夢の中の兎(part3)

夢の中の兎(part3)



--side.ルフィ


 …………。


 やんわりと意識が戻る。遠くの方からバタバタと騒がしく廊下を走る音が近付いてきて、男部屋のドアが開いた。


「おっ、おいルフィ、起きろ!」


「…………んあ?」


「お前宛てに電話が来てる。大事な話があるって……!」


 酷く慌てた様子のウソップの言葉に、勢いをつけてベッドから跳ね起きる。


 電話の主の名前は聞いていないが、1人心当たりがあった。


「もしもし」


『よお、久しぶりだな』


 おれの恩人であり、憧れの大海賊。

 世界で名を轟かせる四皇の1人。


 そして、ウタの父親。


『突然すまない。少しツテを使ってお前の船の……いや、今はこんな事を言っている場合じゃないな』


『対策は施しているつもりだが、いつ盗み聞かれるか分からない。手短に言うぞ、"あの子"の事だ』


「……ああ」


『恐らくお前の力が必要になる。場所は……言うまでもない筈だ。先に向かっている』


「分かった。ありがとう」


 10数年ぶりの会話は簡潔に終わった。通話が終わり、眠りにつく伝電虫を見つめながら、おれはこれからすべき事を頭の中で整理した。


「ねェ、ルフィ今のって……」


「四皇の赤髪、だよな……?」


 いくつか挙がった候補の中で一番初めにするべき事は……。


「皆に話さなきゃいけねェ事がある」


「…………」


 皆を集めたダイニングルームで、ここ数日おれ達に起きた出来事を一通り話し終え、テーブルの上で両手の指を組んだ。


「…………つまり……ウタはまだ生きていて、ルフィの夢の中に居るの?」


「そうだ」


「で……お前はウタの魂を体に戻してやる為、エレジアに戻りたい。そう言いてェのか」


「そこでシャンクス達が待ってるんだ」


「…………」


「頼む」


 皆はそれぞれ顔を見合わせ何も言葉を発さなくなる。


 エレジアを離れて日にちが経っている。戻るのはそう簡単ではない事はおれだって流石に分かっている。


 それでもおれはこの無茶を通さなければならない。


 暫く黙り込んでいたが、何人かは大きく息を吐くと、固く決意した目付きになり椅子から立ち上がった。


「航路変更ね。多少荒っぽいルートになるけど、最短で着くようにするから文句は言わないでよ」


「歌姫サマの為だ! 風来バーストでスゥーパー蹴っ飛ばして行くぜ!!」


「うォ~~! ウタを今度こそ助けるぞ~~!」


「…………!」


 皆がそれぞれ自分の持ち場へ移動し始める中、ジンベエとロビンはおれの傍にやってきて、肩を叩いた。


「希望が見えたみたいね」


「ここからはわしらに任せておけ。お前さんはどんと構えて、夜になったら、夢の中の歌姫さんを安心させてやれ」


「……ありがとう!」


 目的地を変更。目指すは音楽の国エレジア。


 今度こそおれは、掴んだ手を離さねェ。


・・・・・


 いつもの通り夢の世界にやってくる。


 外の世界は夜だが、夢の中は青空広がる真っ昼間。人は相変わらず居ないが、見覚えのある建物とそこかしこに建っている風車小屋にすぐピンと来た。


「今日はフーシャ村の中か。最初とあんま変わらねェな」


「ルフィ!」


 おれの姿を見るなりうさぎ……いや、ウタが嬉しそうに駆け寄ってくる。はじめは目すら合わせようとしてくれなかったのに、随分変わったと思う。


「……なに? じっと見て」


「別に。それよりウタ、今朝シャンクスから電話あったぞ」


「!! なんて!?」


「あんま話せてねェ。お前の体があるからエレジアに来いって」


「そっか……エレジアに……」


 本人は真面目だからあんまり触れない方が良いんだろうけど、ウタのリアクションに合わせてでっけー両耳が上がったり下がったりするのが面白くてずっと見てしまう。


 今思えばウタの頭の後ろの輪っかがこんな感じだったなァ。なんで気付かなかったんだろ、おれ。


「…………ねェ、やっぱり見てるでしょ」


「別に。それよりウタ、向こう着くまでやる事ねェから久々に勝負するか!」


「えェッ! 私こんな状態なんだけど!?」


