天皇賞秋のあと
「ウオッカ! ウオッカ! ウオッカ!ディープスカイ! ディープスカイ! ウオッカ! 内からもう一度ダイワスカーレットも差し返す!ダイワスカーレットも差し返す!
これは大接戦、大接戦でゴール!」
張り詰めた空気、湧き上がる歓声。二人の勝負の結果は審議になった。
「写真判定の結果、一着はウオッカです!」
ウオッカが腕を高々と掲げる。
「勝ったんだ・・・あの子・・・!」
心の中で熱いものが込み上げてくる。でもダービーのときとは違う。そんな不思議な気持ちだ。
「これは完敗ね・・・」
同僚のダイワスカーレットのトレーナーさんがうなだれていた。
(あっえっとそのえっ・・・どうしよ)
どうしよう。こういう時は何か言葉をかけるべきだ。でもかけるべき言葉が見つからない。むしろどんな言葉をかけても侮辱のような気がする。
「あの・・・なんか・・・すみません・・・」
「なんで謝るのよ?あなたたち勝ったんでしょ?勝者は勝者らしく堂々としてなさい!」
「はっ!はい!」
意外だ。てっきり不満や愚痴を言われるのだとばかり思っていた。
「あの・・・てっきり恨み言を言ってくると思っていました・・・」
「正々堂々と全力であの子たちが戦って勝敗がついたんだから、悔いは無いわ。勝者に対するリスペクトこそ強者の務めなのよ。むしろ勝者に対して毒を吐くのは最大級のNG行為なのよ。覚えておきなさい?」
口から流れ出る言葉には、美学が込められていた。
「おめでとう。天皇賞の盾はアンタたち二人のものよ。」
「あっありがとうございます!」
「お礼なら私じゃなくてウオッカちゃんに言うべきよ?いえ、アナタはむしろあの子にお礼を言われるべき立場だから間違いね。・・・あと次はスカーレットが勝つからね?」
「こっちだって負けてないです!次も私とウオッカが勝ちます!」
「楽しみにしておくわ。さあ行きましょう、あの子たちが待ってるわ。」