少女達の為のpraise

少女達の為のpraise

奇跡も幸福もあるんだよ

ゲヘナとトリニティ、そしてアリウスとの間に受け継がれた確執の果て
遥か昔から続いた怒りと憎悪の物語は、いよいよエンディングを迎えようとしていた


「ぐっ、おごぁ……!」


悍ましい姿で血反吐を吐くベアトリーチェが地面に崩れ落ちる
エデン条約にまつわる一連の事件。そして、アリウススクワッドの人生を弄んだ全ての黒幕
そんな彼女の嘯く”崇高”とやらが、そしてそんな彼女の晒した無様な姿が、彼女達の心を晴らす事はなかった


「終わった……んですか?」

「……マダム」

「…………」


言ってやりたい言葉があった
吐き捨ててやりたい思いがあった
かつて自分達がそうされていた様な事を、彼女に対してもしてやりたいと言う憎悪があった


「……姫!」


だが、それでも彼女達は堪えた

決して、ベアトリーチェを許した訳ではない
決して、ベアトリーチェに慈悲を掛けた訳ではない

ただ、彼女に積年の思いをぶつけるよりも、祭壇の下で横たわるアツコの方に、彼女達の興味は移っていた。それだけの事だ


「…………ァア?」


ベアトリーチェの無数の瞳が、そんなサオリ達の背中を見つめる
涙を流して抱き合い、「良かった、良かった」と言いあう彼女達の姿
それが、ベアトリーチェにはどうしても許せなかった

「どうして?」と聞かれても答えは返ってこないだろう
それはきっと、今まで彼女がサオリ達に植え付けていた、そして崇高な自分には全く関係のないモノと断じていたはずのモノ<憎悪>なのだから


「貴方達、貴方達如きがァ……!!」

「ッ!?」


ふらつきながらも立ち上がるベアトリーチェにサオリ達が銃口を向ける
本来ならば彼女は立ち上がる事すら出来ないであろう状態だ。ほんのワンマガジンも撃てば今度こそ倒れ落ちるだろう
だが、彼女の手の内が全て明かされている訳でもない。形勢逆転の策があると見ていいだろう


(だが、もしその策があったとして、私達はまた勝てるのか?)


護身用の拳銃を構えながら先生はそう逡巡する
自分はまだアロナのバリアがある。だが、隣に立つアリウススクワッド達は?
度重なる連戦で、既に彼女達も疲労困憊の状態だ

上層部でユスティナ聖徒会を抑え込んでいるミカと黎斗もいつまで持つか分からない
今この瞬間にもこの空間を埋め尽くすほどのユスティナ達が押しかけて来るかもしれないのだ


「ふっ、ふふふふっ」


そんな先生の内心を見透かす様に、ベアトリーチェが嗤う
その手に握られているのは、すっかり見慣れてしまったゲームガシャット
震える指を起動スイッチに添えた彼女は、悔しさ半分、喜悦半分と言った様子で口を開く


「こんな、たかがゲーム如きに縋る羽目になるとは屈辱です……ですが、貴方達をここで殺せると言うのなら、その程度の屈辱は甘んじて受け入れましょう!」

「ベアトリーチェ……!」

「マダム、もういいだろう!もうお前の計画は終わった!!」

「いいえ、終わってなどいません!たった一度の勝利ごときで終わりになど……!」

「やめっ……」


……黎斗の才能は、本物だ
伊達や酔狂で”神”を自称している訳ではない
そんな彼が作ったガシャットの凄まじさは、今まで彼の才能に助けられてきた先生が一番知っている

例えそれが彼以外の作った紛い物だとしても、今のサオリ達を倒すには充分過ぎる程の兵器だ

無駄だと知っていてもなお伸ばされた先生の手を嘲笑う様にガシャットのスイッチが押される

鳴り響く起動音。光り輝くガシャット

ゲマトリアの叡智と色彩の技術をかき集めて作られた彼女のガシャットは……


「……何故です?何故起動しない!?」


充電の切れたゲーム機の様に、沈黙を保ったままだった
苛立ったベアトリーチェが何度スイッチを押しても、結果は変わらない
燃料の切れたライターの様に、微かな光を光らせるだけだった

最早苛立ちを隠しきれない彼女の耳に、そして目の前で繰り広げられる展開に追いつけていないサオリ達の耳に、”神”の声が響く

声の元は、あろうことかベアトリーチェの持つガシャット


『ベアトリーチェ……お前は、本当に私の思った通りに動いてくれたなァ!!』

「……檀黎斗ォ!!」

「神サマァ!?」

『お前が下らないプライドで私のガシャットの模倣品を作るだけして使わない事も、最後の最期、追い詰められた際にはその模倣品に縋る事も読めている!』

「お前、はァ……!」


淑女然とした態度を投げ捨てて手にしたガシャットに叫んだところで、黎斗にはなんのダメージもない
ただ彼女の滑稽さが増しただけだと言うのに罵詈雑言を叫び続ける彼女に対して、黎斗はそんな無様を笑う様な声色で言った


「たかがゲーム如き」。君はそう言った……』


『神の偉業を侮辱した罰だ……その希望を……断つ……!』


『ベアトリーチェ!

