天才アイドルヒエロちゃん

天才アイドルヒエロちゃん


1話

「これをお守りに持っておくと良い」

彼女は私に掌サイズの宝石を手渡した。

「エジプトはもう救えない、でも君だけは救って見せるぞ。」

彼女は周りの人達と手を繋ぎ、呪文を詠唱し始めた。そして私は、光に包まれる。


「アザリー、君は生きるんだ、未来の世界でな」





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街中に蠢く化け物に、住民は逃げ惑うしかなかった。

それは全長3メートルほどの中型。いかにも「ドラゴン」という形の化け物だ。しかも口から炎のブレスまで吐き出した。典型的な「ドラゴン」だ。


幸いブレスに直撃した人はいなかったが、巻き込まれそうになった人達は軽傷を負ったり震えたりしている。


私はお守りに貰った宝石を握りしめながら、急遽駆けつけて来たという巫女に声を掛ける。

「本当に大丈夫なの?」

「問題ないさ。」


彼女はヒエロ•プトレマイスと名乗った。

黒茶髪のポニーテールで白いセーラー服衣装を身に纏っている。凛々しい顔立ちをしながら彼女は私に言った。

「なにか歌ってほしい曲とかある?

 戦闘前に歌わなきゃ力がでないんだよね。 

 何でもリクエストに答えてあげるよ。」



私は頷き、ターンテーブルとサングラスを取り出した。

特に理由はないがなんとなく持ち歩いていていたものだ。

これで彼女も全力をだせるだろう。

「DJヒエロ、歌ってちょうだい。」

「………………………………」

「ヒエロ…?」

ヒエロは、固まっていた。


ざわ…ざわ…


「お、おい…どこの巫女か知らねーが…」

「いくら何でもDJはヤバいって…、」

周囲の人達も緊迫している状況のようだ。

街中に急にドラゴンが現れたのだ、無理もない。


その時だった。

ヒエロ•プトレマイスはチェケラした。

彼女はノリノリだった。

「問題ないサー!!!」

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」


フロアが熱気に包まれた。

私も、余りのエモさに目頭が熱くなっていた。

「ひとりぼっちで 窓に腰掛け ギター弾いてた こどもたー」


DJに夢中になっていたヒエロは、背後からのドラゴンの攻撃に気づけなかった。

大きな爪に引き裂かれ、屋外に吹き飛ばされてしまった。

「イヤーーーーーッ!!!!」


私は思わず叫んだ。

だが、ヒエロは既にドラゴンの背後に立っていた。

「ふん、よくもこの街を荒らしてくれたわね。トート神の巫女であるこのあたしが鉄槌をくだしてやるわ!」


ドラゴンは振り返り、ブレスを放つ挙動に入った。

「知恵の力を見せてやるわ!喰らえ!!全身全霊パンチ!!!」


ヒエロの放った拳が、ドラゴンの腹に直撃した。

「ギエエエエエエエエ!!!!!」

ドラゴンは、灰となって消えた。


ヒエロは勝利のポーズを取った。

「地元アイドル、Wild mummysをよろしく!!」

この街の平和は守られたのだ。


私は彼女に向かって走り出した。

「ねぇ!あなた、トートの巫女って本当?」

私は息を切らせながら、目を輝かせていた。

だが、ヒエロは困惑している様子だった。

「えっ、あたしは確かにエジプトのトート神の巫女だけど…

それが何か…?」


これは、運命の出会いだと思った。

私は彼女に向かってお辞儀をした。


「初めまして、ヒエロ•プトレマイス。

私の名前はアザリー。先代トートの巫女に助けられて2000年前のエジプトからタイムスリップして来たの。

私もあなたのチームに入れてくれないかしら?」


ヒエロは唖然としていた。

何が何やらわからないという顔をしている。

ヒエロのサングラスが曇った。

神妙な顔つきになり、口を開いた。


「なんかしらんけど、いいよ(笑)」


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