女剣豪×探査機=小旅行 Ⅶ (2/2) -終-

女剣豪×探査機=小旅行 Ⅶ (2/2) -終-

名無し

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


────1時間程前


武蔵「……ふう……、気持ちよかったー♥️」


入浴を終えた二人は着替えを済ませた。贅の限りを尽くした事もあって、武蔵の肌はとてつもなく艶やかだった。


ボイジャー「………………」

(きもち…………よかったな…………)


自身もたっぷり快楽を味わいはしたものの、性の獣を相手取った代償としてボイジャーは半ば屍と化していた。


武蔵「ありがとうボイジャー♥️

お陰様で、忘れられない1日になりました!」


ボイジャー「よろこんで、もらえたようなら うれしいな……」


武蔵「はー満足…………うっ!……」 


ピロートークもつかの間、武蔵が苦しげな声を上げる。


ボイジャー「……むさし!……まってて!またあのあかいこなを!」


武蔵「……あー、いいのいいの……貴方を可愛がりたい一心で持ち堪えていたけれども、そろそろみたい


彼女の体は仄かに透き通っていた。


武蔵「……ボイジャー、土壇場になってしまったけど、貴方に帰る為の術を教えるわ」


武蔵は刀を引き抜き、その銀光を闇に奔らせる。すると数秒も過ぎぬ内に、近くにそびえていた竹の一本が輪切りとなってバラバラと崩れ落ちた。


ボイジャー「──う、わあ」


焦りも忘れてボイジャーはその剣の鮮やかさに見惚れた。そんな彼の前に、ずいっと、ある物が差し出される。


武蔵「これを、食べて、半分くらい」


ボイジャー「これは──」


金色の小筒が、そこにあった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


────そして現在。



ボイジャー「(けぷっ……)のみおわったよ……!」


武蔵「やり遂げたわね……!御見事なり……ってボイジャー、貴方、また光って」


大量の魔力を摂取した影響か、彼は光に包まれ、またもその姿を変貌させる。

光が収まった後、そこには宇宙服の上に茶色のジャケットを羽織り、首に巻いた金のマフラーをゆらゆらとさせるボイジャーの姿があった。


ボイジャー「ん……この姿は……」


武蔵「……か……」


ボイジャー「か?」


武蔵「可愛い~!もともと空位並みの可愛さだったけども、だぼだぼもちもちしてそうでこの姿も可愛い~♥️育ち具合も御仏の御業~!」


消え入りそうな様相など何処吹く風か、辛抱ならんといった調子で武蔵はボイジャーに抱き付いた。


ボイジャー「わっ、──武蔵ちゃん、動いて大丈夫なの?」


武蔵「好きな子の成長ですもの、噛み締めなきゃ損ってもんでしょう!」


ご満悦の表情を浮かべる武蔵。


口調こそ力強かったものの、

彼女の腕からボイジャーに伝わってくる力はどこか頼りないものだった。


ボイジャー「──ふふ……」


ボイジャーは抱擁を嬉しく思いつつも、寂しい、悔しいという感情を覚えずにはいられなかった。


表情はお互いに見えない。


彼はせめて彼女を少しでも気負わせまいと、精一杯、彼女を抱きしめ返す。


抱きしめあって少しの間、雰囲気に浸った後、ボイジャーは武蔵に問うた。


ボイジャー「……武蔵ちゃんはさ、何か悔いは、無いの?」


武蔵「んー、無い!やりたい事はやりきりました!」


ボイジャー「……それじゃあさ、何か言伝てはあるかしら?マスターや、皆に」