 何故お前のガシャットが満足に機能しないのか

 何故お前の能力を十分に発揮できないのか!

 何故”無価値な子供達”に翻弄され続けているのかァ!!』


『折るね!!』メッキャアッ!!


『その答えはただ一つ……』


『もうっ、鬱陶しいじゃんね!!』ボキャアッ!!


『ベアトリーチェ!既に貴様のいる領域は……

 私のゲームエリア内だからだァァァァ!!!!!』


彼の哄笑と共に、世界の解像度がガクンと下がる
冷たい床は今は懐かしきドットに、辛うじて咲いていた名も知れない花は、可愛らしい表情を浮かべる
そして彼らの背に讃えられた豪奢なステンドグラスは、ベアトリーチェを讃えるモノではなく、”檀黎斗・神”を讃えるモノにすり替わっていた


『プロトゴッドマキシマム、その神の如き権能の一端だァ!!』

「馬鹿な……私の作ったガシャットが、ゲマトリアの叡智を使って作ったガシャットが……!」

『貴様の作った”海賊版”が、”公式”である私の作ったゲームに勝てる訳があるかァ!!』


ここに来て初めて黎斗は怒りの色を露わにする
倫理観こそ常人のソレとは大きく異なるが、彼のゲームに対する情熱は、多くの人にゲームを楽しんで貰いたいと言う願いは、決して偽物ではなかった
己の愛するゲームを、あろうことか兵器に転用されかけた事に関して、やはり腹に据えかねる物があるのだろう
激情のままに、黎斗は冷徹な神の審判を下す



『ベアトリーチェ!いや【ネバーエンディングヴァニタス】!!』


『お前は、アカBANだァァァァァ!!!!』



耳を劈くほどの轟音と共にベアトリーチェの持つガシャットが爆発する
ただでさえ重傷を負っていた彼女の身体は更に傷つき、片手は使い物にならない程だ

それでも先生達に憎悪の視線を向けて来るのは、最早後戻りは出来ない程に追い詰められてしまったからか、それともそれほどまでに先生達が憎いのか

狂った様に髪を掻き毟りながら、憎悪の言葉をベアトリーチェは吐き続ける


「貴様ら愚かな子供達を、私達大人が”導いて”やろうと言うのに!!下らない己の欲望を捨て、分不相応な権力を求めることもせず、空虚な生を享受しているべきなのに!!」

「マダム……!」

「貴方達の生は無価値なモノです!それを私が、有効活用してやろうとしたのにィッ!」

「…………黙れ」


なおも下らない世迷言を続けるベアトリーチェの耳元を先生が放った銃弾が通り過ぎる

あくまで護身用として最低限の威力しか持っていない銃弾が当たった所で、彼女にとってどうと言う事はなかったが、それでも彼女の口を閉ざすには充分だった

張り詰め、極度に緊張した空間の中で先生の怒りに満ちた声が響く


「勝手な事を言うな……!何が『導いてやる』だ。何が『有効活用』だ。ゲヘナも、トリニティも、アリウスの皆も、瞬間瞬間を必死に生きてるんだ!それを無価値とか言うな!!」


今までにないほどの怒りを露わにしながら、先生は懐からあるモノを取り出した


何も描かれていない無地の”ブランクガシャット”


黎斗との何気ない雑談の折に”下賜”されたソレは、いかなる原理からか、みるみる内にその姿を変貌させて行った


「先生……?」
「それ、は……」


澄み渡る様な青空を想起させる青に染まったガシャットのスイッチを、一思いに入れる


「…………変身!」

【ミラクルハッピー・メモリアル!】


甲高いゲームの起動音と共に先生が青く澄み渡る様な光に包まれる

黎斗が言う所の”適正”がないのに加え、正規の変身手順を踏んでいないせいだろう
度々黎斗が纏っていたアーマーは先生の身を包む事はなかった

だがそれでも、目の前に立ち塞がる怪物<ベアトリーチェ>に対して立ち上がったその姿は、まるでゲームに出て来るヒーローのようで


「皆の夢<未来>は、私が守る……!」


……ゲヘナとトリニティ、そしてアリウスとの間に受け継がれた確執の果て
遥か昔から続いた怒りと憎悪の物語は、いよいよ最高のエンディングを迎えようとしていた

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