天涯比隣

天涯比隣

ふうあゆ

用事を済ました後、留守番を頼んだ少女へのお土産を探しに、エランは雑貨屋へ足を踏み入れた。

彼女の赤い髪を彩る髪飾り、彼女の好きそうな匂いのハンドクリーム。

どれが一番、スレッタに喜んでもらえるだろうか。

ふと、視界の隅にスレッタがいた気がして、思わず振り向く。どうやら、ぬいぐるみのコーナーのようだ。

“それ”を目にして、エランは思わず目を見開いた。

ーーーそこにあったのは、一つのかわいらしいぬいぐるみ。珍しく赤色の毛をもつ、たぬきのぬいぐるみだった。

思わず、エランは店員に声をかけた。不思議と、確信があったからだ。

「このぬいぐるみ…赤毛のたぬきを、見たことがあるの?」

声をかけられた店員は、思わず素っ頓狂な声を上げた。めちゃくちゃ顔がいい青年に、なぜか恩狸をモデルに自分がこのぬいぐるみを作ったことを寸分違わず言い当てられたことを思えば、当然の反応である。だが、どれだけ動揺しても、接客はせねばなるまい。

「ひゃ、⁈ は、はい、、そうです!!」

声を裏返す店員など気にも留めぬように青年ーーお客様は、質問を続ける。

「赤毛のたぬきをぬいぐるみにした理由を聞きたいんだけど」

なぜそんなことを知りたいのだろう?ぬいぐるみにモデルがいることや、私が制作者であること、作った理由があることに確信を持ってることも気になる。お客様といえど不審に思うべきなのだろう。

だけれど。彼の目は、私が作ったぬいぐるみに愛おしそうに向けられている。悪い人には、到底見えなかった。

「…このぬいぐるみは、確かにモデルにした赤毛の狸がいます。私が子供のとき、森で迷子になったんです。でも、不安で泣いてる私のとこに、赤い狸がすっ飛んできて。慌てたように私の周りをぐるぐるして、どっか行っちゃったと思ったら戻った途端に服を引っ張りだして。思わずついて行ったら、私を探してた父たちに会えたんです。」

それを聞いたお客様は、やわらかい雰囲気を纏って、相槌を打った。

「…ぼくも、同じ赤狸に助けてもらったんだ」

店員から話を聞いて、なんとなくだった確信がさらに補強された。

ーーー絶対に、このぬいぐるみのモデルはスレッタだ。

スレッタの性格上、きっと助けた人はたくさんいるけれど、ちゃんとこの迷子を助けたことも覚えているだろうと思う。

次は彼女と一緒に来よう。そう決めながら、エランは買ったばかりのぬいぐるみに、守護の魔法をかけながら店を出た。


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