天 落 その3

天 落 その3


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よくやった。


トラファルガー・ローは己の能力”オペオペの実”の”ROOM”を展開しつつ、人々を内心称賛した。


ヴィオラとレベッカの無謀とも言える勇気ある行動。

例え叶わぬと知っていても立ち塞がったその行動が僅かとはいえ時間稼ぎとなり、ドフラミンゴに無駄な嗜虐性を発揮させ時間を浪費させた。


ギャッツの命を賭けたマイクパフォーマンス。

その声援がドフラミンゴの意識を逸らさせ、ここに至るまでの猶予と人々の希望を繋いだ。


何よりもあの女。

ウタの行動がドフラミンゴから少しの間とはいえ”麦わら”のルフィを意識の外へ追いやり、今この瞬間まで持ちこたえる礎となった。


「行け……!!」


後はお前が決めるだけだ。

復活したところで満身創痍だが、ドフラミンゴも似たようなもの。


お前に装填できた弾丸は一発限り。撃てる回数もたった一回が限度だろう。

だが、その一発でもあの男を倒すには十分すぎる。


「麦わら屋!!!」


ローの叫びと共に一発の弾丸が込められた銃が渦中の戦場に倒れるヴィオラと置換され、飛んでいく。


込められた弾丸の名は”怒り”。撃ち抜く銃の名は……



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「ウ゛タ゛ち゛ゃん!!!」


「っ!!」


ドフラミンゴに身体を操られたレベッカの剣が遂にウタに振り下ろされる。

数秒の後に目の前に広がる景色にレベッカは絶望に染まり、ウタは迫りくる剣を見つめ続ける。


その刃がウタを斬り裂こうとした直前、


「ふんがァ~!!!」


間に飛び込んできた人影がレベッカの剣を粉々に打ち砕いた。


「!!!!」


「ァ……」


「ああ……!!」


その場にいた全員の顔が驚愕に染まる。

ある者は涙を、ある者は笑みを、ある者は呆然と。



『現れたァ~!!!』



さあ皆、彼が帰ってきたぞ。

血を流しながら、その姿を視界に収めたギャッツは叫ぶ。


「麦わらァ!!!」


「ル゛ーーーシ゛ーーー!!!!」


「る……」


込められた”怒り”の弾丸を放つ銃の名は”麦わらのルフィ”。



『ル~~~~~~シ~~~~~~ィ!!!!』



ここに再び、人々を嘲笑う天の夜叉にその照準が向けられることとなった。



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「どいつもこいつも、おれのカゴの中で大人しく操られてりゃ…」

