娘という生き物は
いかに腹を痛めて産んだ子供であろうと、一目見て親子と看破されるほど似ていようと、母と娘は別の生き物である。これまで子を育てて来た身として、自分自身に言い聞かせてきた言葉であり、実感してきたものだ。
しかしそれを踏まえてなお言わせてほしいというのが、平子の出した結論である。
「……いや、なんでやねん」
娘がここ最近、テレビの向こう側のタレントにハマった。ここまでは良い。若い娘から人気のある、いわゆる甘いマスクのアイドルやかっこいいイケメンではなく、よく言えばダンディーな、悪く言えば枯れかけたオッサンにハマったのも百歩譲ってよしとしよう。
しかし、だ。
「はあ〜、やっぱりドン・観音寺カッコええわ……」
その相手が胡散臭い霊媒師というのがまっったく理解できない。
これまでの少女漫画趣味だとか、料理や菓子作りに凝っているのは、よく分からないなりに理解できたし、平子以外の誰かしらが共感していたものだ。平子もまあ、あまりに特殊な環境なりに女の子らしく育ったものだと安堵したのを覚えている。
だが、娘が恋する乙女のように夢中になった初めての男がこの霊媒師というのは、母として死神として、色々言いたいのである。ぐっと我慢しているが。
「一応ホンモノではあるんやけどなァ」
「あんなの見えるだけやん」
「何が良いのかさっぱりわからねえ」
「あれくらいの魂魄に何分かけとんねん」
後ろでコソコソ囁きあっているのは娘には聞こえていない。なぜならハッチが結界を張っているからである。娘の夢を壊すような真似をしない程度には、平子もその仲間たちも娘に甘い。
もっとも、聞こえていたとして娘の熱が冷めることは当分ないであろうが。
テレビに夢中になって黄色い歓声をあげる娘の背中を見て、平子は何度目かわからないため息を吐いて、ボソリとつぶやいた。
「……娘って、よう分からんわ」