天体観測

天体観測



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↑を読まないと分からない不親切設計のドレホドレ




「なあ、これを見てくれないか!」


 ドレークはホーキンスを自室に呼ぶとそう言って手を広げた。その先には本格的な望遠鏡が組み立てられている。真白のボディには傷一つなく新品であることは明らかだ。


「こんなもの……どうしたんだ?」


 身一つであの閉鎖的な家から飛び出した同士だ。大層なものを持っているはずもなければ買うお金もない。ならばどうして。疑問を浮かべるホーキンスにドレークは楽しそうに話す。


「先生の手伝いで備品の整理をしていたんだが、教材として買ったものの中々使う機会が無かったそうでな。手伝いの報酬として特別に、と貸してもらったんだ」

「嬉しそうだな」

「あぁ、実は昔から天体観測が趣味でな。それで、もし良ければ一緒に夜空を見に行かないか?……あの場所で」



 あの場所。その言葉が放たれた瞬間、沈黙が生まれた。


 二人にとっての生を、いや全てを終えようとした山の頂上を指しているのだという事にホーキンスにも分かったのだろう。あの時の出来事は互いに今でも昨日のように覚え出せたが、一回たりとも話題を出すことは無かった。流石に駄目だったか、とドレークがホーキンスの様子を伺い見る。だがホーキンスは今までに見たことの無いような穏やかな顔を浮かべていた。


「ふむ、おれも占星術を本格的に学びたいと思っていてな。実際に星を見ておいても損はしないだろうから付き合ってやろう」

「い、いいのか?」

「貴様から誘っておいて何を言うか」

「それもそうだが……」

「二人であの場所に行きたいと言うから了承したのだ。ならば行く以外の選択肢はないだろう」


 ホーキンスはホロスコープの準備をしてくるとだけ告げ部屋から出ていく。あまりの軽さに本当に了承が出たのか、行くぞとドアを開けられるまで、いまいち信じられなかった。




──────


 こうして二人で天体観測をする事になったが、夜中に外へ出るのなら外出許可が必要になる。流石にありのままあの山へ行くと言ってしまえば止められてしまうだろう。どうしようかと悩むドレークを横目にホーキンスは足早に職員室へと足を運ぶ。そしてセンゴクさんにサラリと嘘をつき適当な場所で見ると伝えているのでその言葉に否定することも出来ずに、楽しんでこいと撫でられた頭に罪悪感を感じながら頷いた。ホーキンスには方便も吐けないのかと呆れられたが、すまんと謝るとまあ良いとだけ返された。


 ちょっとの事ではあるが、否定されることなく受け入れて貰えるのが嬉しくて、思わず笑みを漏らす。そんなドレークの様子を見たホーキンスに、罵倒されるのが趣味なのかと怪訝な瞳で見られたのでそれだけは無いとしっかり告げた。




「もうそろそろか」


 山の中を歩き続け数十分。前とは違い結構な重量のある望遠鏡を抱えているのでそれなりに体力も削られ、時間も掛かってしまった。互いに両手が塞がっているので手こそ握れないもの、足取りは軽く会話もポツポツと話し、心の底から繋がっていると感じれた。


 今の時期に見える星座の話に、占星術から見る天体の話。あのころでは考えられなかった未来が今あるのも、全てあの星空が始まりだった。



「着いたな」


 二人して顔を見上げると、あの頃と同じように星空は祝福するかのように輝いていた。


「やはり綺麗だ」

「あぁ、綺麗だな」


 お互い噛み締めるように呟き合う。しばらくそのまま広大な夜空を眺めていたが、折角望遠鏡を持ってきたのだからと設置して、ホーキンスもホロスコープを出して、二人で静かに笑いあった。


「あの三つの特に輝いている星が春の第三角でな」

「そういえば貴様は蟹座だな。蟹座のエレメントは水で」


 ブルーシートを引き横に寝転んで指を指したり、望遠鏡を覗き込んだり、ホロスコープを共に見たりと、美しい星々をたった二人きりで独占したかのような特別な気持ちを抱えたまま語り合った。



──しばらくはそのまま他愛のない掛け合いを楽しんでいたが、不意に会話が止まる。だがそこに嫌な静けさはない。お互いが必然のように目を閉じ、顔を近付け合う。あと少しで唇と唇が触れ合うだろう、そんな時だった。




「あ?何してんだお前ら」


 空気をぶち壊すように、呑気な第三者の声が響き渡る。びっくりして振り向くとそこには、この春クラスメイトになったロロノア・ゾロが欠伸をしながらこちらに近づいてきた。


「な、なんでお前がこんな所に」


 ドレークは思わず問い質す。まだ共に過ごして日は短いものの彼の性格上、星を見る為に山に登るなどという行為をするようには思えなかった。ゾロはその言葉を聞くとキョロキョロと周りを見渡すとギョッとしている。


「何だここは……!?剣道場じゃねえよな?」

「「……は?」」


 山の中に綺麗な二重奏が響く。もしかして迷子か?こんな所まで?どうしたらそんなことが起きる?ホーキンスとドレークは目を合わせ、信じられないようなものを見るかのように首を傾げた。


「ま、いいか。とりあえずおれは行くな。じゃあな」


 そう結論付け歩き出したゾロをしばらくは呆然と眺めていたが、二人は大変なことに気づき叫んで追いかけた。


「そっちは登山道ですらないぞ!!」



二人きり、初めての天体観測はこうして幕を閉じるのだった。




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