天井裏の夜散歩♡

天井裏の夜散歩♡




 俺の部屋の浴室からは、天井裏へ上がることができる。それを発見したのはちょうど一週間前のことだった。天井の点検口――天井にある正方形の扉みたいなやつ――が気になって、開けてみたら、天井裏に繋がっていた。子供っぽい冒険心を起こして、脚立を用意して上がってみると、薄暗いわ埃っぽいわで何もない。しかも、四つん這いじゃないとまともに動けない。

 その日の俺は苦労に見合わない発見だったと肩を落としたものだった――しかし、そこで探検を終わらせるような俺でもなかった。

 こんな小説を読んだことがある。アパートの天井裏を伝って他人の部屋を覗き見するばかりか、天井板の穴から寝ている人間の口目掛けて薬を落とし、その人を殺してしまうという話。俺はいたって良心的な学生だから、他の寮生を殺してしまおうなどとは毛ほども思わない。けれども、覗きぐらいなら……と考えてしまう程度には、俺は下衆だったのだ。

 天井裏は、隣室とは壁で区画されている。けれども、道具を使えばなんとか壊せそうだ。

 俺は幸いにもメカニック科で、いくらかの工具を持ち出したところで怪しまれない。だから、思い立ったが吉日とばかりに、天井裏を発見した日には作業を開始した。なお、作業方法については、模倣する人が現れてはよくないと思うので、割愛する。


 天井裏同士を区切る壁を、一週間かけてようやく何枚かぶち破ったのが、たった今のことだ。

 俺は、はたと気がつく。

 ――ここ、寮長の部屋の真上じゃないか?

 俺は心の中で小躍りした。なぜなら、俺は寮長たるグエル・ジェタークに並々でない劣じょ……じゃなかった熱情を抱いているからだ。俺のグエルくん……♡

 やばいやばい、劣情なんて言ったら、ラウダさんに殺されかける。

 ともかくも、よし、覗きの相手はグエルくんに決まった。なんてったって、俺はグエルくんの大ファンなのだ。できることなら、私生活の全てを把握したいと思っている。

 今の時間は午前一時、健全な人なら寝ている時間。健全がウリみたいな顔の人間が闊歩しているジェターク寮のことだから、きっとグエルくんも寝ているに違いない。ということで、天井板に小さな穴を静かに開けた。音を立てないように作業したためか、存外時間がかかった。

 穴が開通したところからは、真下にグエルくんの寝ているベッドが臨めた。なんと運がいいのだろう。俺には覗きの才があるのに違いない。

 試しに穴を使ってみよう。

 グエルくんは仰向けで眠りながら、すうすうと寝息を立てている。けっこうお行儀よく寝るんだな。緩んだ顔が、幼さを帯びて可愛らしい。さすが俺のグエルくん。起きているときも、寝ているときも可愛い。

 あ、寝巻として使っているTシャツがちょっと上にあがっていて、おへそが丸出しだ。心なしか、ハーフパンツも下がっているような気がする。そうやって、思春期の男子を誘うのはやめていただきたい。ありがとうございます。

「う、んぅ……」

 グエルくんはうめき声を立てて、寝返りをうち、今度は横向きになる。彼は毛布を脚で挟み込み、両腕でぎゅっと抱きこんで、ああ、なんか俺、毛布になりたい。それも、勃起する毛布に。グエルくん専用LOVE LOVE AI搭載毛布だ。グエルくんが一人でえっちをするときには、ぜひとも助けてあげたい。

 よし、今日の探索はこれで切り上げよう。時刻は一時四十分、もういい加減寝なければ明日の授業に響く。

 俺は足音を立てないよう細心の注意をしながら、自室へ戻った。


 グエルくんの覗きを始めてから、はや二週間が過ぎた。


 夜も深まって十一時。さあやって参りました俺の時間。

 覗きの後は、興奮のために然るべきこと♡をしてからでないと眠りにつけず、夜一時から覗きをすると翌日の生活がどうしても疎かになってしまうので、犯行時間を当初から二時間ほど早くした。また、これよりも早いとグエルくんが寝ていないときがあり、覗きのバレる危険性が上がる。

 夜十一時というのは、まさにゴールデングエルくんタイムなのだ。

 穴を覗き込む――と、あれ? グエルくん、ベッドに入ってはいるけれども寝ていないぞ。でも、俺には勇気がある!

