委員長 夢小説
地面から突き出てきたピンクのビームが手に持った大剣をはじき飛ばし、それと同時に忌々しい程白いひし形のような物が回転し、私の足、その筋肉や血管をめちゃくちゃに破壊する。目の前にいるのは、角張った体を浮かせた崩壊帝王。どう考えてもB級戦乙女がなんとか出来る存在ではないが─それでも、やらなければならない時がある。こと、配属された片田舎で慎ましく暮らす、善良な一般市民とそれを護送する同僚とを逃がすような時には。彼女らはうまくここから脱出できただろうか?私が塞いでいた退却路を見やれば、その背中はもう見えない。その事実に安心して、迫りくる死を前に瞼を閉じる。
そう、あれは太陽の光が温かい午後の事だった。揺れ動く葉が重なり合い、その姿が融合して影になる。そろそろ年齢が二桁になるかという頃、私はその下で本を開いてその世界に没頭していた。毎週訪れる、なにも変わらない日常。だからその日が正確には何月何日だったとか、時間帯とか、周りの光景とかは正確には覚えていない。ただ、その数分だけがぼんやりとした記憶の中で鮮明に輝いている。崩壊とは忌々しい物で、文明があるところにはどこでも現れるらしい。いたいけな少女が本を読んでいる公園にも。確かその時現れたのも、今私を殺そうとしている崩壊獣だった。私は逃げ出すのが少し遅れて、気がついたときにはもう目の前まで崩壊獣が迫っていて、幼いながらに死を認識した私は震える暇もなかったのを良く覚えている。
『寸勁・岩破!』
その刃が私の体をかき切るより早く、人影が崩壊を殴り飛ばした。灰色を長髪を下ろし、黒いジャケットを着た女性。バランスを崩した敵を数十秒で屠り去った彼女は笑みを浮かべて、私を優しく抱き起こした。
『大丈夫でしたか?』
母親のような優しい声。その人は私を避難所まで送り届けると、また別の場所へと出撃していった。
『あなたの名前は?』
その一言を聞く時間すら無かった。その後私はすぐに引っ越してしまったので、助けてくれた戦乙女の名前すらもわからなかったが、その高々五分が私の人生を変えてしまった。天命に入り、崩壊と戦う。初めて告げた時、両親は頭を抱えていた。兄に「あんなのは馬鹿のやることだ」と言われたこともある。試験を突破して訓練学校に入ったとして、すぐ彼女のようになれるわけではない。それどころかいくら努力しても─いや、すればするほど記憶の中のあの人との差を実感する毎日だった。かつて思っていたほど強くもなれなかったし、灰色の髪の彼女とは再開できなかった。
それでも良いのだ。
走馬灯が終わり、私の体に菱型が迫った、その時。
「仙法・人極!」
記憶の中で何度も再生したのと同じ声が響いて─目を開ければ、どこか懐かしいシルエットが、青と白の着物を装甲も着て、眼前の敵を腕甲で屠っている姿が映る。幻覚の類かと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。増援は瞬く間に崩壊帝王を単なる崩壊エネルギーの粒に分解してしまった。
「大丈夫でしたか?」
あの時発した物と同じ言葉を発する彼女があの人と同一人物だと告げている。その姿形はその頃とまるで変わっていない。冷静に考えると可笑しいのだが─それでもなお、私はそれが嬉しかった。足に負傷しているのを見て取った彼女が私を抱き上げる。その顔をまじまじと見ていた物だから、あちらも疑問に思ったらしい。
「あの…私の顔になにか?」
それを笑って誤摩化して、今度はこちらが質問を投げかける。幼い頃のそれを。
「あの…あなたの名前は?」
まだ表情に疑問を残しながら、相手は答える。
「フカ。A級戦乙女のフカです」