奪っちゃった!

奪っちゃった!


スレに気ぶって書いた超短文SS

脈絡がない上突然始まって突然終わる



*・*・*


 子猫の甘噛みのようなキスだった。

「…は?」

 上擦ったローの反応は、おそらく数段上の階段に足をかけていた彼女の期待に応えるものであったのだろう。

「奪っちゃった!」

 しし、と特徴的な笑声をあげる少女。

 その頬が花のように色づいていることを知覚した瞬間、ローは脊髄が痺れるような衝動に襲われた。

 全身の血が沸き立つ。ルフィを相手にしている時はねじ伏せ、宥めすかしている海賊の本能。それが理性の鎖を乱暴に引きちぎって、無邪気な少女に牙を剥く。

 ふわふわとしたルフィの後頭部に手を回す。いつもより近い距離が、彼女から向けられる視線の色をつまびらかにしてくる。

 ローがルフィを害するはずがないという幼くて傲慢な確信。くらくらするような信頼の眼差し。

 可愛い。守りたい。慈しみたい。死なせたくない。寄り添ってあげたい。──食べたい。

「…麦わら屋」

「トラ男?どうし…ン、」

 再び重なる唇。

 ルフィの目が驚きに見開かれる。小さな手がぱたぱたと空中を彷徨い、伺うようにローの胸元で皺を作るシャツを掴む。

 ちう、と優しい感触にルフィはうっとりとした。開かれた双眸がとろんと伏せられ、ゆるゆると引き結ばれた唇が半開きになる。

 ローは凶悪な笑みを浮かべた。

「ん…んんッ!?」

 無警戒にほろこんだ隙間に、ローの舌がねじ込まれる。

 反射的にだろう。

 ローを突き飛ばそうと腕を伸ばしかけ、階段の上ということを思い出したのか、寸前で停止する。

 中途半端な姿勢で固まったルフィを横目で眺め、ローは喉奥でくつりと笑む。陽光に晒すには生々しい水音と共に口付けが深まった。

 柔らかな舌を絡めとり、表皮をなぞる。互いの唾液が音を立てて混ざり、重なり合うあわいからこぼれ落ちた。

 燃えるようなルフィの熱を奪うように、生ぬるい男の舌が幼い口腔を蹂躙していく。はふはふと少女の胸が上下する。そんなルフィを見咎めたローは、最後に攫った舌を吸い上げて、ゆっくりと顔を離す。そのまま少女の耳元に顔を寄せて熱っぽい吐息を吹きかけた。

「は、…奪っちゃった」

 思わず耳を塞ぎたくなるほど、濡れそぼった声が少女の鼓膜を犯す。

 とろ火で炙られるような熱に踊らされ、ルフィはローの胸板に顔をこすりつけた。真上から少女を見下ろす男に、汗ばむうなじがさらけだされる。普段は帽子に隠されている真珠のように輝く肌。そこに顔を寄せたローはふいに犬歯を突き立てた。くっきりと歯形がついた箇所を舐り、甘ったるい音を立てて吸いつく。

 とうとう自力で立てなくなったルフィは、そのままローに身体を預けた。胸板に弱々しくしなだれかかり、涙目で震えている。

 ローは不安定な足場を物ともせず少女を抱きとめ、真っ赤になった耳元に囁きを落とした。

「あんまり大人を揶揄うんじゃねえよ、なァ…麦わら屋」



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