 ということで、いつも以上に息を潜めつつ、彼を見守ることにした――そうだ、これは見守りだ。決して覗きではない! 今までずっと自分の行動を覗きと称していたが、これからは見守りということにしよう。俺は、グエルくんが寝ている間に変な目に遭っていないか心配なのだ。

 もしかして、今日はグエルくん、眠れなくて一人えっちをするのかな?

 両腿をすりすりと擦り付けて、なんだか悩ましげな顔をしている。そうだね、今日は決闘があったんだもんね。戦いで心も身体も昂って、熱が治まらなくなっちゃうよね♡

 今日も戦ってるグエルくんはとびっきりかっこよかったよ♡リアルタイムで映像見てたんだから♡グエルくんが、相手のブレードアンテナをへし折るのと同時にさ、実は俺、射精しちゃったんだ♡

 そういえば、俺がグエルくんを観察し始めてから、オナニーするの今日が初めてだよね。いいね、適度に自分で発散するのは健康な証拠だよ♡

 今思えば、二週間前のグエルくん見守り初体験のとき、寝巻がちょっと寝乱れたみたいだったのは、一人でした後だったからなのかな? 真相は闇の中、けれどそういうことにさせてもらおう。ホルダーは二週間ごとに決闘しなきゃいけないんだもんね。それに、彼は前髪がピンクなのだから、エッチなことなんか大好きに決まってる。

 グエルくんは半ズボンに手を突っ込んで、なんだかごそごそしている。ズボンのお股の部分が、勃起した彼の陰茎と手で膨らんでいて、とってもお祭りって感じだ。

 あ、グエルくん半ズボンとおパンツ一緒に脱ぎ捨てちゃった♡もどかしくなっちゃったんだね♡そんなにしたかったんだね♡

 あれ、グエルくんそっちでするの? おちんちんの方じゃないの? ふーん、穴をいじるのが好きなんだ。グエルくんは、指を陰嚢の下あたりで上下に往復させている。

 ハァハァなんて息まで漏らしちゃって、気持ちが良さそうだ。早く指を入れたいけれども、入れずに触るだけの感覚を楽しむだなんて、彼は中々のオナニストかもしれない。

 やがて彼は満足したのか、中指を自らに突き入れた。

「あ、ん……♡」

 グエルくんから、鼻にかかったような喘ぎが漏れる。

 そうだね、欲しかったんだよね。声、漏れちゃうよね。可愛いね。

 でも、ローション使わないのに指が入るの? 唾液で濡らすこともしなかったでしょ? しかもなんか、ぐちょぐちょ音聞こえてるし……グエルくん、お尻の穴が濡れるの? でもそれって、医学的におかし……え、もしかしておまんこに入れてる……? 男の子に、おまんこ……?

 後ろの方に入れてるにしては、ちょっと手付きが前すぎるよね。しかも、お尻の方に入れるためには、腰か足をあげた方が体勢的に楽らしいんだけど、お股をいじくっている指以外は脱力しきって伸びている。

 確かに目を凝らすと、なーんか、女の子のそれっぽいのが、でっっっっかいおちんちんとオタマの下についているような気がする。覗き、じゃない見守りのために、メカニック科としての誇りをかけて作ったメガネをかけて見る。はあ、今日までに完成させることができてよかった。

 ……うん、やっぱりそうだ。女の子のそれがある。

 グエルくんってふたなりさんだったんだぁ……へぇ……すごいこと知っちゃったなぁ。秘密にしといてあげる♡

「ん♡んっ♡はぁっ……♡」

 グエルくんは使っていないもう片方の手で口を押さえて、声を漏らすまいと頑張っている。でもごめんね、ばっちり聞いてるの♡

 グエルくんのカッコいい低音が、湿度を含みながら上擦っていく。こんな声、俺以外の誰にも聞かせらんないね♡

「あっ♡きつい……♡」

 はい、グエルくん処女確定です。身長190cmくらいある大男の中指とはいえ、それくらいでキツイとかなんとかで泣いちゃうのは絶対処女に決まってる。オナニー大好きな処女とかエロすぎるだろ。これで誰かと付き合ったら、既に急所を自己開発済みの可能性があるってことだよね。はじめてのエッチなのに気持ちいい♡ってことになりかねないってことだよね。自己研鑽を欠かさないなんて、さすが俺のグエルくん。

