女の子を痴漢から守ろうとした女の子が痴漢されるシチュ

女の子を痴漢から守ろうとした女の子が痴漢されるシチュ



「悪いやつっているものだからね」

 満員電車の片隅。幼馴染をそこに誘導して、少女は言った。

 他の乗客から幼馴染を守る形で、自分自身が盾になる。仮に幼馴染に不埒な真似をしようとする者が現れても、自分がいるから手出しできない。昔からずっとやってきたように、高校生になった今も変わらずそうした。

 他方、幼馴染は少女を心配して不安げな表情を見せる。

「悪い人って……そんなの出たらあなたのほうが危ないでしょ」

 客観的には正論。幼馴染と比べれば守られる側より守る側が似合うとはいえ、結局は高校生になったばかりの子供でしかない。同年代の同性として、幼馴染が少女を心配するのは当然と言える。

「大丈夫大丈夫。あたしは心配いらないよ」

 しかし、少女はあくまでも幼馴染の盾という立ち位置を変えないつもりだ。

 この可愛らしい幼馴染には絶対に手出しさせない。無邪気で無防備な幼馴染は自分が守る。当の幼馴染に心配されても譲る気はないと、少女は相手を安心させるように笑ってみせた。

 対する幼馴染は、なおも不安げに少女をじっと見つめるが。ふと表情が和らぎ、少女の笑顔に応えるがごとく笑みを返した。

「そうだね。あなた、強いもんね」

「そう。だから、あんたは安心して大人しくしてなさい」

「じゃあ、降りる駅までよろしくね?」

「任せて」

 会話はそこで一段落して、ふたりの間に沈黙が流れる。といっても、長年の付き合いであれば特に気まずいものでもない。

 沈黙の中、電車が揺れる。たまに二言三言発して、黙って、電車に揺られるの繰り返し。そうして、目的の駅まで近づいていく。

「……っ」

 と、少女は不意に不快な感覚に襲われた。

 制服のスカート越しに、何かが尻に触れる感覚。おそらくは鞄などではなく人の手。その感触に、背筋がぞわりとした。

 最初は偶然かと思ったが、どうやら違うらしい。混んでいるから仕方ないとは言い訳できない触り方。わざとやっているのではないかという疑念が徐々に強まっていき、やがて確信に変わる。

 同時に、不快な感覚が一気に膨れ上がった。

 偶然なら、嫌だとは思っても大したことではなかっただろう。相手も悪意を持ってしているわけではない。そう考えられれば、目的の駅に着くまで我慢することはきっと簡単だったはずだ。

 が、相手がわざとやっているなら話は別。顔も知らない相手に馴れ馴れしく触られることは、偶然の接触とは話が変わってくる。

 痴漢の手が気持ち悪い。勝手なことをしてくるなという怒りも湧く。触ってもいいと一方的に認定されるなんてひどい侮辱だ。幼馴染には悟らせまいと平静を装いつつ、少女の中で負の感情に火が付く。

 そして、少女は同時に芯から冷えるような感情も覚えた。

 端的にいえば、恐怖だ。背後の痴漢が怖い。尻を撫でる痴漢の手が。普通の人ならしないはずの行為が、それをする頭のおかしな人間の存在が怖くて、火がついた感情と芯から冷える感情で内心がぐちゃぐちゃになる。

 電車に乗れば痴漢に遭うこともあると、知識としては知っていた。身の回りでそういう話を聞いたこともある。けれど、自分なら毅然と対応できるはずだと思っていた。実際に遭ったことはないが、遭えば撃退できるはず。そんな風に、少女は自分を抵抗できる人間だと信じていた。

 しかし、現実はそうもいかない。初めて遭遇する痴漢は、少女の想像を超えておぞましくおそろしいものだった。

 振り返ってみれば、こんな形で他人から欲望を向けられるのも初めてだ。

 中学までは、学校が近かったこともあり通学に電車を使うことはなかった。休日に使うことならあったが、今のような満員電車はない。そのおかげか、今まで痴漢には遭わずに済んでいた。

 強いて欲望を向けられた経験を挙げるとすれば、同級生などのいやらしい視線を感じたことくらいだろう。とはいえ、それもそれで不快でながら今ほどではない。言ってしまえば見られるだけであり、触られることに比べれば全くの無害だ。

