始球式SS
Q.どうしてこんなものを書いたんですか?
A.流れに乗るしかないと思って……
「……」
「……なにやってんだこれ……」
担当の隣で困惑するトレーナー。
「始球式に出ることになったので相談に乗ってほしい」と言われ、見せられたのは過去にチームカオスの面々が始球式に参加した時の映像。
そこには、始球式なのになぜかバッターボックスに立ち、あまつさえホームランを放つウマ娘や、ボールではなくアイスクリームメーカーを投げるウマ娘の姿があった。
「前はこういう感じだったっていうから、あたしも何かすごい事した方がいいのかなーって」
「……いや、チームカオス枠だからって奇をてらう必要は」
「いやなんかほら、それだと負けた気がするじゃん?」
頭を抱えるトレーナー。問題児だらけのチームに自分の担当が毒されてるんだからそりゃ当然だ。
「気持ちはわからなくもない、が……」
これだけの事をしでかしておいてこのチームのメンバーを呼ぶということは、向こうも少なくとも悪く思ってはいないのだろう。
しかし、それで万が一選手に怪我をさせるような事があってはならない。種目は違えど、それはスポーツに携わる者として絶対に許されない。
「うーん……だったら、こういうのはどうだ」
そしてやって来た始球式当日。
勝負服姿でマウンドへと上がるギャラントクイーンの姿に、観衆や両軍の選手たちの視線が集まる。
今年のチームカオスのウマ娘は何をしでかすのかという期待と若干の不安、あとでっかいおっぱいに。
主審のコールを合図にホームベースに正対したギャラントクイーンが大きく振りかぶり……見事なスリークォーターから放たれる白球。
それは、10代の少女のものとは思えないスピードでキャッチャーミットへと吸い込まれた。
バットを振るのも忘れ、キャッチャーミットとマウンドを交互に見るバッター。
思わずキレッキレのポーズでストライクを宣告する審判。
そして、電光掲示板に表示されたのは、今のプロ野球でもそうそうお目にかからない球速。
その数字に、実況と球場がどよめく。
――トレーナーが提案したのは、ウマ娘の身体能力にものを言わせた火の玉ストレート。
関係者に迷惑を掛けず、かつ観客を沸かせるには?という別に答えなくてもいい難問に対して無い知恵を絞って考えた結果である。
彼はこのために毎日キャッチボールに付き合った結果、思った以上に張り切ってしまい筋肉痛になったのだが。
「彼女がレースの世界に生きるウマ娘でなければ、是非うちの球団に来てほしかったですね」
ベンチで見守っていた●●監督は、試合後のインタビューで報道陣に対して冗談めかしてそう語ったという――