天音お姉ちゃん先生怪文書

天音お姉ちゃん先生怪文書



『いやー……死ぬかと思ったわね』

『ホンマアホなことすんなよ』

『天音ねぇもうホントやめてよね』

『あら、でも美味しかったわよネオユニバースオイスター』

『それで変なウイルスに罹って死にかけないでよ。なに?エイリアンノロウイルスって……』

『そもそも得体の知れんモン生で食うやつがあるかいな』

『いるじゃないここに』

『『二度とやるなよ』』


『でも危ない物ほど生の実感が感じられて楽しいねよね……』

『だからって変なモノを生食するはやめて。ただでさえ身体弱いのに……』

『貴女よりは硬い自信あるわよ?』

『そういう話やないやろアホ姉ぇ』

『ホント……早死にしちゃうよ?』


『……そうねぇ……可愛い妹達をこれ以上心配させるのも悪いしねぇ……牡蠣を生で食べるのはやめるわ』

『天音ねぇ……!』


『……牡蠣はってことは他は違うってこと?』

『……………』

『おいバカ姉こっち見ろ』

『…………』

『おいコラ』




「おい、起きろ」


“…………“


開かれたカーテンから入る日差しと、女性の声で目を覚ます。


“……おはよう、ビナー”


むくりと上半身を起こし、こちらを見下ろし声を掛けてきた金色の瞳の女の子、ビナーに挨拶をする。


「起きたならさっさとベッドから出ろ。今日はどこか行くんだろ」


“うん、ありがとうね”


そう言ってビナーは寝室から出ていく。

閉められた扉を見つめ、ほんの一月程前、アビドスで起こった珍妙な出来事を思い出す。




死んだと思われた生徒の復活、生徒と砂漠の怪物の心の入れ替わり、そして怪物の人間化……。


復活した生徒、瀬戸ミガリとの感動の再会を程々に、謎の現象で人間となった怪物、ビナーの処遇をどうするかとなった。


当初は事情を把握し、生徒達からの受け入れが肯定的なアビドスに在籍するという話で進んでいたが、ビナー本人が


『はぁ?こいつらと一緒にここで過ごす?絶対やだね、死んでも断る』


といった具合に全力で拒否。無論、説得するがビナーの意思は固く失敗。

だが、他の学校に入学しようにも彼女の事情や経緯を説明するには難しいこと。そして、そもそも他校に入学するための学力が足りなかったため不可能だった。

最終的にシャーレで身柄を預かることなった。

その時も難色を示していたが、シャーレならば他校に赴く機会が多く、元に戻る手掛かりが見つかるかもと何とか説得した。



“(あの時は大変だったなー……手続きとかリンちゃんの説得とか……)”


手を上に組み体を伸ばし解す。ポキポキとコリ構っていた肩周りの筋肉と骨が感覚がする。

ベッドガードを支えにゆっくりと立ち上がり、立て掛けていた杖を握り部屋を後にする。




「で?今日はどこに行くって?」


支度の最中、もう既に準備の終えた。ビナーから今日の行き先を聞かれる。


“トリニティよ。数人の生徒達の授業を見てほしいって頼まれてね”


「ふーん……授業ってDBでやるんじゃなかったの?」


“成績が振るわない子達に直接指導してほしいらしいわ”


「なんでボクも行かなきゃならないわけ?」


“貴女は世間知らずだからね。人と関わりながら勉強出来る、社会経験にはいい機会だと思ってね。”


「…………」


“それにトリニティは歴史が長い学校だからね。もしかしたら貴女が元の姿に戻る手掛かりになる物があるかもしれないしね”


「……ま、そういうことならわかったよ」


納得はしつつも、しぶしぶといった様子を見せる。


カバンの中に教材とタブレットを入れ、上着を羽織る。


“待たせちゃったわね。それじゃ、行きましょうか”


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