女の戦い 2

女の戦い 2


私は、この戦いを挑む際少しだけ嘘をついた。



「ゴラァテメェ!!あんな啖呵切っといて逃げ回ってんじゃねぇ!!」


真依ちゃん先輩を馬鹿にされた事に対する怒りは当然ある、むしろ最初のキッカケはそれだった。

だけど、それなら声を掛けずに後ろから奇襲して痛めつければ済んだはず。


「頭の中までヤンキー思考とかコッワ、術式の効果も戦闘スタイルも分かってるのに近よる訳ないじゃん馬鹿じゃないですか?」


「あ゛ぁ゛?」


……これも嘘だ。

私は近付かないんじゃない、近付けないだけだ。

彼女の攻撃は釘を飛ばして当たった箇所に呪力を炸裂させたり物や人の一部を使って本体に呪いを伝播させるという種さえ分かれば近寄って対応も可能な部類だ、むしろ私のやり方は相手にもアドバンテージを与えてるだけだ。


「……シッ!!」


「ったく!!チマチマと陰湿ね!!」


私が不意打ちで投げたクナイも紙一重で躱され逆にカウンターで飛ばされた釘が私の頬を掠める。


「痛っ……ゥッ」


掠った切り傷、たったこれだけの痛みで一瞬脳裏にあの恐怖の日々が過る。なんでよりによって釘と金槌なんだ畜生。私の思考にノイズが混じる。釘が目の前に迫る度膀胱が痺れて漏らしそうになるのを必死に我慢する。あの鬼気迫る顔で負傷も厭わず近づいて来る彼女に思わず悲鳴を上げそうになる情けない心を無理矢理抑え込む。


そうだ、彼女は、私には無い、私が奪われた失った何もかもを備えている。

勇気も、自尊心も、自愛も、成長する意志も。

だからこそだろう、そんな彼女に無性に苛ついた、否定してやりたくなった。

傷たらけになりながらも桃ちゃん先輩を引きずり落としたあの執念を見せつけられて惨めな気持ちになる私を否定したくなった。



「ハッ、さっきまでの威勢はどうしたよフリフリ女!!泣きそうになってんぞ!!」


「……!単細胞だと楽ですねぇ。誘い込まれとも知らず……に!!」


「はぁ?………ん、なぁ!?」


馬鹿正直に追ってきた彼女は逃げながら張った私の簡易トラップにまんまと引っ掛かり、両腕を拘束され反撃を封じられた。


「この鉄糸は私の使う呪具なんですよぉ、呪力を込められながら編まれてるからちょっとやそっとの力じゃ千切れないし切れない。もう詰みだよヤンキー女」


糸で縛られた時に手から取り落として僅かに離れた場所に落ちた金槌と釘を鉄糸で絡めて回収、これでもう彼女に反撃手段は無い。

「クッ…!」


「あらあらぁ?さっきまで威勢良かったのは何処行ったんですかねぇ?武器無くなって不安になっちゃったのかな?」


「調子乗りやがって…!!」

両腕縛られて武器も無くなってるのに変わらず意志の籠もった目で睨みつけてくる彼女に思わず後退りそうになる弱気を抑え込む。大丈夫、ここまでやればもう何も出来ない。私の必勝パターンだ。


「その状態ならもう何も出来ないよね?武器も無い両腕も使えない。そして…私はこの距離からでも一方的に嬲れる


……不本意だけど生かさず殺さず痛めつける加減はよく分かってるし、さっさと泣き入れて降参しないと死ぬより酷い目に遭うよあんた」


「……ククク」


……こんな絶望的な状況なのに、私ならもう泣いて謝ってるようなどうしようもない局面なのに、なんで


なんでそんな顔出来るの……!!


「そんな情けない面でよく降参しろとか言えるわね。私が怖いからさっさと降参してください、でしょ?腕縛って武器まで没収した癖に私に近付けやしないビビリがどの面下げて私に命令してんのよダッサ」


「ッ…!!それが答えってわけ?ならもう容赦しないから。今更後悔すんなよヤンキー女!!」


「……あのさぁ、さっきからヤンキーヤンキーって、私には釘崎野薔薇って素晴らしい名前があんのよ。次からはそう呼びなさいチビリ女」


「…ッ!!黙れぇ!!!」



そうして私は手持ちのクナイを使って彼女を許される範囲で嬲りはじめた。流石に直撃はさせないがギリギリを見極めて抉らせてかなり深い切り傷もどんどん出来上がり、彼女の制服も徐々に切り刻まれて肌や下着が露出していく。


やがて手持ちのクナイが尽きた頃には、さっきまでの威勢は消え失せてボロボロでグッタリ意識を失った彼女の姿があった。

制服ももはや衣類の役割を果たしておらず、どう見ても無様に負けた敗北者の姿がそこにはあった。


「はぁ…はぁ…口ではあんな事言っといて結局負けてんじゃないですかザマァミロ。だから最初から素直に私の言う事聞くべきだったんですよ」


もう聞こえてないだろう彼女に対して勝ち煽りを今更する滑稽さに自嘲したくなるが、それでも勝ちは勝ちだ。


「さて、後は…後で言い訳出来ないように情けない面を画像で残しときますかねぇ」


これも勝者の権利、勝った者は敗者に何しても許されると身を持って体験している私は完璧な勝利の為に意気揚々とそのご尊顔を拝みに行った。


もうピクリとも動かない惨めな姿、それに多少の優越感と若干で罪悪感を抱きつつ私は彼女の顔を掴んで持ち上げた、さてどんな顔を……


「……ようやく近づいてきたわねこのやろう」


「…………は?」


そこには、凶悪な笑顔を浮かべる意思が詰まった目をした女の顔…が…


「な、なん……んおぉ゛ッッッ!?」


突然股座に走る強烈な衝撃と耐え難い激痛に私は恥も外聞も無く股を両手で押さえて嘔吐きながら悶絶するしか出来なかった。


その間に私の制御から外れて緩んだ糸を悠々と外してこちらを見下ろしてくるボロボロの筈の彼女の覇気すら感じる姿に、私は無意識に歯をガタガタ鳴らして見上げるしか出来なかった。


「普段の私ならこんな事しないんだけど、ここまで好き勝手やったんなら何やられても文句無いわよねぇ?」


仮にも同性の股座を全力で蹴り潰した女の全く悪びれないどころかまだお返し足りないと言わんばかりの笑顔に、私は股を押さえる両手に広がる湿り気を感じながら恐怖で震えるしか出来なかった。


……あぁ、その強さが本当に妬ましい



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