「こんな大虐殺せずに済んだんだ!!」


肩で息をしながら、己の糸で縛り上げたルフィに向けてドフラミンゴは悪態をつく。


準備を重ねてこの国の王を蹴落とし罪を擦り付け英雄として迎えられ、10年間も支配できていたこの国を滅ぼさなければいけないこと。

”四皇”の一人”百獣のカイドウ”を筆頭に、様々な国と取引を交わし影響力を強めていった入念に作り上げた己の誇る闇の市場。


これまで積み重ねてきた全てを瓦礫の山とさせられた怒りがそこにはあった。


そもそも、自分達に逆らうような馬鹿は纏めて消しておけばよかった。

愚か者どもが。まるで害虫のようだ。

今度はこんな虫が這い出て来ないように、入念に駆除しなければ。


「カゴ……? 操る……!?」


ドフラミンゴの身勝手な物言いに、グッタリとしていたルフィの身体に力が再び巡り始める。


「いい加減にしろォ!!!」


他人の”自由”を奪う権利を持っていると驕るその態度。

誰かを泣かせ、苦しませてなお笑い続けるその精神。

人を”支配”し、”自由”を奪い、それが正しいことなのだと声高に叫ぶその声。


この男の何もかもが、ルフィの逆鱗を踏み抜き続けていた。


「”ギア4”!!!!」


「出たな…」


怒りのままに、ルフィは最後の”ギア4”を発動させる。

己を縛り上げていた糸をその勢いで弾き飛ばし、「ドレスローザ」の上空へと高く飛び立っていく。


復活したとはいえ、僅かばかりの回復では消耗の激しい”ギア4”がいつまで続くか分からない。

撃ち出せる技は後一発。その一撃で全てに決着をつけねばならない。


「おれを相手に空中を選ぶとはいい度胸だ!!」

「見せてくれるのか!? ”一発KO”ってやつを!! フッフッフ!!」


己を見下す位置に陣取ったルフィに怒りを滾らせ、ドフラミンゴもまた空へと舞い上がる。


ここまで散々その拳を打ち込み、幾度となく自身を追い詰めた。

確かに驚嘆に値する実力だ。これが2年前は少し目のあるルーキー程度だったなどとは信じられない。


だが、それほどの男であっても己を一撃で倒すなどあり得ない。

ドフラミンゴの自信は揺るぎない。


「全く、おれの頭上に立つとは気分が悪い!!」


見下すべきはおれで、見上げるべきがお前だ。

ドフラミンゴは見上げながら、必ずやルフィを殺し、地面に這いつくばらせると心に決めた。


「何でもかんでも、お前は手の中に閉じ込めて……!!!」


ルフィの脳裏に浮かぶのはレベッカと負傷した闘士たち。

華やかなコロシアムの裏で泣き、苦しんでいた”自由”なき人々。


そしてトンタッタ族。

一族を利用され、奴隷の如く扱われた小さな人々。


「どいつもこいつも、操ろうとするから……!!」


続いて脳裏に浮かんだのはオモチャたち。

記憶と”自由”を理不尽に奪われ、苦しんでいた人々。


リク王。

ドフラミンゴに操られ、守りたいと願った民を己の手で傷つけられた男。


そして、ベラミー。

憧れた男がたとえ自分を嘲ろうが裏切れないと、最後までルフィに立ち向かい通すべき”筋”を通しきった友達。


「おれは……」


最後に脳裏に浮かんだのは、ずっと一緒にいた小さな友達。


ずっと奪われていた。

ずっと苦しんでいた。


気付いてやれなかった。大切な仲間。


「息がつまりそうだ!!!」


「”血”を恨め……!!!」


ルフィの叫びをドフラミンゴは冷酷に切り捨てる。


勘違いも甚だしい。そもそも、こうしてお前と戦っていることが間違いだ。

お前達とおれとでは生きている「ステージ」が違うのだ。


「お前達は操られるだけのゴミとして生まれたんだ!!!」

「お前ら人間と「おれ」とは違う!!!」


おれは生まれながらに特別な存在。

お前達はそんなおれに跪くのが当然の存在。


思いあがるのも大概にしろとドフラミンゴは吠える。


「お前をブッ飛ばして……おれは出ていく!!!」


「やれるもんならな……小僧ォ!!!」


ドフラミンゴの叫びに、ルフィの怒りが限界を超える。


もうこの男の「鳥カゴ」にはうんざりだ。

こんなものがあるから誰も彼も”自由”になれないし、笑えない。


「”蜘蛛の巣がき”!!!」


「”ゴムゴムの”ォ…!!!」


ドフラミンゴが糸を操り蜘蛛の巣状の盾を作り上げる。

ルフィが腕に更なる空気を送り込み、極限まで巨大化させる。



――私の勝ち~!!

――うう~……ちくしょう!!



「”大”!!!」


「従えねェなら殺すだけ…」


両者は互いに睨み合い、残り僅かな覇気を滾らせ力を振り絞る。


限界なのはルフィだけではない。

ドフラミンゴも連戦に次ぐ連戦、受け続けた大技の数々によりもはや限界寸前だ。


どう転ぼうとも、次の激突がこの戦いを締めくくることになるのは明らかだった。



――相変わらずのヘナチョコグルグルパンチ~

――違う!! おれのパンチはピストルより強いんだ!!



「”猿王”!!!」


「16発の聖なる凶弾…!!!」


ドフラミンゴは糸を束ね、16発の覇気を纏った必殺の弾丸を装填する。


これは裁き。天に弓引く愚か者に下される鉄槌。その具現。


甘んじて受け入れろ。

この世の支配者たる”神”に歯向かう愚者よ。


お前におれより高い天は似合わない。

地に這いつくばり、粛々と首を垂れろ。



――だからウタには本気出してないだけだ!!!

