女性の地位が低い国
獅子くん昔、女性の地位が低い国家があった。
その国家は戦争もなく財政にも恵まれ、美しい景観や上質な料理が人気だったが笑っているのはいつも男性の国民だけ。
女性は選挙権を得られず、家事を全て押し付けられ、安い給料で働かされる。
『産む機械に学は不要』という理由で義務教育を受けられないし、男性から受けた性加害を訴えることもできない。
多くの服屋は女性が着飾ることは織物の無駄と主張して服を売らないので、皆見窄らしい格好をしていた。
没した女性は放置すると腐敗して臭いので土に放られるが、葬儀の類はない。
嫌気が刺して逃げ出そうにも女性は出国を許されておらず、一生を此処で過ごすしかない。
それが皆の共通の常識であり誰一人問題と思っておらず、この国に女性として生まれることは不幸でしかないのだ。
しかし、それをよく思わない者がいた。
国の王子と、その妹である王女だ。
二人は父と共に隣国を訪れた際にそこに住む幸せな女性の姿を目撃し、自分の国との環境の違いに疑問を抱いたのだ。
隣国では女性は男性の奴隷ではなく、着飾ることも選挙への参加も学校に行くことも許されており、活力に溢れている。
国境に隔てられただけで、何故こうも環境が異なるのだろうか?
彼らは劣悪な環境で男性に虐げられる女性を救いたいと願ったが、彼らの父である国王はレイシストで女性差別を問題視しない。
王族の者とはいえまだまだ未熟な彼らには、常識を覆すことは難しかった。
ある日のこと。
王子は父の目を盗み、城の厨房にこっそりと忍び込んだ。
宮廷に仕えるシェフの一人が手を怪我したと聞いて、自分が代わりに料理をしようと考えているのだ。
本来は王子が自ら出向くことはない場所なのだが、鍵はないので侵入は可能。
執事たちは王子が散歩に行っていると思っているので、探しに行かない。
彼は料理についての知識は全く無いが、心配は一切していなかった。
丈夫な石窯は火事に強いし、食材とレシピはそこにあるから拝借すればいい。
知識はないが、とりあえず野菜を切って並べておけば見栄えはいいだろう。
そんなふうに料理に対して甘い認識を持っていた彼は、レシピを開いて眺める。
数時間後、誰もいないはずの厨房から煙が出ていることを怪しんだ国王は自ら確認に赴いた。
王子があろうことか釜の前に立ち、燃える炎に向かって薪を投げている。
その後ろには彼が作ったグリル野菜のスープや干物の網焼き、タフチーンといった豪勢な料理が並んでいるのだから王が腰を抜かしたのは言うまでもない。
「父様、盗み食いはやめてください。」
「いや、そもそもお前は……こんなものを作る才能があったのか?」
王子は火から目を離さないまま、王の問いに答えた。
「僕はただ、レシピの通りに作ってみただけです。」
「馬鹿馬鹿しい。料理など女共に任せておけばいいものを。」
「今日は怪我をしたシェフの代理です。完成したら、試食して頂けますか。」
国王は料理など女の仕事だと考えていたので、その美味しさが悔しかった。
悔しいけれど、これを拒んだら二度と食べられなくなってしまう。
男なのに料理の才があるとは………。
「お父様。シェフも護衛隊も人手不足です。これを機に男性の料理人や、女性の兵士を雇ってみてはいかがでしょう。」
国王はそれ以来自分を反省し、それから女性差別は全てなくなったという。