武蔵「そうねぇ、……マシュちゃんと、いや今はエリセちゃんと、か。

まあとにかく……元気で皆と仲良くねって立香達に伝えて」


ボイジャー「わかった、約束するよ」


武蔵「ありがとう……さて、湿っぽいのは好きじゃないし、そろそろ発ってもらいましょうか」


武蔵は腕の力を弛めて、ハグを終えるよう促す。

ボイジャーはためらいがあるようだったが、彼女に応じて腕をほどいた。


武蔵「行ってらっしゃい、私の王子様。元気でね」


ボイジャー「……武蔵、今日はありがとう、……行ってくる」


ボイジャーはふわりとその体を浮かべ、ある程度浮かんだ所で勢いをつけ、空へと飛び立っていった。


武蔵は、月を背景にシルエットを小さくしていくボイジャーを見上げながら、脱力して大の字に寝転んだ。


武蔵「……は~~~、行っちゃったかぁ……。とびきり可愛くて素敵な男の子だったなあ……」


武蔵「にしても、格好つけちゃったなぁ……まぁそりゃ私だって叶うなら続けられる限り楽しくやっていたかったし、うどんも食べたかったけども──」


彼女は目を閉じ、今日一日を思い返す。


武蔵「……この上なく楽しませてもらったしね、贅沢言っちゃあ罰が当たるか。本当にありがとう、ボイジャー」


余韻に浸り、ひとりごちる武蔵。

そんな彼女の頬を、そよ風──と形容するには勢いのある風が撫でる。



「なんだ、後悔、まだあったんじゃあないか」



武蔵「え……?」


唐突な声に反応した彼女が目を開くと、その視界にはボイジャーの姿があった。


ボイジャー「ごめん、やっぱり、戻ってきちゃった」


武蔵「どうして、え……?」


武蔵の困惑をよそにボイジャーはマフラーとジャケットを脱ぎ、彼女に纏わせる。そして彼女の体を両手で抱え、持ち上げた。


少年の体躯と言えど彼はサーヴァント、ましてや魔力に満ちている今の彼にとって、お姫様抱っこなど造作も無い行為だった。


武蔵「あら、昼間とはあべこべね」


ボイジャー「きみの望むものではないかもしれないけれど……、僕に返せるものは、もうこれぐらいしか無いから」


武蔵「どうするつもりなの?」


ボイジャー「星を、見に行こう。この世で一番美しい星を」


武蔵「……ふふ、合点が行ったわ。今際の際もいいとこだし、飛ばしちゃってくださいな、飛行士さん」


ボイジャー「わかった、リフト・オフ!」


そうしてボイジャーは再び飛翔した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


風が吹き木々が音を立て揺れる山の中、光を放ちながら空高く昇っていく彼らの姿を眺める二人組がいた。


「おや、飛んでいきはったねぇ、一度戻っていった時はどないしはったんやろ思たけれども、無事に事は済んだみたいやね」


「何を悠長な事を言っているのだ酒呑!

いやそもそも一体全体、今日はどうしたと言うのだ!

吾らの縄張りに立ち入った不届き者どもを成敗せんとすれば急に吾の目と耳を塞ぐわ、その上あ奴等を放っとこうと言い出すわ、手下達にも手出し無用と命令するわ、おかしいぞ!」


「ふふ……まあそういう風の吹き回しの日があってもええやないの」


納得がいかず、ぎゃーぎゃーと騒ぐ相方を宥めながら、空を駆ける金髪の少年の姿を眺め、鬼は目を細めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ボイジャーは武蔵を抱えたまま、蓄えた魔力を放出し、空を駆け昇る。