――出た、負け惜しみ~



「”神誅殺”!!!」


凶弾がルフィ目掛けて発射される。


この世の摂理に牙を剥き、”支配”に仇なす者達に下される神の裁きにも似た必殺の魔弾。

それら16発、寸分違わぬ精度で音すら置き去りにする速度を乗せて”麦わら”のルフィを貫かんと殺到し、


「”銃”!!!!!」


一瞬の拮抗。


次の瞬間。16発の凶弾は全て打ち砕かれ、ルフィの一撃がドフラミンゴに直撃する。


いつか、彼が口にした言葉通り。

神を僭称する者が裁きと嘯く”銃”より放たれし弾丸を微塵へ還し、ルフィの拳は天に座す夜叉を地の底へと叩き落す。


人々を閉じ込める「鳥カゴ」を砕き、”支配”から”自由”へと。

長きに渡る狂乱と欺瞞に終わりを告げるかのように、叩きつけられた地盤の崩れ落ちる轟音と共にドンキホーテ・ドフラミンゴの意識は一瞬で暗闇へと沈んでいった。



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ドフラミンゴが地の底へ叩き落され、姿を消したことを確認したルフィの全身から空気が抜け出るように煙が立ち昇る。

限界を超えた”ギア4”が終わりを迎え、全身から力が抜けていく。

このままでは受け身の態勢すら取れず、ルフィもまた地面へ叩きつけられるだろう。


「ゼェ…ゼェ」


上空より落下していくルフィを視界に捉え、ローが残る力を振り絞りルフィの己の近くへと転移させる。


「ルーシー!!」


レベッカが地面に倒れ込んだルフィの名を叫ぶ。


驚愕すべきことに、あれだけ力を使い果たして尚、彼は意識を保っていた。

震える腕を支えにして、必死に身体を起こそうと努力している。


そんなルフィに声をかける者が一人。


「るひぃ……るひぃ!!」


レベッカに支えられていた少女、ウタがルフィに駆け寄ろうと身を起こす。


「ウ゛タ゛ァ゛……こ゛め゛ん゛!!!」

「お゛れ゛……す゛っ゛と゛わ゛す゛れ゛て゛て゛……!!」


その声にずっと抑えていた感情が決壊し、ルフィはボロボロと大粒の涙を溢し始める。


朦朧とする意識の中、涙で濡れた視界では何も見えない。

けれど、そこに確かに彼女はいる。


「ううん……るひぃ、わらし、みふけて、くえて……」


ウタもまた、大粒の涙で顔をグシャグシャにしている。


ずっと忘れていた大切な約束。友達。

それらは全てここにあるのだと確かめるように、互いに抱き合い涙を流す。


「かくれんほ……るひぃの、かち……」


泣き続ける二人とそれを見守るレベッカ達の背後で、「鳥カゴ」がゆっくりと消滅していく。

民を”支配”し逆らうものに死を与えんとした絶望が消えていく様を、「ドレスローザ」の人々はその目で見た。



『勝者は……!!!』



実況のギャッツもまた、その光景に大粒の涙を流しながらも己の仕事を完遂せんと力を振り絞る。


想いが胸から溢れ出し、上手く言葉にできない。

やり遂げねば。人々はこの「試合」の結末を心待ちにしている。


喝采せよドレスローザ。今目の前に広がる光景こそが現実である。

彼は勝ったぞ。やり遂げたのだ。


勝者の名を力の限り叫べ。

流星の如く現れ、欺瞞を砕き、偽りの王を打倒せし者。


その名は……




『ル゛ゥ~~~~~シィィィ~~~~~~!!!!』




勝利の喝采は高らかに響く。

栄光ある勝者の名と共に。


人々を操る悪意の糸は引きちぎられ、忘却と悲嘆に覆われた箱庭は崩れ去った。

愛と情熱に彩られた美しき国の長い”夜”はここに終わりを告げる。


忘れ去り、その温もりを感じられなかった時間を取り戻すかのように人々は抱き合い、歓喜の涙を流していた。



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