女の子の生き様
レイレイーーーシャボンディ諸島 シャッキーのぼったくりバーーーー
シャッキー「はい、できたわよウタちゃん」
ウタ「キィ!キィキィ!」
シャッキーさんにピカピカの新品同然に補修してもらったわたしは元気にバーのカウンターの上で飛び跳ねる。
今日はわたしたち麦わらの一味の再出発の日だ。
2年前、このシャボンディ諸島で完全崩壊した麦わらの一味は2年間の修行を経て、再びこの島に集結した。
麦わらの一味の“マスコット”であるわたし、“ウタ”もまた、2年間修行したシャッキーさんのもとから一味の皆のところへ戻る。
この2年間、サニー号を守るためにはっちゃんやトビウオライダーズ、そして七武海くまと共に戦った。またサニー号の清掃や芝生の水やり、ナミのオレンジの木の手入れや冷蔵庫の整頓を行い、余裕のある日はシャッキーさんのバーでアルバイトをしながら戦い方を教えてもらった。
もともと素質のあった見聞色の覇気と、シャッキーさんの手ほどきで習得した合気の技、あとカクテル作りがわたしの2年間の修行の成果だ。
ウタ「キィキィ!」
シャッキー「フフ、忘れ物しちゃダメよ?」
はしゃいで飛び跳ねながら出口へ向かおうとするわたしを、シャッキーが優しく見送ってくれ…
ポテン…
わたしは何もないとことろで躓いて転んでしまった。
シャッキー「ウタちゃん!」
ウタ「キ…ィ、キィ!キィ!」
慌てて駆け寄り、わたしを抱き上げたシャッキーさんの腕を、ポンポンと優しく叩く。
“まだ”大丈夫だと彼女に伝えるために。
シャッキー「ねェウタちゃん。ずっとここにいても、…いいのよ?」
シャッキーさんが、とても優しい目でわたしに語りかける。
その言葉はわたし達の冒険を否定する言葉。でも、その言葉が心の底からわたしを気遣ってのものだとわかるから、わたしも否定しづらい。
ウタ「ギィィ…。キィキィ!!」
それでも、この優しい師匠のもとから旅立たないといけない。
わたしは麦わらの一味の仲間だから。こんな人形のわたしを仲間と呼んでくれたルフィと、そして一味の皆と“最期”まで一緒に冒険をしたいから。
ピョンっとシャッキーさんの腕から飛び降り降りる。
ウタ「…(ペコリ)」
改めて頭を下げて、この2年間お世話になったことを感謝する。
言葉を話せないわたしは、直接お礼を言う事が出来ないのがちょっと残念だけど。
そんなわたしに目線を合わせるようにしゃがみこんだシャッキーさんが、優しくわたしの頭についていた埃を払ってくれた。
シャッキー「ウタちゃん、貴女に最後のアドバイスよ」
シャッキーさんがわたしの頭を優しく撫でながら語りかける。
シャッキー「女の子はね、大切な人の前ならどんなときでも綺麗でいないとダメよ。どんなに苦しくても、どんなに辛くても。
たとえ死んでしまう直前でも、綺麗でいないといけないの。
…だからねウタちゃん。最期まで、身嗜みには気をつけなさい。」
ウタ「……、キィ!」
…シャッキーさんは、わたしのこの体がもう長くは保たないことを察している。たとえ見た目を綺麗に取り繕っても中身はもう限界が近い事は、2年間も身近にいた彼女はよく分かっている。
それでもこうやってわたしを綺麗に補修して、わたし用のフード付きのパーカーまで用意してくれた理由は、きっとさっきの言葉の通り、わたしが女の子として“最期”まで綺麗でいられるようにという気遣いなんだろう。
わたしは2年間お世話になったバーから外に出る。
きっとわたしはもう、ここへ戻ることはないだろう。
だからこそ振り返らず、真っ直ぐにサニー号へ、仲間たちのもとへ向かった。
…ありがとうシャッキーさん。わたしの優しい師匠。
…わたしの、お母さんみたいだったひと。
ーーー数ヶ月後 シャッキーのぼったくりバーーーー
レイリー「おや、今日は一段と機嫌がいいな、シャッキー」
シャッキー「あら、レイさんこそ。とってもご機嫌じゃない」
臨時休業したバーのカウンターで、シャッキーは店で一番高いお酒を二人分グラスに注いだ。
レイリー「ルフィ君達の活躍に」
シャッキー「ウタちゃんの無事に」
「「乾杯!!」」
バーのカウンターに置かれた新聞の一面に載った写真には、海軍に追いかけられているのに満面の笑みのルフィと、彼にお姫様だっこされて赤面する、赤と白の特徴的な髪色をした女性が写っていた。