武蔵「ひゃっほー!速ーい!気分そうかーい!」


ボイジャー「武蔵ちゃん!大丈夫?しんどくない!?」


武蔵「ええ!寒くなったり暑くなったりを繰り返してるけど!あなたの服のお陰か平気だわ!こうして喋れるし────わぁ……!」


高度100km、大気圏を突破した彼らの眼下には蒼い地球が広がっていた。


武蔵「海ってこうして見ると綺麗ね色してるのねー……あっ、あの形……あそこが日の本の国か!さっきまで私達あそこにいたんだ!本当に地図で見た通りなのね!すごーい!」


ボイジャー「前に地球を発った時は、近くでじっくり見れなかったけど……うん、やっぱり、綺麗だね」


武蔵「おっ、オーロラも見える!上から見るとこんな感じなんだー、へー……確かあそこらへんって立香達の時代だとアメリカって話だったっけ?貴方の故郷よね?」


ボイジャー「うん、そうだよ。

……といってもアメリカは広いから、僕の故郷、ヒューストンはあの陸地の……、真ん中の細くなっていってる所の、右側の付け根あたりだね」


武蔵「ふんふん、ラスベガスから東南東ってとこね。……ラスベガスからでも日本の端っこから端っこぐらい離れてるじゃない!広すぎでしょ!」


ボイジャー「ははっ、確かにそうだね、欲張りさんかも」


二人は地球に向かってあっちこっち指差ししながら、談笑を続けた。


武蔵「はー笑った笑った……、空高く翔んだり、地球じゃない星を彷徨った事もあったけどこんな景色を眺めるのは初めてよ。最後の最後に思い出をありがとう、ボイジャー」


もうほぼ透明に近いものの、はっきりとした眩しい笑顔で武蔵は感謝を述べた。


ボイジャー「──そう言って貰えて、嬉しいよ」


わかってはいたが、もうどうにもならないという事実を見せつけられるようで、ボイジャーは声を震わさずにはいられなかった。笑顔を作れているかも怪しかった。


武蔵「ほら、しょげないの!ちゃんと胸を張って!君は強い子なんだから!


細かい欲は数あれど、好きな人達が元気で笑っていてくれるのが私の一番の望みなんだからね!

そこんとこ肝に命じて欲しいな!」


ボイジャー「────うん、頑張る、武蔵ちゃんが、好きになってよかったと思えるような人を目指し続けるよ」


少年は力を込めて満面の笑みを形作る。

それを見た武蔵は満足そうに微笑んだ。


武蔵「じゃあね少年!また会う日まで!」


そう言い残し、金の光となって武蔵は消えた。

光の粒子の中に水の粒が僅かに混じっていたが、その主が誰なのか確かめる術はもう無い。


ボイジャー「……行っちゃったか…………最後の言葉、嘘じゃないと、いいな……」


少年は泣きながら、寄る辺の無くなったジャケットとマフラーを迷子にさせないよう掴みとる。


しばらく動きが止まっていたが、

もそもそとジャケットに袖を通し、マフラーをふわりと首に巻く。


そして涙を拭った後、意を決するようにゴーグルを掛けた。


ボイジャー「さて、いつまでもこうしちゃいられないし、僕もそろそろ、行こうか」


彼は魔力を放出して更に地球から離れる。

助走分の距離を確保できたところで、くるりと地球の方に体を向け、陸上選手のような構えを取った。


照準を地球の衛星軌道上に定め、厳かに宣言する。


 ボイジャー「──リフト・オフ、初速、第二宇宙速度!」


ボイジャーは秒速11.2kmで宙を駆け始めた。


地球の引力に引きずり込まれ、衛星軌道をかすめるような弧を描きながら彼は疾走し、その中で更なる加速を遂げる。


ボイジャー「──スイング・バイ!第三宇宙速度!」


秒速約16.7km──

現在の科学技術では、地球から飛び立ったものがすぐさまその速度に至る事は叶わない。


だが、探査機としての歩みが昇華された彼だからこそ許される離れ業、星の運動エネルギーを我が物として取り入れるスイングバイがその疾さを可能とする。


彼は神速を以て親たる地球のくびきを逃れ、慣性の赴くままに目的地へと旅立った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


