夫婦とうさぎカフェ
スレ主◆MwEI06QrZW2k「うさぎカフェ?なにそれ」
「うさぎが部屋の中を歩いている姿を見ながらお茶を飲む場所。この前見た角生えたふわふわうさぎでやれそうって思って」
ある日の朝。町を2人で歩いているとそんな会話になった。
数週間前にルコンを連れて牧場に行ってみたが、その時に大層うさぎを気に入った様で家で飼ってみるか聞いたがその時は飼わないと言っていたのだが……
「それをやるとしても色々どうするんだ?」
カフェを始めるとしても準備が必要だろうし只の雑談……だと思っていた。
「ん?ここだよ?」
ルコンが指差す先にはうさぎカフェが見事に出来上がっていた。開店したばかりで花が飾られている。
物珍しそうに店を覗いている人達が行列を作っていた。
「い、いつのまに……」
「秘書君とか色んな人には相談してから作ったよ。私がオーナーです」
だからこそいつの間にと気持ちを込めてルコンを見るとニコニコと微笑みながら顔を近づけて囁いてくる。
「君が色々と忙しそうにお仕事している間に……ね」
ここ最近ドコに大型モンスターが出たとかあそこで民族戦争起こったーとか古代兵器が動き出したーとかで家に帰る事ができずにいた期間が確かにあったと思い出す。
なまじ国の端っこだった町が別世界との境界線を守護する国境側へと変化したのだ。時間をかけて交流が少しずつ行われ始めたとはいえこちらの世界と違って向こうは平和とは言い切れない為無駄に仕事が増えている。
かといってルコンも重要な戦力なためこの町を夫婦揃って離れるというわけにもいかず……お留守番してもらう事がちらほら。
それでもひと月以上空けるようなことは絶対していない。
「わ、わかった……それにしても混んでいるからまた今度になるか」
「大丈夫だよ、付いてきて」
私達の姿を見て民が黄色い歓声をあげたり、ルコンに話しかけてから私の身体を触ってくる女達にもみくちゃにされながら人混みを抜けて店内へ……。
いや通るのは間を空けてくれたからすんなりだったけど伸びてくる手が色んなところを触って……私の扱い最近雑じゃない?
「ルコン様、ココ様お待ちしておりました。こちらへ」
カフェとは言うが靴を脱いで背の低いテーブルと座って茶菓子を楽しむようで足を伸ばして座る。
……店の中がほとんど丸見えなガラス張りの直ぐ側の席のため、並んでる人たちに見られまくっている。私が柵の中のうさぎになった気分だ。
隣のテーブルに居るカップルに手を振るとどちらもキャーッ!と声を出した。反応が面白い。
店内を見渡せば壁紙や敷物の柄もあってあの牧場を模した部屋にいる……という気分になってくる。
「それにしてもコレをルコンが考えたのか?」
「いままで渡った世界の中にこういう感じのお店があってね、それを参考にしたんだ」
なるほど、それであまり見ないような間取りや空間の使い方だったわけだ。
店員がアイスコーヒーとメニュー表をもってきてくれるのと同時に柵の向こうにいるうさぎが数匹ほど客の居る空間へ移動させられている。
真っ白なもこもこと膨らんだ毛玉が興味津々と客に近寄ってくる。
綿毛角うさぎの糸は広く使われているが実物を触ったことがある人は意外と多くない。
買うにも色々と準備や手間がいる事に加えて、実はこいつらは2匹以上纏まっていないと元気をなくすという性格なので最低2匹の多頭飼育が基本になるのだ。
そんなの牧場でなければやってられない。
「すごいふわふわぁ……」
「あぁ、ひとなつっこい……手をなめてくる」
はわわと言いそうな状態になりながらうさぎに遊ばれている客たち。
……私のときと違って体当たりしていないな、とおもったらゴスッと衝撃が腰に来た。
「……なんでココってうさぎに攻撃されてるの?」
「うーむわからん、毎回角でつつかれるんだ。全く痛くないから問題ないけど」
慌てて店員がやって来たがいつもの事と説明して、つついてくる子を他のお客の所に移動させると寝転がってお腹を見せはじめたのを確認してもらってうさぎたちに非があるわけではないと分かってもらえた。
