始まりの技
火椿流決戦闘術、という武術がある。
火椿流決戦闘術創始者「火椿・天嶺(ホツバ・アマネ)」が生み出した我流武術。
その技は、護るべき者を守るため、あらゆる敵を最速で穿ち。
その技を振るう者は、一瞬の反撃すら許さずに殺す為に生み出された技の数々を行使し。
己が背後で助けを乞う人々を護るために、一歩たりとも退かずその場の動作のみで、武器が無くとも己が五体のみで、最大最速の威力を以て敵を撃滅するための技を継承し続けるモノたちが使う武術だ。
火椿流決戦闘術 01式 捩花(レッカ)、という技がある。
01式の名の通り、火椿流における最初に生み出された技。この流派のあらゆる技の基礎であると同時に、真髄が詰まっているのも、この技と言えるだろう。
この技を作った初代が戦っていたのは人間社会の夜闇に潜む人喰鬼等の吸血種、人の知恵を用いて武装した怪物達だった。
それらは、人が作った《機構兵装(アーマー)》にてタダでさえ強靭な体を更に護りを固め、愉しんで人を嬲り殺しにする畜生共。
そんな外道悪鬼どもから人々を護るために立ち上がった彼女が編み出したが故に、『防具の護りを過信した怪物共』を殺す為の技でもあるのがこの技であり、火椿流の技の数々である。
そんな技の現代における継承者、当代である12代目にとって、01式捩花は最初に覚えた技だ。
最も、歴代は皆1~10式までの技をまず習得するので、それ自体は特別な事ではない。
だが、数十を超える技を覚え、己の方向性を定めた後でもこの技を好んで使うのは、初代を除けば彼位であった。
彼が初めにこの技を練習用の木人ではなく、"敵"に対して使ったのは、10歳も終わりと言った頃である。
この時はまだ、家を出て拾われた先の人形職人であり今世における育ての父からは「己を護り、力を制御する護身術」として教わっており、事実彼自身も、他者に対して本気で使う事になるとは、夢にも思っていなかったのである。
彼が買い出しに出掛けている最中に、それは起きた。
何処にでもあるような、入り組んだ路地裏の廃墟で、人が襲われていたのだ。
軍の廃棄品を、廃材を搔き集め粗雑な修理を行い動かしているのであろう、数メートル程の《機鎧(マシン・メイル)》をリーダーとした、自警団を名乗るチンピラ共。
周囲を彼らに囲まれて、追い立てられている███の██と███の██達。
あの時の自分は最初、助けに行こうとは思っていなかっただろう。
機鎧は人を遥かに超える膂力を誇る鉄の塊だ。化け物といっても過言ではない。
そんなモノを相手に、たかが左腕が奇怪なくらいの少年が、出来る事は無いと知っていたからである。
——だけど、助けを求める眼で此方を見た██達を見て、気が付いた時には、██と機鎧の間に立ち塞がって居たのだ。
後は、もう流れだ。
どうにかなれ、と思っていた気もする。
覚えている事と言えば、左腕を使った01式で機鎧を吹っ飛ばして、載っていた男がギリギリ死ななかったから、復讐心より恐怖が勝った自警団共が逃げて行った事くらいである。
感謝を、された気がする。
誰かはもう覚えていないが、今世においてアレが最初に、"望んで人を助けた"瞬間なのだ、という事だけは、強く覚えている。
アレが火椿・陽彩のオリジンだ。
彼が、最初にヒーローとなった瞬間があそこだった。
火椿流決戦闘術 01式 捩花は彼にとって、「自分をヒーローにした技」であり、「自分がヒーローであるという証明」でもあるのだ。