夢の中の兎(part2)

夢の中の兎(part2)



--side.シャンクス


「ウタの調子はどうだ」


 用事を済ませ、ウタの眠る部屋に戻ってくる。

 診察を終えたホンゴウは、おれの問いに対してため息をつきながら首を横に振った。


「相変わらず寝たままだ。体温も脈も正常なんだがな……」


 あの時、意識が朦朧としていたウタに半ば無理矢理予備の薬を投与したが、あと数分でも処置が遅れていたら取り返しのつかない事態になっていたらしい。


 一命は取り留めたものの、過剰な摂取を重ね蓄積されたネズキノコの毒は、想像よりもかなり身体を蝕んでいた。


「そもそもあの段階で吐血までしていたからな。内臓なんかの器官にも相当な負担が掛かっている筈だ」


 診察に使ったのだろう医療道具を片付けながら話を続ける。

 ようやく赤みを取り戻し始めた肌の色もエレジアを出た直後は雪のように真っ白で、風前の灯のような命とも言える状態だった。


「考えられる可能性としては、損傷を受けた肉体自身が回復に全集中しているのか……もしくは、脳に……障害が……」


「その可能性も覚悟はしておかないとな」


 堪えるように言葉を絞りだそうとするホンゴウに、無理して皆まで言わなくても良いと収める。


 医者としてあらゆる想定をしなければならないという責任感と、皆の大切な娘に起こりうる"最悪の可能性"を考えなくないという思いが拮抗しているのだろう。


 人間にはどうしても手を施せる領域の限界がある。今は寝ているだけだが、いずれおれ達にはどうしようも無い状態になってしまうかもしれない。


 だが、それはまだあくまで可能性のひとつに過ぎない。


「……ホンゴウばかりに任せてはいられない」


 ウタの額に手をそっと宛がう。


 意識を集中すると、頭の中で微かに"気"が揺らめいているのを感じとれた。その揺れは時折大きく広がったり、凪のように穏やかになったり、まるで意思があるように不規則な動きをとっている。そして長い時間視ていると、稀にだがどこかの情景のようなものが伝わってくる事がある。


