夢を叶えたかった青年

夢を叶えたかった青年


【「5月7日」】

【「洞窟の奥を探索していたところ大蜘蛛の群れに襲われてしまった。間一髪で逃げ切れたものの左腕を引き裂かれてしまった為応急処置を施した。血清は持ってきていない、一刻も早く学校へ戻らないと」】



【「5月8日」】

【「しまった。地下深くだからだろうか、はたまた何か不吉なものが潜んでいるのか…方位磁石がイカれてしまった。宛もなく歩き続けるのは自殺に行くようなものだが、今回は功を奏してくれたようだ」】


【「アール純石の廃坑を見つけた。軌跡を辿ってみよう。元々この純石についての調査の為探索に赴いたわけだ、不幸中の幸いといえよう…まだ5月だというのに卒業論文のテーマが決まった。ここから出た暁にはあいつにも教えてあげたい」】



【「5月10日」】

【「あの時の大蜘蛛に裂かれた傷が熱くなってきた。だが毒が遅効性で良かった、私はまだまだ動けるだろう。今は廃坑内の監視室のような場所にあったフォルダを読み終えたところだ」】


【「内容は封書に詳しく書くが、アール純石は魔道具の動力源以外にも光を反射する際に人に悪夢のような幻覚を見せることが出来るらしい。その性質を用いた非人道的な所業に使われていたことも記録に残っている」】



【「5月13/14日?わからない」】

【「食料は残り五割。三日分しか持ってきていないというのにかなり長持ちした方だと思いたい。リュックサックを開く度に鈍く光るピカクスが目に映る。早く戻らないと」】


【「…正直、こんな洞窟に滞在していると狂ってしまいそうで仕方がない。私を襲ったあの大蜘蛛以外にもここに巣を置いている魔法生物達はもちろんいる。いつ殺されるかがわからない状況下、ペンを走らせているこの時間が唯一の安寧だ」】



【「5月17日?」】

【「このままだと埒が明かない。視界がぼやけてきている。体中が紙ヤスリで擦られているみたいに痛い。毒が体を蝕んでいる感覚が顕著になってきた」】


【「今さっきナスケトに封書と救助要請を括り付け地上へ送った。せめて鉱石の事と大蜘蛛の存在くらいは知らせなければいけない。ああ、腕に蜘蛛足のヤモリが張り付いている幻覚が見え始めた」】


(文字がところどころ乱れている)



【「5月」】

【「地下蛇に見つかった。ナスケトは無事だろうか」】


【「最期に会いたいって思うのが君で」】


【「ひどい奴で 安心した ■■■■」】


(走り書きしたのだろう、筆跡が著しく乱れている。紙は殆ど破られており、名前は血液で隠れていた)

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