大乱闘アスティカシアブラザーズ
ぼんやりと、人工の空を見つめる。
俺は、何度も何度も人生をやり直してきた。非業の死を遂げた2人の親友を救うために。
魔女たちに翻弄された末、恨み言ひとつ遺さず逝ったあいつ。自ら死地に赴き手の届かぬところで散ったあいつ。己の刃で親友を殺した絶望で自ら命を断ったあいつ。置いていかれても懸命に天寿を全うしたあいつ。
それから、それから…。
何度も繰り返して絶望してそれでもやり直してきた。その度起こる事象も変わり、その都度対策を練り、立ち向かってきた。
だが、
これはなんだ?しらん…。いやマジで。
大乱闘アスティカシアブラザーズ!
…などと言っている場合ではないが、なぜか俺たちは敵も味方もなくステゴロの大喧嘩をしている。
すでに周囲は死屍累々。
かくいう俺も全身ズタボロ。
まだ立っているのはあと3人となった。
何がきっかけだったか。そうだ、強化人士5号だ。
どことなく危うい雰囲気を纏った俺の親友−グエル・ジェタークに、5号は突然拳を叩き込んだ。
「殴れば治るのでは?」
いや嘘だろお前、大昔の電子機器じゃねーんだぞ。
当然それにキレたのはグエルを慕う後輩。まずペトラが狼藉者をぶん殴った。
グエルの弟たちが5号を通報しようと動く中、俺と強化人士4号も止めに入る。
だが5号もペトラも全然退かない…
何でだよ。
「加勢する」
そう割って入ったのは、ジェターク寮随一の良識派カミル。助かった、と安堵した矢先、カミルは5号に襲いかかった。おい。
気づけばジェターク寮生以外にも地球寮の連中が乱入し、収集がつかなくなった。
血気盛んなヤツも大人しそうなヤツも、熱に浮かされ拳を振り回し胸ぐらをつかみ蹴り飛ばし…まさに混沌。
なんか冷静だったはずのラウダや、ボーっとしてたグエルまで加わってるし。
ギャラリーも増え始め、賭け事に興じたり、こちらに参戦したり…それから、それから…。
そして今に至る。
もう詳しい経緯をさらうのも疲れた。
そりゃ俺も大概熱くなったけども…。
宴もたけなわ−それなりに怪我人も出てしまった大騒動は、ようやく収束の気配を見せている。
「オッラアアアアア!!」
…セセリア、オマエそんな声出せたのか。
「ハァッ!まだっ…!」
4号はなんで最後まで戦ってんだよ。
「くっ…負けられない!」
お前誰だよ。
「はぁ…何やってんだ俺たち…」
全身の痛みにうめきながら呟いた。
兎にも角にも、全員大なり小なり怪我をしたが命に別状がなさそうで何よりだ。
こんなアホみたいなイベントで"やり直し"なんてゴメンだからな。
この世界のアス高で永遠に語り草になるであろう大乱闘は、名もなき一般学生が拳を天高く突き上げ決着した。