場面は、武蔵がボイジャーに金色の小筒を差し出した時に遡る。



ボイジャー「これは──さっき、いってた、せいはいでできてる──」


武蔵「そう、それはもう、とびきり、この上なく辛~い香辛料……。この粉に秘められた魔力を、食べる事で体に取り込むの、分身が生まれない程度にね。


この霊脈温泉の源泉があっちの方にあるからそこで汲んだお湯で溶いたら更に力は増すわ」


ボイジャー「でも、まりょくをたくわえるだけじゃ、せかいをわたるには、いっぽたりない」


武蔵「そう、だから向かうの。

あの場所に、ね」


そう言って武蔵は天を指差した。

ボイジャーが彼女が指し示した方向へ視線を向けるとそこには──



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



───地球を発ってから約7時間後、ボイジャーは旅の終着点と相対していた。


ボイジャー「エンゲージ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ボイジャー「……おつきさま?」


武蔵「そう、貴方には月を目指して欲しいの、ボイジャー」


ボイジャー「でも、ぼくがかえるばしょは、かるであ、ちきゅうだ。なのにどうして、つきへ?」


武蔵「……話がちょっと逸れるけど、今回、私の現界の呼び水となった聖杯は一風変わった代物みたいでね、以前の私なら知りもしなかったような事を色々と教えてくれるの。


だから、今回のドリフトで"何処に出るか"までは読めずとも、行き着いた世界にアンカーとなる、"あるもの"が存在する事は心得ていたわ」


ボイジャー「……それは?」


武蔵「──ムーンセル・オートマトン。

月に座す万能の観測機、異星文明の置き土産よ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



少年は減速する事なく月へと突進する。彼の頭の中では武蔵の声が回想されていた。



《──ムーンセルの内部は光と情報で構成された世界、本来なら力ずくで中に入れるようなものじゃあないわ。


でも、この小筒の材料になった聖杯はムーンセルから生じたモノ。


そこに貴方の在り方が合わさる事で、これが通行手形になるわ》


星の開拓者──人類の認識を次なるスケールへと拓く偉業を成し遂げた者に与えられる称号──それは本来、その技術・物資では成し得ない難行を可能とする。


ボイジャーのこの特権は星々を渡る旅でしか適用されないが、今は地球へと帰る旅路のさなか──旅の英霊の本領である。


ボイジャー「──わ」


彼の体は擬似霊子へと変換され、光の糸の束となって月の中へと吸い込まれていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



次に彼が認識したのは柔らかな水色で満たされた光の海、フォトニック純結晶で構成されたムーンセル内部だった。


ボイジャー「綺麗……」


ボイジャーは、出来るならもう暫く、その景色を目に焼き付けていたいと思ったが月の裁定はそれを許さなかった。


アラーム音と共に、セキュリティ用の攻性プログラムが現れ、ボイジャーを取り囲む。

人型の彼(?)らは様々な武器を各々携えていた。



《──ムーンセルは貴方を招き入れてはくれる。


でもこの小筒は洗浄されているとはいえ元のラベルは悪性情報。


加えて貴方は規格外のエクストラクラス、さらにあなた自身や持ち物も異なる世界の情報を含んでいるから、ムーンセルが不届き千万と看做すには十分すぎるわ。


だから不届き者を仕留める為にあの手この手で刃を向けてくると思う》



攻性プログラムの軍勢は異物を排除せんと一斉にボイジャーへと襲いかかる。



《一人で星を相手に斬り合うようなものだから骨が折れる仕合になるとは思うわ。


でも、貴方の宝具が鍵になる──》



ボイジャー「僕は導く、人の夢、人の望み──『遥か青き星よ(ペイル・ブルー・ドット)』!」


──かつて天は神々の領域だった。


夜空に輝く星々は神話によって彩られ、人が天に至らんとする塔を建てようとすれば神雷によって打ち崩され、蝋の翼で太陽に近付く事は叶わない。


多くの人が天を目指し、時代は過ぎていった。歴史に残らない試みも数多くあった事だろう。


そして人類は、進歩の末に創り上げた機械を、希望を込めて宇宙へと送り出した。


その機械────ボイジャーは、人跡未踏の領域に足を踏み入れ、神秘に包まれた数々の星をつまびらかにし、ついには太陽の檻より逃れ、人類圏の最果てを更新し続けた。

彼が成し遂げた旅とは謂わば、神々への叛逆に他ならない。


故にこそ、彼の宝具/郷愁は、天に縁のある存在に対して力を発揮する。

異星文明の産物といえど月の眷属も御多分には洩れなかった。 


聖杯の魔力も得たボイジャーの煌めきは幾千の攻性プログラム達を光へと帰していく。


それに負けじとムーンセルは手を変え品を変え、兵力を投入する。


──兵士、トラップ、巨獣、要塞兵器。


だが、如何なフォーマット、如何な質量も、星の申し子の前には微々たる差異でしかなかった。


万象を手中に収める月の聖杯とて未だ発展途上の器、千年後ならいざ知らず、決定打を欠いたまま光の舞踏は続いていく────。



 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


全ての攻性プログラムが不可視の残骸と化し、戦いに凪が訪れる。


ボイジャー(……どうなった!?)