 ウタにはまだ意識が残ってる。仮に肉体の方に問題が無いとすれば、精神の方に何か障害が起きて目を覚ます事が出来ないのかもしれない。


 確証も医学的な根拠も無い。だがウタの能力のひとつである"ウタワールド"は精神が由来する力だ。まったくの暴論という訳でもない筈。


「……ウタ、お前は今どんな夢を見ているんだ」


 思いつく限りの方法で足掻いて救ってみせる。それが、今まで娘の心を放ったらかしにしてしまった父親に出来る精一杯の愛情だ。


--side.ルフィ


「…………」


「おっ、やっと起きたか。お前にしては珍し……どうしたその仏頂面」


「よく覚えてねェけどすっげーヤな夢見た気がする」


「なんだ夢か。んなガキみたいな事言ってねェでさっさと食え。そこに残しといた」


「ん」


 寝起きのせいであまり出ない声で答え、のっそりと椅子に座る。心配そうだったサンジも呆れながら再び皿洗い中の手を進める。


 たかが夢だろうが、おれにとっては最悪だったんだから少しくらい態度にだって出る。


 途中まではあのうさぎと懐かしい思い出に浸れてた筈なのに、そこから先の記憶があまり無い。

 悲しい、辛い、悔しいって気持ちだけが残っていて頭が鉛のように重い。


「…………」


 それともうひとつ気になる事がある。


 だけどおれは難しい事を考えたり言葉にして纏めて結論づけるのがあまり得意じゃない。漠然としたもやもやが腹の中に溜まり続けている。


「そういやナミさんが、次着く町で生活品とか買い込むから荷物持ち手伝えって言ってたぞ」


「お前はロビンちゃんとジンベエと一緒だとよ。おれの同伴相手は野郎しか居ねェってのにまったく羨ましいぜ……」


 サンジの恨めしそうな声と歯ぎしりを聞き流しながら熱々のスープに口をつけた。


・・・・・


「--これで粗方必要なものは揃えたかのゥ」


「そうね、あとは……」


 ジンベエとロビンがメモを確認しているのを後ろで眺めてると、どこからか歌声が聞こえてきた。


『♪どうして あの日遊んだ海のにおいは』


「っ!!」


 歌声の主を探すと、町の中心にある噴水の近くで住人達が音貝を囲んで歌に浸っていた。

 近くを通りがかった何人かが、怪訝な顔をして集団に話しかける。


「なァ、それ……例の歌姫のだろ? 国を転覆させようとしたって噂の……」


「バカヤロッ! そんなの嘘に決まってるだろ。あの娘はただの歌手だぞ」


「でもあの娘のやろうとしてた事は極端よ。永遠に夢の世界に居ようだなんて」


「そりゃあ、あの娘のやろうとした事はちょっと……いやかなりヤバかったけどさ。そんな子1人に救ってくれなんてすがったアタシらも悪いんだ」


「あの娘の歌、おれ大好きなんだ……。新曲とかもっと聞きたいよ」


「……まァ……分からなくもないが……」


「今どこで何してるのかしら。また配信してくれたら、おかえりって言ってあげたい」


「相変わらずの人気じゃな」


「それだけ彼女には惹き付けられる魅力があったのね」


「……あいつは赤髪海賊団の歌姫だからな」


 いつの間にか、ロビンとジンベエはおれの隣に立っていた。


 その横顔を見ている内に、おれの中で少しだけ気持ちが固まる。


「なァ、ロビン。聞きたい事があるんだ」


「! ……少し腰を落ち着けて話しましょうか。ジンベエも、大丈夫?」


「船長からの相談事なら聞く他あるまい」


 人通りが激しい所から外れひっそりと置かれたベンチに腰掛け、おれは頭の中の気持ちを少しずつ吐き出す。


「前、ロビンは夢について色々書いてある本読んでただろ」


 エレジアに着く少し前、ロビンが読む本をチョッパーが興味津々に覗き込んでいたのを思い出す。


『なーなーロビン、今度は何読んでんだ?』


『これは夢について書かれている本よ』


『夢? 寝てる時に見る方か?』


『そう。夢に纏わる伝承とか、医学的な観点から見てヒトが夢を見る意義の推測とか、とにかく夢に関係するアレコレを一冊に纏めてあるの』


『へェ~~! それ、読み終わったらおれも借りても良いかな!?』


『ええ、勿論』


 "医学"のワードに惹かれたのか、さらに目を輝かせるチョッパーと、そんなチョッパーをニコニコと笑いながら見つめているロビン。


 あの時は「楽しそうにしてんなァ」ぐらいにしか気に留めていなかったけど、今は違う。おれよりずっと色んな本を読んで、知識を持ってるロビンならおれの気持ちに答えを見つけてくれると思った。


「エレジアを出てから何日か経つけど、あれから同じような夢を続けて見るんだ。感覚的には"見ている"っていうか、"居る"ってのが近いか。夢の中なのに、まるで現実みたいに自由に動けて、少しだけど夢を思い通りに動かせて--」