「にしし、じゃあ不戦敗って事だな。おれの185連勝だ」


「はァ~~あ? 私の184連勝中の間違いでしょ? まァ今から185連勝になるけど」


「言ったな!」


「そっちが先でしょ!」


 お決まりの煽り合いの後、いつも通り適当な種目で対決を始めた。


 夢の中を自由に弄る力が今はおれにあるので、あの時のウタの真似をしていくつか小道具を出す。


「なんで大食い対決でリンゴなんだ。肉出させろよ」


「だって私今お肉食べられるか分からないもん。ほら、やるよ」


「「3、2、1!」」


「むぐぐぐ……っ」


「ムゥ~…………あっ、シャンクス!」


「むぐ!?」


「……はい、私の勝ち~」


「んなっ!? お前またおれの所に食い物移しただろ! ずるだ!」


「にひひ、負け惜しみィ~」


「じゃあ次は駆けっこだ! 障害物越えて、あそこの丘まで行ったら勝ちだ!」


「……体格差利用してない?」


「してねェ! 行くぞ! 3、2、1!」


「あっ、ちょっと!」


「にしし、今度こそおれの勝ち--」


「お先~~♪」


「!? ぐぬぬ、負けるかァ~~!!」


「…………引き分けかな」


「…………なんでそんな小さい体で速ェんだ」


「ふふん」


「じゃあ最後は、身長対決な!」


「はァ!? それこそずるでしょ! あんた今「そんな小さい体で」って--」


「……元の体でも負けてたか、とっくに」


「いつの間にかな」


 2人して草原に寝そべり、空を見上げる。


 おれ達の会話以外、草の揺れる音と、風車がゆっくり回る音しか聞こえてこない。


 驚く程穏やかな時間だ。


「……ウタ。おれさ、夢の世界も楽しくて気に入ってる。でもやっぱりおれ、ずっとはここに居られない」


「…………それは、どうして? 好きな物思い通り出せて、お肉だって食べ放題だよ」


「つまんねェから」


 ウタがおれの言葉に本気で噛みついてきた訳じゃないってのは分かってる。ただ単に、なんであの時皆が夢の世界を気に入ってくれなかったのか、知りたかったんだろう。

 まァこれはおれの理由に過ぎないが。


 ごろりと寝返り、ウタの方を見る。おれの一言にどう反応していいか分からないようで、目を丸くして固まってるが、そのまま話を続ける。


「今までここで見た景色は、どれもこれもおれの中のものだけだ。おれが見た事無かったり、知らないもんは出てこない。そんなのいつか飽きるだろ」


「…………」


 少なからず、思い当たる節があるようだ。耳が静かに垂れ下がっていく。 


「向こうは、確かに腹立つ事もいっぱいあるけど、それ以上に面白ェものも山ほどある」


「おれはそれを全部見てみたいんだ。そんで"新しい時代"を作りたい。そこには、おれの仲間や、サボやじいちゃん達や……お前が居てほしい」


「……随分欲張りだなァ」


「おれは海賊だぞ。欲張りで何が悪い」


「あっはは! ……そうだねっ」


 2人で笑い合っていると、次第に眠気が襲ってきた。瞼が重くなり、沸き上がってきた欠伸を吐き出す。


「……ふぁぁ……」


「"起きる"の?」


「みたいだ」


「おやすみ。またね」


「……ああ。おやすみ」


・・・・・


 皆のおかげでサニー号は再びエレジアに戻ってきた。


 船を停め、辺りを見回しながら進んでいくと、奥の方から2人の男が歩いてきた。


「待ってたぞ、ルフィ」


「わざわざ来てもらってすまない」


 電話をくれたシャンクスと、このエレジアの王様だったゴードンって名前のおっさんだ。


「シャンクス、おっさん……ウタは?」


「ウタは今、近くの建物で寝かせている」


「そっか……」


「ルフィ君、シャンクスから多少事情は聞いているが……ウタが夢の世界に居るというのはどういう状況なんだ」


「ああ、どこから話せばいっかな……」


 ウタの身体が眠っている場所に着くまで、かなり端折ってだけど今までの事を説明した。


 シャンクスは何度かウタの夢から様子を視ようとしていたからおれの話もすんなり入ってきたみたいだ。おっさんの方も、何回か質問してきて、おれの答えを自分なりにかみ砕いていた。