静寂もつかの間、ボイジャーを包み込むように正八面体型の概念障壁がマトリョーシカの如く、幾重にも重ねて形成された。


ボイジャー(これは……いや、まだ、わからない!

宝具の出力を抑え目にしつつ、全方位に常時展開!

いざとなったら、また香辛料で魔力を補充して──)


観測機と探査機は互いに出方を窺う──。


《ムーンセルは合理性の権化、"消去"が難しいと考えたら、手数がより少なく済んで且つ安全な手を指そうとしてくるはず、"解析"や"再配置"とかね。


そしてムーンセルは過去から未来まで俯瞰して認識する"記録宇宙"の理に沿って動いている──いつか未来で、おしゃまで悪魔な女の子を別の世界に送り出す事があって、追い出したい相手の住所も同じ枝だとわかったなら──》


ムーンセルの演算による不安を煽るような重低音が響いた後、

ディスプレイの映像が消える様に、ボイジャーの意識はブツン、と途絶え、黒に包まれた。


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【4月1日 14:18 ストームボーダーの霊基保管室にて】


藤丸「よし、俺はこっちのあたりにエミヤ謹製の鍋が無いか探すから、エリセはあっちの方をお願い!」


エリセ「わかった!」


藤丸とエリセは手分けをして霊基保管室の中で鍋を探そうとした──その矢先、ドサッと何か柔らかい物が落ちる音がした。


藤丸・エリセ「!?」


二人は音がした方向に移動すると、通路で倒れているボイジャーを見つけた。


エリセ「ボイジャー!!」


エリセは顔を青くしながらボイジャーに駆け寄り彼の体を抱き起こす。


エリセ「ボイジャー!生きてる!?返事をして!」


ボイジャー「……ん、……エ……リセ?」


エリセ「良かった……生きてる……!」


エリセはボイジャーを抱きしめ泣きながら嗚咽を洩らした。


ボイジャー「……ふ、ふ……ただ、いま」


ボイジャーはぼんやりしながらも武蔵に抱き締められた時の事を思い出した。


ボイジャー(むさしに だきしめられたときと、にているようで、ちがう……ほっとはするけど……どきどきは、しないな……)


ボイジャー「……エリセ、つたえたいことが、あるんだ」


エリセ「……うん、どうしたの?」


ボイジャー「きみは、すきにやって、いいんだ、りつかと、しあわせになっても、ぼくはかまいやしない。

むかしは、めんどうをみてもらったし、ぼくが、きにかけたこともあった、でももう、おたがい、だいじょうぶ、ぼくだってすきにやるさ、きおわず……なかよく、やっていこうよ……」


エリセ「ぅ……うっ……ひっ……」


エリセはうん、と言ったつもりだったが、より一層ひどくなった嗚咽に紛れて区別がつかない発音になってしまった。だが抱き締める強さが増した事が肯定の意としてボイジャーに伝わったようだった。


藤丸はしゃがみこんで、ボイジャーとなるべく目線を合わせながら問いかける。


藤丸「……ボイジャー、体の方は何とも無いの?」


ボイジャー「……からだの、ぐあいは……おなかがいたい、くらいかしら」


藤丸「えっ!お腹が痛いって大丈夫!?

武蔵ちゃんに何か変な事されてない!?