 秘密基地で少し過ごしていた時、おれは口寂しさから何気なくこうぼやいた。


『しっかし腹減ったな~。やっぱよ、どうせ夢なら腹一杯肉とか食いたいよな』


 その瞬間、ぽんっと軽い音と共に、近くのテーブルにオレンジジュースと皿に盛った骨付き肉が現れた。


『は?』


 おれとうさぎは思わず顔を見合わせる。

 うさぎの方も驚いているようで、目を真ん丸にしておれと肉を交互に見ていた。


 望み通り肉が出てきた事よりも驚きの方が勝ってしまった。だって、「願うだけでモノが出てくる」なんてまるで--


「……もうひとつ気になる事があるんだ。そこに出てくる、1羽のうさぎ」


「兎?」


「最初は、夢の一部だと思ってそこまで気にしてなかったんだ。でも一緒に居る内にそいつも心があって生きてるように思えてきた」


 驚いている時、悲しそうな時、寄り添った時、態度に出さないけど瞳の中に「寂しい」って心が見えた時、おれの中でうさぎと1人の人間が重なった。


「…………夢の中に、別の誰かの意識が紛れ込むってあり得る事なのか?」


 迷いに迷って、とうとう口に出してしまった。


 これを聞いた所で何になるというんだ。おれは何を望んでいるんだ。望んだ答えが帰ってこなかったらどうするんだ。


 どこを見る訳でもなく前の方を向いたまま動かないおれを見て、ロビンは特に大きなリアクションを見せずゆっくり話し始める。


「そうね……昔から夢と魂は結びつけられる事が多かったみたい。非科学的な話になってしまうけど、例えば、寝言を言っている人に話しかけると魂が抜け出て戻らなくなる、先立った人が夢枕に立つ……といった具合に」


「私達の中の魂が、寝ている間肉体を離れて活動する、という考えを持っている人は多いみたいね。本来なら"シルバーコード"……身体でいえばへその緒みたいな管に繋がって魂が肉体から離れる事が無いけど、何らかの要因で離れてしまったら……」


「……誰かの夢と、繋がる?」


「可能性は否定しないわ。「あり得ない」と決めつけては真実を見つける事が出来ないもの」


「……それに、悪魔の実の力も関わっていれば、現実味も増すわ」


 思わず顔を向けると、ロビンもジンベエも優しく笑ってこっちを見ていた。

 とっくに気付かれてたか。


「ルフィ、貴方はその仮説をどうしたいの」


「……おれは……」


 目線を手元に落とす。


 もし、あのうさぎが夢だけの存在ではなく、どこかの誰かだったとして。あいつだったとして。おれはあいつと--


「決まったみたいじゃな」


 黙っておれの顔を見ていたジンベエはすくっと立ち上がり、おれの背中をばしっと叩いて活を入れる。


「手の届く所に戻ってきてくれた好機を無駄にしないよう、しっかり向き合え。もしこっちで力が要るとなれば、わしらも全力でお前らを助ける」


「……ロビン、ジンベエ、ありがとうな」


「はっはっはっ! いつまでも萎れた船長を見てられんからのォ」


「ふふっ、さあ帰りましょう。皆が待ってるわ」


 あいつに一欠片の希望が残っていているのか


 帰る場所はとうに無くなってしまっているのか


 まだ何も分からないけど


 おれはあいつともう一度話がしたい。


--side.うさぎ


 ザザァン…ザザァン…


「…………」


 遠くで揺れる海の音を聞きながら、私は独り考えていた。


 あの時見た光景は、ルフィの心の奥底にある辛い記憶だったのだと思う。直接聞いた訳じゃないけど、多分あの男の人は今はもう会えないエースってお兄さん。それと……。


「…………」


 最初は、混乱やあんな事をしておいて生きている後ろめたさの方が強かったけど、夢の中でルフィの話し相手でいるのも悪くないなって思い始めてしまっていた。


 でもやっぱり、私はここに居るべきじゃないのかもしれない。

 散々色んな人に迷惑を掛けて、ルフィの心も深く傷つけた疫病神はあいつの傍に居るのに相応しくない。


 夢の中からどうすれば消えられるんだろう。声が出せない以上ウタウタの力は使えないし、この崖から海に身を投げれば消えるかな。でもルフィの夢で勝手に命を散らせて、何か悪い影響が出たらどうしよう。 


 簡単に死ぬ事が出来ないとなれば、せめてルフィの前から姿を消せばいいかな。


 ルフィが夢の中に来たら、本物の兎のように草木や物陰に身を隠して、現実に戻るまで待ってを繰り返して、そうしていつかこの体が消えるまでひっそりと生きていく。それが一番良いのかもしれない。


