女帝と悪魔の子、出逢ってしばらくたった東の海時代の小噺
↓このスレの概念にはっちゃけて書いた 以上
※シャボンディ諸島から逃げ、東の海に落ち着いたころのハンコック&ロビンの小噺
※フーシャ村の風車小屋でかわされた、二人だけの秘密の思い出イメージです
――降るような星空とはこんなものを指して言うのだろう。
私ことニコ・ロビンは小高い場所に設けられた窓辺でそんな風に思った。
修理のために止められた風車小屋。
その一番上階で航海の役に立ちそうな観測法について勉強していたはずが、いつの間にか夜空を彩る瞬きの方に気を取られてしまっていたらしい。
名の通り、風車がいくつも並ぶこのフーシャ村に落ち着いてもう何日経つだろう。
まさかかの有名な海賊王の右腕、冥王シルバーズ・レイリーに保護され、東の海(イーストブルー)で過ごすことになるなど数か月前の私に言っても信じられない事態だ。……まだ誰かを信じられる気持ちが残っていた事にも、少しだけ驚いてしまったのは秘密だけれども。
盗み聞いた限りでは私があの時シャボンディに連行されたのは、一度マリンフォードへと送るためだったらしい。オハラについて何か確認があったのか、それとも海軍上層部の誰かが手を回したのか。真相は分からないままだが、おかげでいくつもの偶然と善意が重なって私は再び自由の身となった。
広げられた天鵞絨のような空の黒を見上げ、助けてくれたひとつ年上の少女の髪を思い出す。
海軍に捕らわれた私の手を取り、一緒に逃げてくれた彼女…ボア・ハンコック。
多くは語らないが、彼女もまた囚われていた所から逃げて来たばかりで他人事のように思えなかったのだという。そんな事情を差し引いたとしても、助けられたという恩義ができたことに変わりはない。
そこからは幸運の積み重ねだ。
ハンコックと彼女の姉妹たちを保護していたレイリーに引き会わされ、オハラの生き残り(私)を助けたことで懸賞金をかけられた彼女を守るための引っ越し。最短距離でカームベルトを横断(できるのね⁉)して、比較的平和なゴア王国へ。そしてその中でも特に辺境で、けれど穏やかな人の多いこのフーシャ村に辿り着いたのだ。
思い返してみれば、住みやすかっただろう隠遁地を引き払わせ、恋人?内妻?と引き離してしまった申し訳なさが襲ってくる。本人たちは気にするなと言ってくれたが、この生活がどれくらい続けられるか分からない以上は早く立ち去るべきなのかもしれない。
肌寒さのせいだろうか、気持ちと思考がどんどん冷えていく中。
鈴を鳴らすような声が、心を揺らすような声が下から響いてきた。
「ロビン、まだ勉強に時間はかかりそうか? 置いてけぼりを食らったサンダーソニアたちも拗ねて先に寝てしもうたぞ」
窓から見下ろせば、まだ15の私からすれば塔のようにも思えてしまう高さだ。その先に、絶世の美少女として名を轟かせ始めている恩人が此方を見上げていた。
……腰の柔軟性に自信があるのか、"踏ん反り返る"ような体勢になっているのは、そのうち指摘した方が良いかも知れない。
「ごめんなさい。ベッドを狭くしてしまうのも心苦しくて……それにあまりに綺麗な星空だったから、つい長居してしまったみたいね」
「お主、少し周りに気を使いすぎる所があるな!」
ふんっと鼻を鳴らす仕草すら愛らしいとは何事だろう。
将来、どれ程の美女になるか分からないがこの愛らしさが損なわれないことを切に祈りたい。可愛いのは素敵なことだもの。ね?
もう少しだけ星座の観察をしたら戻るから、と弁解して先に帰るようハンコックに告げる。しかし、彼女はわずかに逡巡した様子で首を横に振った。
「――ニコ・ロビン。お主は相当物知りのようで…だから…その。わらわは、今まで九蛇とアマゾン・リリーのことしか知らなんだが……」
もじもじしながら、これから自分も妹たちも守りながら生きていくのに『知識』という力も付けて行きたい、と伝えてきた。もし叶うなら、私にその手伝い――世界に関する授業――をして欲しいと。
助けてもらったお礼がまだ出来ていなかったのだから、これは私にピッタリな恩返しになるかもしれない。
「勿論よ。答えられる限り、私は答えるわ。
貴女の目標の支えになれるか分からないけれど、力になりたいもの」
私の返事にぱあっと明るく笑った、彼女の顔。
それは空に輝くどの星よりも綺麗で、どの星も敵わないほど眩かった。
…だからこそ、最初の授業希望には面食らってしまったのだけれど。
「では、これから教えてくれ。 "恋" とはどんなものなのであろうか?」
世界で一番きれいなお姫様。あなたはどんな恋をするのかしら?