というかそもそも、武蔵ちゃんはどうなったの!?」



ボイジャー「うん、まあ、だいじょうぶ。なにもなかったよ。

むさしは……えいぷりるふーるが、おわって、いなくなっちゃった。さいごまで、あかるいひとだったよ」



藤丸「……そっか、武蔵ちゃんらしいや。……まだ4月1日なんだけど、時間の進み方が違ったのかもしれないね」


ボイジャー「……それとむさしちゃんから、ますたーへ、でんごん」


藤丸「えっ」


ボイジャー「エリセや ましゅ、みんなとなかよく、げんきでね、ってさ」


藤丸「…………わかった、ありがとう」


藤丸はすっくと立ち上がり、振り替えって二人と目線を合わせないようにしながら暫し天を仰いでいた。


エリセ「…………うん、落ち着いた。それじゃあボイジャーを医務室に送り届けて、管制室の皆に報告に行こうか。ほら、ボイジャー、おんぶするから掴まって」


藤丸「いや、その役目は俺がやるよ」


エリセ「え……ありがとう。別に良いのに……」


藤丸「俺からするとエリセももっと周囲に頼って欲しいな。お母さんになるんだし、息切れしないためにも分業は大事だよ」


エリセ「う、うん、わかった」


そうしてボイジャーは藤丸の背におぶさり医務室へ運ばれていった。


その最中、ボイジャーは体を預けながら心の中で謝っていた。



ボイジャー(ごめんね、ますたー。ほんとうは、えっちなこととか、たくさんあった。でもひみつにして、ひとりじめにしたくなったんだ。


……いいよね?

せっかくの、えいぷりるふーるだもの)



────かくして、女剣豪と探査機の一日にも満たない小旅行は終わりを迎えた。


~~~~~~~~~~~



──後日、ストームボーダーの通路にて。



金時「よお、ボイジャー!今日も元気か!?」


ボイジャー「ぼんじゅーる、きんとき!ぜっこうちょうだよ」


金時「そいつぁ何より!ゴールデンってやつだ!」


金時は恒例のごとくボイジャーを肩車する。


ボイジャー「ふふっ、ありがとう。きんときはいつも、えねるぎっしゅだね」


金時「応ともさ!それがオレの取り柄だからよ。大将も父親になるってんだからオレらが気張ってやんなきゃな!

──それより聞いたぜボイジャー!突然現れた武蔵の姐さんに連れられて京都観光行って来たんだってな?どうだったよ!?」


ボイジャー「──うん、たのしかったよ。やまをのぼったり、たけのおとをたのしんだり、たけのこをいただいたりして」


金時「……山、竹、筍……」


ボイジャー「……どうかしたかしら?」


金時「ああ、いや、すまねえ!

想像してた京都旅行と食い違ってたもんだからよ、思わず面食らっちまった!

だが流石は武蔵の姐さんだ、いぶし銀なチョイスがゴールデンってなもんだ!」


ボイジャー「いぶしぎん……まいなーろせん?」


金時「そういうこった。

でも、楽しかったんだろ?

肝心要なのはそこだぜ!


京都のメジャーな名所は機会があったらオレっちがバイクで連れてってやっからよ!」


ボイジャー「やったー!たのしみにしておくね!」


金時「おうよ!ボイジャーのスピードにゃあ敵わねぇかもしれないが、ゴールデンベアー号でのドライブでも魅せてやるよ!」


ボイジャー「ありがとう、たのもしいや」

(……そういえば)


少年はふと何かを思い出した様子で金時に尋ねる。


ボイジャー「……ねぇ、きんとき。ちょっとおしえてもらいたいことがあるんだけれども、いいかしら」


金時「おう、何だい?オレでよければ答えるぜ!」


ボイジャー「ありがとう、えっとね、その──」


少年はそっと、恥ずかしげに、耳打ちをした。


ボイジャー「……おとこのひとと、おんなのひとが、えっちするとき、"ひにん"ってどうするのかしら?」



英雄、坂田金時。


金太郎伝説の主人公や、

頼光四天王のうちの1人として名を残す豪傑。


強く、優しい。人々の理想を体現したような彼であったが、幼子の問いの前に、青とも赤とも白ともつかない顔色をして立ち尽くす事しかできなかった。


金時「……Jesus……」


何事にも表と裏は存在する。


表の輝きだけに目を取られたり、

裏の暗がりを恐れるだけでは、

どちらにせよ行き詰まる。 


事実を見据え、秤にかけて、意思を決める。知識や知恵を増やしながらそれを繰り返す。


月並みだが、誰しもそうやって歩む他無いのだ。



~~~~~~~~~~~


その後、サンソン、アスクレピオス、ナイチンゲールといった面々に深刻な表情で悩みを相談する金時の姿があった。


その相談を受けて、医療担当サーヴァント陣によるボイジャーへの講習会が金時同席の上でひっそりと行われたそうな。





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