 私は悪い奴なんだ。このくらいしなければいけない。大丈夫、寂しくなんかない。


『ウタ! 勝負だ!』


 寂しくなんか……。


『なあウタ、またあの歌歌ってくれよ!』


 …………。


『おれ達の新時代のマークにしよう!』


「……ぃ……」


 本当に駄目な奴だなァ、私。


「おーい! おーい!!」


 なんでこんな時にあいつの声が浮かぶんだろ。


「よかった、やっぱここに居たんだな!」


 まるですぐ近くに居るみたいに聞こえてくるな……。


「……ん? おい、聞こえてるか?」


「!?」


 突然後ろからひょいと持ち上げられ、心臓が跳ね上がる。見上げるとこちらを覗き込むルフィの顔がすぐ傍にあった。


「なんだよ驚いた顔して。ホントに聞こえてなかったのか? こんなにでけェ耳してんのに」


 うるさいなァ、考え事してたの!


 不思議そうな目をしながら私の耳をにぎにぎと揉んでいるルフィの手を前足で振り払う。


 まったくルフィは相変わらずっていうか何て言うか……。


 ……ますます未練がましくなっちゃう。


「……お前にはまだ話してなかったけどさ、おれには、同じ夢を誓った奴が居たんだ」


 私の事を胸元に抱き寄せ、前へ一歩踏み出すルフィ。私の目線からだとあまり見えなかった景色が一気に見渡せた。

 オレンジ色に染まった空、夕陽を受けて光輝く海。あの日ルフィと2人で夢を語り合った場所そのものだった。


「あいつは、世界を回って自分の歌で皆を幸せにするって言ってた。新しい時代を作るんだって」


 その約束を果たせなかった私への怒りからか、私を抱き締めるルフィの手に少し力がこもった。罪悪感に心臓が握り潰されたような気持ちになる。


 でも、次にルフィの口から出た言葉は私にも予想出来ないものだった。


「なァ、知ってるか? 海賊は歌うんだぞ?」


「……?」


 ニッと歯を見せ笑った後、息を深く吸い込んだ。一体何をするつもりなんだろう……。


「♪この風はどこからきたのと 問いかけても空は何も言わない」


「……!!」


 ルフィが歌い始めたのは私が子どもの頃皆の前でよく歌っていた「風のゆくえ」だった。


 昔何度かルフィの歌は聴いた事があるけど、あの頃は調子外れで無茶苦茶だった。


「♪この歌はどこへ辿り着くの 見つけたいよ自分だけの答えを」


 でも今は何というか……声の抑揚が不安定なのは変わらないけど、それが気にならないというか、むしろ力強くて、聞いているだけで心が躍るような……。


「♪ただひとつの夢 決して譲れない」


 一言でいうなら、「自由すぎる」歌い方をしている。ルフィらしい歌声だ。


「♪大海原を駆ける 新しい風になれ」


 ワンコーラス歌い終えると小さく息をついたルフィ。私の方を見て、珍しく照れくさそうな顔で尋ねる。


「ちゃんと歌ったのは初めてだから間違えたかもしんねェな……合ってたか?」


 問いかけの内容に私の心臓がまたドキリと跳ねる。恐る恐る頷くと、ルフィは呑気な調子で「そっか良かったァ」なんて笑ってる。


 ルフィの顔を見つめたまま動けない私の様子に気付くと、ルフィは顎に手を当て少し考えた後、私をゆっくり地面に下ろした。


「それじゃまた、少し話すか。今度は……ちゃんとお前と2人で」


「……? 何を言って--」


「!? 私、喋れる……っ!?」


 思わず口に両手を当てて驚く。自分で声を発しているというよりは、伝えたいと思っている事がスピーカーから出ている、て感覚に近いけど……。

 今はそんな事や「何故ルフィが私の能力みたいな力を使えるのか」とか、細かい事気にしている場合じゃない。


「……気付いてたの? 私だって……」


「最初は分からなかったけど、段々な」


「…………ごめん」


「なんで謝んだよ」


「だって私、ルフィの夢の中にずけずけと上がり込んで……」


