、また碌でもないのを生み出したわね」
シュライグとフェリジットは即座に臨戦態勢に移る。こんな巫山戯た相手でもデスピアンである。
「食らうがいい。白無垢ビーム!」
フェリジットに向けられた奇跡の力をエネルギー弾で相殺しようとしたが、相手の力の方が強かった。
「フェリジット!」
シュライグは咄嗟にフェリジットの前に出る。そして奇跡の力をシュライグは浴びてしまった。奇跡の力によって物質は改変される。
「シュライグ…服が!」
「なんだこの衣装。動きにくい」
煙が晴れると、シュライグは白無垢を着ていた。
「たまには男の白無垢もいいよね」
そのデスピアンは独り言つ。やれやれと言った様子で宙に浮く機械で自分の頭あたりを軽く叩いている。
「こいつ上位個体か…」
「そうね。流暢に喋るし奇跡の力まで…今までデスピアンとは一味違うわ!」
「そうだ。私はデスピアンの中でも意識を保ったまま変異出来た人間だ」
デスピアンは上下に伸びる。そして遠い過去を振り返るように喋り始める。
「祝福の日、ホールの力によってドラグマの人間は姿を変えた。絶望する声やそれでも信じマクシムスに祈る声、雄叫びや混乱の中で、私の脳内にあったのは一つの姿だった」
「なんだったんだ?」
白無垢のシュライグは息を切らせながら言った。まだ奇跡の力によってのダメージが残っている。
「週間ドラグマVol.1000記念グラビア!ウェディングドレスのフルルドリス様だ!かの聖女は鎧の下であのような願望を持っているのかとむせび泣いた。誰か貰ってやれよとマクシムスに叫んだのだ!」
そしてデスピアンは体を震わせた。
「いや、あの時の私はそれだけを思ったのではない。その姿は美しかった。これまで見たなによりも。そしてこれからの生涯に呪いのように記憶に残り続け、私の心を蝕んだのだ」
この話の間にシュライグは体勢を立て直していた。白無垢を脱いだり破いたりすることは出来なかったが、どこまで体が動かせるかは図ることができた。
「フルルドリス、何やっているんだ!」
「か、悲しきモンスターね…」
お喋りの時間は終わった。再びデスピアンは奇跡の力を充填する。
「そこの女。今度はウェディングドレスを着せてやろう!」
「ちっ…」
白無垢のシュライグはデスピアンの方に駆け出した。シュライグの武器は改変時に巻き込まれてしまっている。体を十全に動かすことは出来ないが、全身を使った動きなら可能だ。
シュライグは足を大きく開き、側転をするように蹴りを放つ。しかしそれをデスピアンは避けようともしなかった。
「婚礼衣装の者がそのように足を開くのは端ないぞ?」
白無垢のシュライグの蹴りはデスピアンに響いていないようだ。
「婚礼衣装を着ている者に私は傷つけられんよ」
余裕を持ってデスピアンは答えた。
デスピアンはエネルギーの充填を終えてフェリジットに発射する。
「フェリジット!」
「シュライグ、こいつの攻略法が分かったわ!」
彼女は狙撃銃を捨てる。そして奇跡の力をその身で受けた。煙が晴れるとフェリジットの服はウェディングドレスになっていた。
「ふっふっふっ、婚礼衣装が二人。いい景色だなぁ」
デスピアンは満足そうに高らかに笑った。
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「何だ?」
「この衣装ってフルルドリスが着てたやつ?」
「そうだ。どうかしたのか?」
フェリジットは狙撃銃を拾う。そして自分の下半身に向って銃口を向けた。
「何をする気だ!まさか…」
「マクシムスならこんなアレンジしないわよね!」
エネルギー弾が服を破った。白い布が地面に落ちる。
「ミニスカウェディングドレスだとぉ?」
デスピアンは明らかに狼狽した。
「それはアリだ。いや、かなりいい…こんなものがまだ存在していたのか?」
そして聞き取れない大きさの声でブツブツとなにかを呟く。
「あら、好評ね。ファッションリーダー名乗ろうかしら?」
「不遜が過ぎるぞ。フェリジット」
「いいじゃない。巫山戯た相手には巫山戯た攻略法よ」
そのデスピアンの根幹にあるのはフルルドリスのウェディングドレスが最も美しいという認識だった。それを崩すことでこのデスピアンの存在理由を曲げる。
シュライグはデスピアン殴った。腰の入っていない拳でも動揺したデスピアンにダメージが入る。
「シュライグ、ちょっと退いて!」
フェリジットの放った一撃がデスピアンを貫いた。そしてデスピアンは大きく爆発した。
地上部隊のルガルは連絡を受け取った。シュライグとフェリジットの着替えを持って来てほしいとのことだった。
フラクトールやケラスを向かわせようとしたが、ルガルに来てほしいとシュライグは力説したのだ。
ルガルは仕方なく。二人分の服を持って、指定された地点に向かった。
そこにいたのは花嫁と花嫁だった。
「プッ、シュライグ…お前…似合ってねえ!」
笑いを堪えようとしたが、ルガルには無理だった。
「そんで上位個体か。記録にはないな。初めての遭遇…ププッ…シュライグで良かったな」
「良くないが?服を寄越せ」
「おう」
服を受け取ったシュライグはそそくさと物陰に移動した。
「で、フェリジットは着替える必要があるのか?」
「あら、私には似合いすぎちゃった?」
「いつもより露出低いし、シュライグと一緒に歩けば歓迎されるぜ」
「冗談。着替えるわ」
フェリジットも服を貰ってさっさと物陰に行った。
一人になったルガルは壁により掛かる。ルガルは少し考えた。上位個体、厄介すぎる相手だ。
今回は婚礼衣装を性癖とするデスピアンだった。そいつは奇跡の力を使う。奇跡の力は物体を改変することが出来る。
もし、残虐な相手が現れたとしたらどうなる?
こちらの火力を上回る奇跡の力を使う相手に鉄獣戦線で対抗できるのだろうか。
ルガルは首を振った。「もし」の話でもシュライグやフェリジット、そして仲間たちが傷つく姿を想像しそうになったからだ。
シュライグの呼びかけにルガルは答えて三人で拠点へと移動を始めた。