夫の子だと思っていたのに
「女王様!まだ息んじゃダメですよ!」
「ふぅーふぅー…わかってる……」
心地よい春の日、私は片田舎の質素な住居にあるベットの上で1人闘っていた
視線の先には大きく膨らんだ腹部。私は妊娠していた。子の父親はもちろん、私の夫……だと信じている。というのにもわけがあった
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数ヶ月前、私は戦車(チャリオット)に乗り、戦場を渡り歩いていた。理由は一つ、夫亡き後に国を乗っ取ったローマに復讐を果たし、国を取り戻すためだ
夫の愛した国のため、亡き夫のため私は戦い続けた
連戦連勝を果たした私はいつしか「勝利の女王」と呼ばれるようになっていった。この時にはもう妊娠していて、身重の体に鞭を打ち戦場を駆け回った結果、支配地域の解放も順調だ
しかし、そんな勝利に愛されていると称される私も敗北の記憶がある
それは反逆なら直後、夫の死から数日も経たない日のことであった
戦場を離れ、森の中で体を休めていた私はローマ兵に出くわしてしまったのだ。急いで剣を取ろうとするが、水浴びのために武器は近くの木に立てかけており、私は無防備極まりない姿を晒すことになるのだった
そして私は犯された
数人いたローマ兵は私の膣穴に執拗に己が精を注ぎ込んできた。私がどれだけ拒絶し抵抗しようとしても、男達はそれさえ被虐のスパイスとし、陵辱をより激しくした
金髪の男達は下卑たる笑みを浮かべては、子を育てるための乳房に己の肉棒を挟み奉仕させ、肉棒に接吻をさせたりもした。何度も死にたいと思った
だが私は生きなければならなかった。復讐のため、救国のため死ぬわけにはいかなった
だから私は耐えた
娘達の髪をとかし夫と重ねた手で汚らしい男根への奉仕を強要されても、娘2人を育てた乳房を嬲られ汚らしく吸われても、夫との子を孕み育てるための子宮に汚濁を注がれても、必死に耐え続けた
やがて男達は満足したのか、再び森の中へと消えていった
私の全身は男達の欲望でベタつき、秘所からは子種がドロドロと溢れていた
腹の中の熱量がそのまま絶望の大きさに感じた。夫以外に許していなかった子作りを見ず知らずの、それも憎きローマの兵士にさせられた、その事実は私の心を砕くのには十分すぎた
だが、まだ希望はある
数日前、私は最後に夫と肌を重ねていた。3人目を、今度こそ男の子を作ろうと励み、夫が残してくれた子種が私の中で芽吹く可能性は十分にある
私譲りの赤毛か夫譲りの黒髪か、きっとどちらに似ても愛らしい子供が生まれると私は信じた。信じることで、完全に心が壊れるのを防いだのだ
汚れた体を洗い直し、剣を取る。私の瞳には憎悪の炎が渦巻いていた。この怒りを力に変えれば必ず敵を討ち滅ぼせる、そう感じていた
妊娠が発覚したのはそれからしばらく経ってからのことだった
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そして私は今、腹に宿った子を産み落とすために産みの苦しみと戦っていた
とは言ってももう3人目、流石に出産の勝手はわかる。破水するまで自然と息もうとする身体を律し、力を逃すための呼吸に努めた
陣痛の痛みが遠のくと、私は大きな腹を撫でた。この中にいる子は、私たちの反逆の象徴となり得る子だ。今の私はこの子に私達の国の景色を見せてあげること、それを目標に戦っていた
朝方始まった出産が動いたのは、太陽が傾いた昼過ぎのことであった
この時になるともう既に痛みはピークに達しており、陣痛の感覚もかなり短くなっていた
「はぁ…はぁ……そろそろ産まれ……あっ!出る出る!あっ!出るぅ!」
パシャッという破裂音と共に、ベットにシミが広がる。破水したのだ
こうなればもう出産の終わりは近い。全開になった子宮から胎児を外に出すため私は懸命に力を込める
「赤ちゃん……ママがちゃんと産んであげるから…あとちょっと頑張ってぇぇ!」
私は陣痛の合間を縫って赤子へエールを送る。出産は産む母体も命懸けだが産まれる赤ちゃんはもっと命懸けなのだ。もうそこそこベテランと言われる私だ、こうして自分のことだけではなく赤ちゃんのことを考える余裕もできてきた
全身の力を込めていきむたびに息が止まり頭がチカチカしてくる。産道を通る胎児の感触が出産の進みを私に教えていた
「頭出る……!頭出るぅ!!」
ヒクヒクと私のほとが痙攣すると、スポンと胎児の頭が出てくる。あとは肩を出してしまえばいきむ必要はない。山場を一つ超えたことに安堵する私だったが、私を取り囲む産婆達の顔が優れないことに気づいた
まさか赤ちゃんに何かあったのか?そう思った私は頭に震える体を持ち上げ、股の間を覗き込む
産婆達はやめてくださいと止めるが、母としての本能が赤ちゃんの無事の確認を優先させた
そして私は産婆達が止めた理由を知ることになる
私の股の間から産まれようとしている赤ちゃんの頭髪は………金色だった
最初はどういうことか理解できなかった。娘2人と同じ私譲りの赤毛でもなければ、夫譲りの黒髪でもない異物のような金。私には心当たりが…一つだけあった
忘れることなどできない陵辱の記憶。私を犯した「金髪の男達」の姿
一気に全身の血の気が引いていく
10ヶ月の間腹の中で育てた子が敵の兵士の子供であった、その事実が最悪の形で目の前に現れたのだ
「いやぁ!!赤ちゃん産みたくない!!ローマの赤ちゃんなんて欲しくないぃ!!」
あまりのショックに狂乱するが、私の体は私の意思とは反対に母親になろうとしていた。どれだけ泣き叫んでも出産は産み終えるまで終わらない
再びの痛みが私に無意識に息ませていた
赤ちゃんの肩が膣口から露出する。もうこうなれば息まずとも出産は進む
「嫌ぁ!!産みたくない!!止めてぇ!誰か止めてぇ!!」
そんな最後の絶叫も虚しく、私は子を産み落とした
男の子だった
あれだけ夫との間に欲していた男の子が産まれた─敵国の兵士の種で
出産が終わったというのに産室はひどく静かで異様な雰囲気だった
双眸から涙を流し、力無く項垂れる私の視線の先には、私の子宮の奥から伸びる臍の緒と繋がった産まれたばかりの我が子がいて、その光景が私の陵辱の証拠と、私達の未来の暗示に見えて仕方がなかった