「お前が望んでやったのか?」


「違うけど……」


「じゃあお前が謝る事じゃねえだろ。そうだったとしても別に気にしねェし」


「でも……」


「だァ~~っ!! おれがお前と話したいのは!! そんな事じゃねェんだよ!!」


 項垂れながらぐちぐち言う私をまだるっこしいと思ったのか、両腕をあげてルフィが吠える。そのあまりの勢いに圧され、固まってしまう。


「直球に言う! 向こうの世界に戻るぞ、ウタ!!」


「はァ!? 向こうって……、現実にって事?!」


「それ以外にどこがあんだ」


 当然だ、と言わんばかりの真っ直ぐな態度に一周まわって惚れ惚れする。でも、それはきっと無理な話だ。


「そんなの、出来ないよ。きっと私の体はもう死んでる」


 自分で吐き出している言葉に、首を絞められているように息が苦しくなる。


「第一私、皆からしたら大犯罪者でしょ。今更帰ってどうするの。私にはもう何も出来る事なんて無い」


 現実の世界に私の帰る場所なんて無い。それがあの時犯した過ちのけじめだから。


「もう私の夢は、麦わら帽子と一緒にあんたに託した」


 新時代を創るのは、ルフィだ。


「おれが聞きたいのはそんな事じゃねェ」


「え……っ」


「おれは、お前に、帰りたいのかどうか聞いてるんだ」


「……っ、だからっ!! 私には向こうで生きる資格なんて無いんだってば! 私がエレジアを滅ぼしたんだよ!?」


「それはお前が望んでやった事じゃないだろ」


「でも、あのライブの時は私自身の意思でトットムジカを呼び出した!」


「キノコの毒でおかしくなってたからな」


「ネズキノコを食べたのだって、私の意思で……!」


「後に引けなかったんだろ」


「……沢山の人を傷つけた……ッ」


「お前の歌では誰も死なせてねェ」


「…………っ」


「お前はどうしたいんだよ」


 ……そんなの……


「…………帰りたい、よ」


「私だって、帰りたい……。もし赦されるなら、歌いたい歌がいっぱいある! 伝え足りない言葉が山ほどある!」


「直接顔を見てシャンクスやゴードンに謝りたい、ありがとうって言いたい!!」


「なんで……死ぬのが怖いんだろう……私……ッ」


 色んな迷いが頭の中をかき乱して、言葉がうまく出てこない。視界も勝手に溢れ出る涙のせいでぼやけてきた。


 頭の上に何かが覆い被さる。

 見上げると、さっきまでの強ばった顔から一転して、どこか安心したような目が深く被った麦わら帽子の奥から覗き見えた。


 私の頭をやや乱暴に撫で回しながら、にししとルフィは笑う。


「やっと聞けたな。お前意地張り過ぎだろ」


「別に、意地っぱりとかそういう問題じゃ……。第一、私が帰りたいって思っても、体が無いんじゃどうしようもないでしょ」


 あの時は飲む必要なんて無いと薬を拒んだ。恐らく私の体はもう手遅れになっている筈。


 でもルフィは、あっけらかんとした様子で否定する。


「何言ってんだ、お前の体多分無事だぞ。確信持ってなきゃ帰ろうだなんて言わねェよ」


「……えっ……!?」


「自分で聞こえないのか? お前の"音"」


 頭の上に乗せてた掌を今度は私の胸元に当てる。

私も言われるがまま静かに集中して耳を傾ける。


 ドク…ッ、ドク…ッ、ドク…ッ


 真っ暗な視界の中、鼓動の音と連動するように小さな波紋が広がっていく。


 これは、私の心臓?


 私、生きてるの……?


 確かめるようにずっと意識を集中して聴き続けていると視界が乱れ、誰かの顔が映る。


 ……この人は……!?


『--……ウタ?』


 晴れた視界に映ったシャンクスは、一瞬驚きを見せた後、唇を噛み締め、何かを堪えるよう静かに笑った。

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