「ウタの命が消えかかっていた時、一番近くで眠っていたルフィの中に魂の一部が入り込んだのだろう」


「……それによって、ピースが抜けたパズルのようになったウタの身体は、目を覚まさなくなってしまった……という事なのか?」


「恐らくな」


 そう推測しながら、シャンクスとおっさんは足を止めた。着いた先には、他の半壊している廃屋に比べればいくらかキレイな小さな建物。

 この中にウタの身体があるのか。


 先に中に入っていく2人。おれ達も意を決して扉の無くなった門をくぐると、中にはボロボロのベッドの上に寝かされたウタが居た。


「……っ!!」


「あっ、ちょっとルフィ!」


 ナミの制止の声を無視して、ウタの身体に飛び込むように駆け寄る。


 耳を澄ますと小さな寝息が聞こえ、それに合わせてゆっくりお腹が上下しているのを確認する。

 胸より少し下の辺りで組まれている手にそっと自分の手を寄り添わせると、ほのかに温かいのを感じた。


 ウタはまだ生きている。


「なんだルフィ。ウタには「お前は生きてる」って言ったんだろ」


「……やっぱ実際に見ると違うからよ」


「はっはっはっ、そうだな」


「……ウタは生きてる。負けないでいてくれたんだ」


 シャンクスははじめ子どものおれ相手のようなからかう口調だったけど、ウタの傍に立つと、しみじみ噛み締めるように重く呟いた。

 おれはそれに黙って頷く。


「さて、これからどうしたものか。器と中身は揃ったが……」


 とりあえずおれがウタのすぐ傍に来ただけじゃ治らないのは分かった。


 皆でウタとおれを見つめ、う~んと唸り声をあげる。


「そうですねェ……こういうのって、御伽噺では王子様のキスが王道じゃないですか? 私は唇が無いので出来ませんが。ヨホホッ!」


「キ……ッ!? バッキャロォブルックてめェこのやろ!!! 滅多な事言うんじゃねェ!! それァつまりウタちゃんとルフィがキ、キキキ……ッ!!」


「あ゙あ゙~~!! サンジ落ち着け! 鼻血出すな!」


「……おれ達外野は船に居た方が良かったんじゃねェのか」


「…………」


「ルフィ?」


「なんとなくだけど、こっちのウタに呼ばれてる気がする」


「! ウタの魂が、身体と呼応しているという事か?」


 「呼応」、なんとなくおっさんの表現がしっくり来た。


 おれ自身ではなく、おれの中に居るウタの魂と、今おれの目の前で眠っているウタの身体が磁石のように引っ張り合っている気がした。


 添えていただけの手を両手でぐっと握り込む。


「今なら、ウタとウタを繋げられるかもしれねェ」


 あいつに会いに行かないと。


「それなら私の眠り唄にお任せをっ!」


 そういうとブルックはどこからともなくバイオリンを取り出し弾き始めた。


「♪ちっちゃな手のひらは ネモフィラの花」


「グー……」


「速っ!!」


 バイオリンのメロディに包まれ、おれの意識はウタの待つ夢の中に吸い込まれていった。


・・・・・


 目を開けると、おれとウタは淡い光が窓から差し込む少し古びた部屋に居た。

 ここは、こうなる前のウタと最後に会話した、エレジアの城の中だ。


「何これ、棺桶……?」


「……ウタだ」


「えっ! 私?!」


 あの時と1つ違うのは、レッドフォース号から見えた、真っ白で大きな棺の中で眠る人間の姿のウタが居る事。


 ウタはぴょんぴょんと跳ねながら駆け寄り、2本足で立って棺を覗き込もうとする。だが、圧倒的に背丈が足りない。


「…………」


 ぐ~~っと背伸びをする。数センチ伸びただけだ。


「…………るふぃ~」


「ん」


 両手で持ち上げ、人間の方のウタの胸元に置く。

 暫く座り位置が安定しないのか、もぞもぞ動いていたが、真正面から向き合う位置に収まると、じっと顔を眺める。


「……なんか、変な感じ。鏡を見るのとも違う」


「まだ戻らなそうか?」


「うん……なんか引っ張られるような感覚はあるけど……」


 ウタ本人もよく分かっていないようで、自分の耳を人間の方の体にくっつけて様子を見ている。


 夢に来るのは正解では無かったのか? と両腕を組んで考えていると、ウタが突然何かを思い出したのか両耳を立て、「あっ!!」と大声をあげる。


「そうだウタウタの力。皆を元の世界に帰した時みたいに、もしかしたら私自身も戻せるかも」


 なるほど。難しい事は分からないが、確かにそれっぽいと確信を持てた。この間までは言葉を話せなかったが今なら試す事が出来る。


「さすがウタだな! 早速やってみるか!」


「ん…………」


「……ウタ?」


「…………ごめん。これだけしてもらっておいて、今更怖くなってきた」


 ぴんと立っていた耳が次第に元気を無くしていく。よく見ると、その小さな身体は震えていた。


「あれだけの事をしたんだもん。目が覚めたら、きっと私もお尋ね者の仲間入りだよ。ゴードンにこれ以上迷惑を掛けたくないからもうエレジアには居られない。そうしたら、私は……」