 望まぬ未知の体験に、嫌悪と恐怖が募る。最初は前者が勝っていたが、だんだん後者の色が勝ってくる。

「……どうしたの? 大丈夫?」

「えっ? ああ、大丈夫。電車の中混みすぎててちょっとうんざりしただけ」

 幼馴染に問われて咄嗟に誤魔化せた自分を誉めてやりたい。少女は内心で自賛するが、ある意味でそれは悪手だ。

 自分のことで幼馴染を心配させまいという少女の目的からすると有効だが。見方を変えれば、誤魔化すことで痴漢を庇うことにもなる。痴漢の歪んだ認知では、少女が自分を受け入れたに等しい。

「……!」

 必然的に、痴漢の行為はますますエスカレートするばかりだ。

 尻を触る痴漢の手付きが、明らかに変化した。単に「触れる」というものから、「撫でる」というものに。まるで愛撫するような手付きになる。

 気持ち悪い。怖い。それなのに何もできなくて悔しい。少女は屈辱感でいっぱいになりながらも健気に耐えるが、その姿さえも痴漢を楽しませることにしかならない。

 そして、痴漢はついに尻を撫でる以上の行為に及ぶ。

「ん……っ!」

 触れるだの撫でるだのとは全く異なる感触。痴漢の手が、ごつごつした指がスカート越しにすらわかるほど強く少女の尻に食い込む。尻を鷲掴みされたかと思えば次の瞬間には解放され、解放されたかと思えばまた強く鷲掴みにされる。

 少女は、痴漢に尻を揉みしだかれてしまっている。

 痴漢の五指が、一斉に尻に食い込んだ。それが逆に一斉に離れて、今度は微妙にタイミングを変えて食い込む。親指側から小指側、小指側から親指側へと順番に指を曲げて。あるいは、全ての指がでたらめに。痴漢はそんな手付きで、少女を慣れさせず翻弄した。

「ほ……本当に大丈夫……?」

「……大丈夫。これだけ混んでるのは慣れてないだけだから」

 痴漢の手で密かに嬲られる少女にとって、今や幼馴染の存在だけが頼りの綱。そういっても過言ではないだろう。

 痴漢に遭っていることは最低という他ない。いいようにされて悔しいし、恥ずかしいし、何より気持ち悪い。異常者の欲望に晒されることは、耐え難い恐怖でもある。自分ひとりであれば、きっと今ほど耐えられていなかった。

 が、幼馴染がいればこそ少女は何とか耐えきれていた。自分は幼馴染を守っている。痴漢なんて最悪のものから守りきれている。そう思えるからこそ、彼女は何とか耐えることができていた。

 幼馴染を守れていることに一種の喜びを覚える。喜びを覚えるから最低な状況にも耐えられる。それを支えにすれば、目的の駅まで我慢できる。彼女がそう思うのは、自分の心を守る上でも妥当ではあるだろう。

「……っ!?」

 しかし、状況は彼女の想定を超えて、より悪化する。

 幼馴染を守れている喜びが、他のものと結び付く。そんな最悪の出来事が起きた。

 もとより、負の感情で内心をぐちゃぐちゃに乱されていたせいかもしれない。そこに唯一の心の支えを見出だしてしまったが故に、ぐちゃぐちゃに乱れた心の中でそれらが結びつけられた。無意識が心を守ろうとした結果、最悪なことになってしまった。

 即ち、痴漢の行為が悦ばしいと。幼馴染を守れる喜びが、あろうことか痴漢に嬲られることと結び付いて。吊り橋効果のごとく、状況と心理がおかしな形で繋がってしまった。

 あり得ない。違う。自分は痴漢に遭って悦んだりしない。少女の理性はそう叫ぶが、無意識が結びつけたでたらめな感情の因果は断ち切れてくれない。

 痴漢にいいようにされて悔しい。恥ずかしい。気持ち悪い。怖い。嫌だ。こんなの。嫌だ嫌だ嫌だ。理性が自分に言い聞かせるように連呼するも、その端から正反対の感情が湧いてくる。

 痴漢に欲望をぶつけられて嬉しい。悦ばしい。気持ち良い。ほしい。もっと。触って。もっともっともっと。本来なら強いストレスを感じる状況なのに、ある種の防衛反応からか却って強い快感を覚えてしまう。

「ん……くぅ……!」

 絶望。痴漢の手で悦ばされる自分に。痴漢に抵抗できない自分に。結果的に痴漢を庇うも同然の自分に。必死に平静を装いつつも、少女の心には暗い陰が落ちる。

 目的の駅には、まだ着かない。

Report Page