奏でて、カウントダウン

奏でて、カウントダウン

かわいいね

「コンちゃん!好きだよ」

「コンちゃんは可愛いなあ」

「さすがコンちゃん!凄いよね」


エピさんは僕をたくさん可愛がってくれて、褒めてくれる。

他の人にはツンケンしがちだし、言葉も刺々しいものばかりだから、いつも周りから不思議がられている、なんでコントには優しいのって。

そしたらエピさんは、コンちゃんは優しいの、お前らと違って、なんて言ってくれて(言い方は少しどうかと思うけれど)、それも嬉しい。

僕からしたら他の人と同じように接したら何故か懐かれただけ、みたいな認識なんだけれど、先輩にとってそれが何より嬉しかった、のかな。

まあ懐かれるのも褒められるのも悪くないし、たまに鬱陶しい時もあるけど、それくらいはいいかな?なんて考えていた、ある日。


「コンちゃん、好き!」


いつものように伝えられた直接的な愛の言葉。そこで僕はカウンターを仕掛けることにしてみた。


「ふふ、僕も好きですよ?エピさん」


どんな反応をするのかな、あんまり反応してくれなかったら悲しいな、なんて考えは次の瞬間吹き飛んだ。


「…………へ、ぇ?」


固まった身体、何も言えなくてただ浅く開いたままの口、そして何より、耳まで真っ赤に染まって、瞳の潤んだ表情。


(……この先輩、可愛すぎないか?)


可愛がってくれる同室の先輩という認識が揺らいだのは、この日だった。


「そ、そんなわけ、ね……?」

「本心ですよ?ね、好きです」

「あ、あうう…………」


固まったままだったからもう一度耳元に叩き込んだらキャパオーバーしたのか、へたりこんでしまったのも可愛かった。


それから僕は何かにつけてすぐにエピさんを可愛がるようになった。

可愛いですね、頑張ってて偉いですよ、そういうところが好きなんです、って。

言う度に顔を真っ赤にして潤んだ目でこちらを見るのが可愛くて、またいじめたくなる。そういう性癖、なかったはずなんだけどな……

あと、エピさんは発言の割に全然スキンシップをしてくれないから、僕から積極的にするようにもなった。

肩を叩くとか、手首を握るとか、そういう些細なことで狼狽えるのが可愛くて、最近はちょっとずつエスカレートして、手をきゅっと握ったり、頭をそっと撫でたりしている。彼の反応は言うまでもないだろう。


僕は僕で、最初はただの気まぐれで可愛がっていたつもりだったのに、最近本気になってきてしまって困っている。先輩を見るとドキドキするし、褒められると今までよりも嬉しくなってときめいてしまう。

先輩は僕が優しくしてくれるから気に入っているだけなのに。きっと優しくしてくれるなら、誰だっていいのに。


こうやって少しずつ拗らせて、歪んでいったある日のこと。


「コンちゃんは凄いなあ、毎日本読んでて……」


借りていた本を読み終わり、閉じて一息ついたところで声をかけられる。いつの間にか帰ってきていたらしい。そしていつもの「凄い」だ。


「そんなことないですよ。エピさんも後輩の指導頑張ってますし、そういうところかっこよくて好きですよ?」

「う……その、コンちゃん」


すかさず愛を返す。あれ、普段だったら顔を真っ赤にしてそんなことないって縮こまるところなのに、今日はなんだかおかしい。


「どうしました?」

「その、そういうこと言うの、控えた方がいいよ……?」


後頭部を殴られたような衝撃、どうして?


「なんでですか?」

「だって、その……勘違い、しちゃうから」


再び殴られたような衝撃、何だこの先輩は、可愛すぎる。

そして、これはチャンスではないか?ここで押せば、そのまま押し切れるかも。


「……勘違いしていいんですよ?」

「へぇ!?」


ぐい、と腕を引っ張り、身体ごと捕まえる。密着した胸元から先輩の鼓動の音が聞こえる。


「こ、コンちゃん……その……」

「勘違いしてくださいよ、僕の事、特別に思ってください」


褒められて弱っている時につけ込むなんて酷いかもしれない。でも、先輩のことは誰にも渡したくない、僕だけのものにしたい。黒く染まった独占欲が口を開く。


「……とっくに、特別だよ」

「……えっ?」


思わず先輩の顔を覗き込む。羞恥からか斜め下を向く顔は真っ赤でいつも通り。でも、いつもは困ったように開いている口が少し不満そうに尖っている。


「褒められて嬉しいのも、スキンシップされて嬉しいのも、コンちゃんだけだよ」

「……本当ですか?」

「うん」


今まで先輩のことをからかっていたけど、僕もやばいかもしれない。頬が熱いのが分かる。口角が上がるのが分かる。

でも、ここまで来たら最後まで僕のことを見てほしい。背中に回していた腕を解いて先輩の頬に手を当てる。


「ね、こっち見てください、逸らさないで」

「……う、やだぁ……」


口を開けたままふるふると震えている。いつもの、褒め殺されている時の先輩の顔だ。


「ふふ、先輩。世界一可愛いですよ」


愛しています。


本心からの愛を零して、そっと顔を近づけて。


二人の距離がゼロになるまで、あと__

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