「海に出ればいいじゃんか」


「っえ?!」


「海は広いからさ、追ってくる奴が居たってすぐに捕まりはしねェ」


「そんな簡単な話じゃない! 海軍の偉い人たちが私の事を捕まえようとしてるんだよ?!」


「シャンクス達の船でも、おれ達の船でも、どっちでも好きな方乗ればいい。お尋ね者だらけの船に1人増えた所で変わんねェよ」


 そう言って笑ってみせる。その場しのぎのでまかせなんかじゃない、シャンクスが今ここに居たら似たような事を言ってる筈だ。


「お前の歌で新時代作ろう」


「…………っ!」


 あの日交わした誓い。


 お互いに思い描く「今とは全く違う新しい時代」。


 おれはウタの作りたい「皆が笑って暮らせる世界」を見てみたいし、おれの考える夢の果てにあるものをウタに見せてやりたい。


「一緒に世界回って色んな物見よう。まだお前の見た事無いようなものだらけだぞ! わくわくすんだろ!」


「そうだね……うん、私も色んな景色見たい!」


「…………でも、もうあのバカみたいに大きい虫とかは見せなくていいから」


「……根に持ってんなァ」


「しっかし、うさぎのウタもこれでお別れか」


「ふふんっ、この可愛い姿も見納めだよ」


「まだ触りたんねェなー」


「…………ふぅー……っ! よしっ!!」


 両手で頬を叩き、深く息を吸い込み、姿勢を伸ばす。どうやら戻る覚悟を決めたみたいだ。


「…………ねえルフィ。一緒にさ、「風のゆくえ」また歌ってよ」


「おれも?」


「歌うのまだちょっと怖いっていうか……。なんとなく、その方が……効果? ありそうだし」


「なんだそりゃ」


 まァ、面白そうだからやるけど。おれもウタの真似をして深呼吸し、背筋を伸ばす。


「まさかルフィとデュエットする事になるなんて子どもの頃は考えもしなかったな」


「デュエットじゃねェよ。歌唱対決だ」


「……上等じゃん」


「「3……、2……、1……」」


 「「♪この風は どこから来たのと……」」


 2人だけの夢が終わる



--side.ウタ


 …………。


 ………………。


「……う……っ、うぅん……」


 動かなくなっていた体に自由が戻る。


 横になったまま少し体を動かし、ゆっくり瞼を開いた。

 ずっと閉じていたせいかまだ視界がぼやけているけど、わずかに見える赤い髪の毛は、見間違える訳が無い。


「…………シャン、クス…………」


「ウタ……ッ!」


 名前を呼ぶや否や、シャンクスは私の背中に腕を回し力一杯抱き寄せた。

 その横ではゴードンが涙を滝のように流しながら私の頭を撫でてくる。


「ウタ……! すまなかった……!」


「ヴダ……良がっだ……! 君が生ぎでいでぐれで本当に良がっだ……ッ!!」


「シャンクス、ゴードン、くるしい……」


 私、どれくらい寝てたんだろう。声がかすかすだ……。

 体も全身凝り固まっててあまり動かせない。どのみちこの状況じゃ無理そうだけど。


「おおおおっ! やった! ウタが目が覚めた!」


「スゴいぞルフィ~~!!」


 視線だけ横にやると、ルフィの仲間の皆がまるで自分達の事にように私の目覚めを喜んでくれていた。

 ライブの時やトットムジカの件で散々迷惑を掛けたのに。この人の良さは、流石ルフィについていく人達というか何というか……。


「! そうだ、ルフィは……!?」


「……よおウタ。おれの188連勝だな」


 私の手元に置かれた手から視線を辿ると、同じく寝ぼけ眼のルフィが笑っていた。


