女ヶ島の慟哭

女ヶ島の慟哭

笛とかスワロー島とか

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.時系列:2年前、頂上戦争後



 ──女ヶ島。

 偉大なる航路前半。凪の帯に囲まれたその島にハートの海賊団の黄色い潜水艇は停泊していた。

 マリンフォードでのエース処刑の場からルフィを連れ出し撤退したハートの海賊団は、王下七武海の一角である九蛇の女帝ハンコックの手引によってこの島を訪れていた。

 本来であれば男子禁制の女人国。けれど何故かルフィをいたく気に入っているハンコックは、ルフィの治療をしたロー達の停泊を特別に許したのだ。無論、奥地への侵入は許されていないが。


「うわああああああ!!」


 密林に響く咆哮。太い樹木が圧し折れ、轟音と共に岩が砕ける。

 咆哮の主は獣ではなく、目覚めたばかりのルフィその人であった。

 エース、エース。エースはどこだ。マリンフォードで殺された兄の名を叫びながらルフィは暴走する。治療を終えたばかりの包帯まみれの身体で。

 ──大将"赤犬"の手によってエースはあまりにも短い生涯を終えた。彼の死を最も間近で見ていたのは他でもないルフィだ。

 エースの死を認めたくないのか、ショックのあまり幻覚でも見ているのか。どちらにせよ、傷が癒えていないボロボロの身体で暴れ回るのは危険だ。

 戸惑うハートのクルー達。……その中から、ひとつの影が飛び出した。


「────」


 白いツナギで統一した他のクルーと違い、黒いジャケットにフードを被ったその青年は少しも躊躇わずに暴走するルフィへと突っ込んでいく。

 めちゃくちゃに振り回されるゴムの腕。けれど青年は身を反らし、飛び跳ね、攻撃を全て避けて確実に距離を詰めていった。

 そして間合いに入った瞬間、青年は地面を力強く蹴って飛びついた。

 伸ばされた片腕を身体を反らして避け、捕える。すぐさま両の脚を首に絡めると、そのままギリギリと絞め上げ内腿で頸動脈を圧迫した。──通称三角絞めと呼ばれる技だ。

 ルフィをこれ以上暴れさせず、怪我も負わせずに制圧する為、絞め落として気絶させる目論見だった。


「う……わああああああああああ!!!」


 だがルフィは首が絞まっているのも構わず、邪魔だとばかりにもう片方の腕を、そして捕われた方の腕も力任せに振り回す。


「……!」


 刹那、青年の姿が消え──一瞬にして大きく距離を取った。

 それはかつてルフィがエニエスロビーで戦ったCP9の使う六式のひとつと酷似した動きであったが、頭に血が登りきった状態では気づけるはずもなかった。


「エ〜〜〜〜ス〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 びりびりと鼓膜を打つ慟哭を上げ、ルフィは密林の更に奥へと消えていく。青年はその背中を追おうとして……けれど、小さく息を吐いて立ち止まった。

 あれではとても止めようがない、とでも言うかのように。


「嘘だろ、副キャプテンでも手に負えねェなんて……」

「麦わら〜〜!! どこ行くんだよ〜〜〜!!」


 ハートのクルー達の間を縫って、青年は来た道を戻っていく。

 木の根にどっかりと座り込むローとジンベエの元までくると、木に寄りかかって再度溜息を吐いた。


「……ゴム人間を絞め技で落とすのは無理があったんじゃねェか」

「…………」


 ローが口を開く。その声音は青年を責めるものではなく、ただ思ったことをポツリと溢しただけのようだ。青年は押し黙ったままだった。

 ──数分の沈黙。

 次に口を開いたのはジンベエだった。


「アレを放っておいたらどうなるんじゃ……」

「──まあ、単純な話……」


 ジンベエの問いかけに、ローは淡々と答えた。


「傷口が開いたら今度は死ぬかもな」

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