 グエルくんが自分のイイところを捏ねる手はますます激しさを増していく。ぬちゅ♡ぬちゅ♡と抜き差しのたびに音が鳴ってはしたない。あんなにストイックなグエルくんが、こんなにエッチな男の子だったなんて♡

 ずっと暗いところにいたせいか、だんだんと夜目が効いてきた。グエルくんが、女の子のところから、しくしくととめどなく流している涎までしっかりと見える。

 わー、ほんとにふたなりさんなんだ♡

 グエルくんは口を押さえていた手を外すと、自らの股に伸ばした。その指で愛液を掬って、これまた勃ち上がりまくっている肉棒に塗りたくる。

 へえ、ダブルコンボってわけね♡中々やるじゃないか……♡

 グエルくんは自らのおまんこを責めたてながら、おちんちんをしごいている。さっき塗りつけた愛液で、おちんちんも滑りが良くて気持ち良さそうだ。時折尿道口に指を立てるようにしながら、ペニスの先端を中心に刺激する。そんなに強くしたらだめだよ♡癖がついて、強くしなきゃイけなくなっちゃうぞ♡

 ちんちんを擦る音と、おまんこに指を抜き差しする音がぐちゃぐちゃと響く。耳に毒だ♡

 グエルくん、これは早くイきたい♡モードだな。いいよ、イって! 俺が許可するよ!

「あっ♡ふっ♡んんんん〜〜〜〜♡♡♡♡」

 グエルくんは首をそらして、足を指までピンッと伸ばしながらイった。噛みつきたい首だ。女の子の部分は指を咥え込みながら、充血しきった粘膜の入り口を収縮させ、おちんちんからは白濁液を流している。彼の、健康な色をした鍛え上げられたお腹が、白い飛沫で汚れた。

 グエルくんは身体を脱力させて、ぼんやりと天井を見上げながら目を瞬かせた。

 かわいいねぇグエルくん。顔から力が完全に抜けちゃってる。

 あれ、どうしたのグエルくん? なんか不思議そうな顔しちゃってさ、目まで俺と合わしちゃってさ……。

 その瞬間、グエルくんは顔を羞恥で真っ赤にして、


「ギャーーーーーーー!!!!!!」


と、叫んだ。


 俺は穴からバッと離れて、身を硬くした。やばいやばいやばい。

 しばらくすると、走ってくるような音がして、グエルくんの部屋の扉が叩かれた。

「兄さん!!」

「あっ、待てラウダ、入るなっ、ちょっと今……その……立て込んでるから!」

 お腹に自分の精液をつけたまま、弟を部屋に招き入れるわけにはいかないもんなあ、と妙に冷静になってしまった脳の片隅で考える。

「兄さんっどうしたの?!」

 ラウダさんが、グエルくんへ扉越しに話しかける。

「いや、なんでもない……」

「そんな叫び声して、なんでもないわけないでしょ!」

すごい勢いで捲し立てるラウダさんに対して、グエルくんは

「いや、本当に大丈夫だから……ゴキブリ……うん、ゴキブリだから!」

と必死に主張して、心配させまいとしている。グエルくんってなんて優しいんだ。さすが俺のグエルくん(本日二回目)。いや、こんな呑気なことを思っている場合じゃない。

「ゴキブリ? うんそうだね、退治しておくから」

 筆舌に尽くし難いほど柔らかい声色を聞きながら、俺は探索を終了した。



 あの危険な冒険をやめて、もう二ヶ月が経った。もうほとぼりは冷めただろうと、久しぶりに脚立を立てて、天井裏に忍び込む。時刻は夜の十一時。

 懐かしい。この薄暗さ、埃っぽさ……。

 四つん這いの足は、自然とグエルくんの部屋に向かう。

 すると、背後から、ゴトゴトと同じく四つん這いの人間が鬼気迫って歩くような音が近づいてくる。いったい誰だ!? 

 想定されうる最悪の展開に、あえて無視を決め込みながら、俺はなおも進み続ける。

 ――そんなことは絶対に、絶対に起こり得ない。だって、あの天井点検口は、俺しか知らないんだ!

 足音は背後で止んだ。俺は振り向いた。







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