 込み上げる感情が、涙腺を伝ってこぼれ落ちる。


「……冗、談……っ! 私の188連勝だよ……!」


「お前、何泣いてんだよお」


 自分でもなんでここまで流れ出て止まらないのか分からない。


 でも、シャンクスとゴードンの抱き締めてくれる感触が、温かさが、嬉しそうな皆の声が、夢の世界で感じたものよりはるかに鮮明に感じて心を揺さぶられる。

 ウタワールドは現実と変わらない筈なのに、なんでかな。


 今はまともに考えられず、ただシャンクスの胸元で涙を溢す事しか出来なかった。


「あのね、シャンクス、ゴードン……伝えたい事が、いっぱいあるんだ……」


・・・・・


「次の島が見えてきたぞー!!」


「ホントか!? おい、早く行こうウタ!」


「ちょっと待ってよ!」


 あれから日が暮れる程皆と話した。

 言わなきゃいけない事が山ほどありすぎた。


 まずはルフィや仲間の皆に頭を下げて、それからゴードンにもエレジアの事、新時代の計画の事を謝った後、今まで12年間愛情を注いでくれた事と音楽を教えてくれた事へ心からの感謝の言葉を伝えた。ゴードンは体の水分全部無くなるのではというくらい泣いていた。


 1番話す量が多かったのはシャンクス。

 前も言ったけど、エレジアまで来て助けてくれた事。解毒薬で命を救ってくれた事への感謝。そして置いてかれた事への悲しみの気持ち。あの時は本当の事を隠していてくれたのは決して間違いではないと思う。でもやっぱり寂しかった。シャンクス達を信じたくても信じられなかった。


 ……そう、寂しかったんだ。ずっと。


 ぽつりと漏らしたら、シャンクスはまた力の限り私を抱き締めた。余計な一言だったかな。


 その後は思い付く限り「これから」の話をした。ゴードンがエレジアをもう一度復興するとか、海軍の目をどう誤魔化すかとか、私はどちらの船に乗るかとか。


 ルフィ達もシャンクスもそれぞれこっちに来いって熱烈に誘ってくれたけど、私の今の状況上、お世話になるからには多大な迷惑を掛けてしまう。すぐには決められなかった。


 その場に居た皆でアイデアを出して、意見をぶつけ合って、悩んで、やっと出た私なりの結論を、シャンクスとレッドフォース号で待っててくれてた赤髪海賊団の皆に伝えた。


『ごめん、シャンクス、皆。私、今は赤髪海賊団の船に戻らない』


『そうか。……今は?』


 そう。あくまで"今は"。


 私は「赤髪海賊団の音楽家ウタ」として、ルフィの船にお邪魔する事にした。


 ルフィ達と色んな場所を旅して、たくさん新しい歌を作って、歌って、いずれ「救世主」ではなく「音楽家」として新時代を作り上げる。

 それが今の私の答え。


 シャンクスははじめに聞いた時、ぽかんと固まってしまったけどすぐに大笑いして私の頭を撫でた。


『それがお前の意思なら、おれはそれを尊重する』


『行ってこい、ウタ。おれ達の可愛い娘』

 


「…………」


「おーい、ウター!」


「分かってるってば!」


 新調したてのアームカバーに腕を通す。手の甲には勿論、あの日の誓いの証。


 ここから私の新しい一歩が始まる。今度はこっちで夢を叶えるんだ。


 怖くはない、不安はない。


 同じ誓いを立てた大切な親友が傍に居てくれるから。もう、大丈夫。


 寂しさから解放された1羽のうさぎは思いっきり地面を蹴り飛ばした。


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