天変地異
Warning
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薄暗いコンクリートの部屋で、頬に札を貼られた青髪の男が鎖に繋がれていた。
「……おかしいな、こんなはずじゃなかったんだけどな」
男は呟き、頬の札に触れた。札は男がどれだけ剥がそうと爪を立ててもびくともせず、爪を立てた頬から流れ出た血が滲み、黒く変色するだけだった。
「これさえなけりゃ、簡単に出られるんだがなぁ…」
その札は対象の呪力と術式を封じるものであり、剥がすには貼った者が再度呪力を込めて触れる必要があった。
「ここまでされちゃ敵わないな」
男は監禁されている。犯人の女は上層部の人間でもなければ、呪詛師でもない。その女は──
「ただいま、無為さん!早速ご飯にしますね」
「四級……」
女が扉を開け、部屋に入ってきた。彼女こそが男を監禁した犯人。かつて男が好意を寄せた相手。
「今日はカボチャが安かったので、パンプキンシチューにします!」
女は仕事着のまま悠々とキッチンへ向かい、コンロに火を灯した。男はその様子を見て、ため息をついた。
どうしてこんなことになったんだろう?確かに俺はあいつのこと好きだったけど…こんなことするなんて。俺は昔の暖かい魂を持ったあいつの方が好きだったな…。
そんなことを考えていると、不意に涙が溢れる。悲しみや悔いとも違う涙を。
「さて、シチューが出来上がるまで暇なのでその……チューでもします?」
女は光のない眼で男を見つめ、その唇に狙いを定める。男も好意を寄せていたことと抵抗など意味をなさないという経験則から女の唇を不本意にも受け入れる。
「ん……ちゅっ…れろ……ちゅ…はぁ……んっ」
女は男の唇に触れると、即座に舌を男の口に挿し込む。男は女にされるがままに、女が満足するのを待つ。
「そろそろシチュー出来る頃ですね。ご飯にしましょうか」
そしてしばらくすると、女が離れてキッチンへと戻る。そして、シチューが入ったボウルを持って戻ってきた。
「俺の分……「私が食べさせてあげます!ほら、口を開けてください」
「」
女はシチューを口に含むと、咀嚼して男の口に流し込む。所謂口移しというものである。
「美味しいですか?」
「ああ、そうだな……」
本当に、どうしてこんなことになったんだろう…。
気付けば男は泣いていた。
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女は薄暗いコンクリートの部屋に男を監禁していた。
「こうするしかないんだ…こうでもしないと無為さんが居なくなっちゃう…」
女は買い物袋を腕からぶら下げ、泣きながら夜道を歩く。男を監禁したことへの罪悪感、後悔、そして申し訳なく思う気持ちが彼女の心を蝕んでいるのだ。彼女は重い足取りで家に帰り、地下室へと足を運ぶ。
「ただいま、無為さん!早速ご飯にしますね」
女は精一杯昔の自分を取り繕う。自分が幸福だと思い込み、男に愛を押し付ける。男と口付けを交わす彼女の頬には涙が伝い、辛い感情を抑えられなくなっていた。