流石に私のせいでうさぎ達が人に攻撃すると思われるのは良くない。
周りが楽しそうですっかり忘れていたが注文できるのを忘れていたのでメニュー表を見ると人が食べるものだけじゃなくうさぎたちにあげるご飯やおやつも売っていた。
……なるほど、牧場でも馬などに餌やりが出来たがここでこうすれば餌代の節約になる……のか?ルコンも決まったようなので店員を呼び止める。
「すまない、アップルジュースとキャロットケーキを1つと……ルコンは?」
「私はアップルジュースとクッキー、それとうさぎの餌を草と果物1つずつ」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
流石に行列が出来ている状態、少量の注文でも数分かかったが仕方ない事だ。その間もうさぎにつんつん手のひらをつつかせて遊んでいたし。
運ばれてきたケーキもうさぎが食べても問題ないように作られていると説明をうけてから食べたが……うん、美味いな。
たしかに甘さはかなり控えめだがしっとりといい舌触りで甘さはジュースで補完できる。
ルコンのクッキーを1ついただいたがこちらも普通の喫茶店にだして違和感のない美味しさだ。
「ほらほら、食べるか?」
ルコンが草を1本摘むとうさぎの口元へ近づける。端っこを咥えると小さな口を動かしてスルスルと草が吸い込まれていく。
次の草と誘導するように少しずつ引きながら草を与えるとルコンの太ももの上にうさぎが乗って草を食べる。
そのまま足の上で丸くなるとよしよしとルコンが撫ではじめる。
「よし私も……」
真似をして草を与えてみるが……あむっ、ぶんっ!テコテコ……といった感じで草を強引に持っていかれて数歩離れて食べるという光景に。
もう一度、もう一度……も、もう一度……そうして数度か繰り返したが全て草をぶんどられていく始末。
なにか恨みでもあるのかい君たちは。
「いーなー、私も皆みたいに大人しく触らせて欲しい」
行儀悪いのは分かっているが身体を倒して仰向けになる。外から覗いてる子達に手を振ると振り返してくれて嬉しくなる。
すると私の角になにかぶつかった。
なんだろうと確認するとうさぎがふんすふんすと気合十分にそこに居た。
「んー?」
何気なくうつ伏せになって角を兎に向けると私の角に自分の角を当ててくる毛玉くん。
鹿のような角を首を振って兵士が行う訓練のようにコンコンと。
何が楽しいのかよくわからないが続けているという事は嫌なことじゃないのだろう。
数分ほどそんな状態を続けていたら毛玉が顔に寄ってきて密着するように座り込む。
身体を起こすと私の膝下に潜り込んできてピッタリくっつき大人しくしている……遊び疲れたのかな?
優しく頭から背中にかけて撫でるとふわふわな毛が手のひらに何とも言えない幸福感を与えてくれる。
今まで抵抗する子をひっくり返したり掴んだりだったからこうやって大人しく撫でさせてくれるのは初めてだ。
「いるかい?」
ならばと果物を口元へ持っていくとぱりぱりと食べてくれた!ぶんどったり逃げたりもしない。
かわいいなぁ……ルコンの足に乗ってる子も後ろ足で立ってルコンの胸を前足でむにむに押したりしてるや。
そんな風に過ごしていたら滞在可能時間が来て店を出ることに。
正直牧場で遊んだ時より1匹とのふれあいが多いからか名残惜しくなる。他のお客もそうなのか後ろ髪を引かれる思いで店を出ていく……。
「どうだった?」
「うさぎたちにストレスがかからないようにきちんと管理してさえいれば……人気になるだろうな」
仕事とかで動物を飼えない家や個人でも動物と気兼ねなく触れ合うことができる。なかなかに良いのではないだろうか。
また暇ができたら行こうかな……と考えていたらルコンが腕を絡めてくっついてくる。
歩き難いけれど、まぁゆっくり帰るのもいいかなと妻の頭を撫でるのだった。
おわり