夜明けまで

夜明けまで

マンションの上のハート組

ペンギンと買い出しから帰ったらシャチが夕食の調達って言って出かけた。日も暮れてきてるしペンギンが料理道具や寝具をセットしてる間におれは火起こしに挑んだ。何回か失敗して見てられなくなったローが口出したら一発で成功した…お前やっぱすげェな…

そういうしてるうちにシャチがまあまあでかい魚を何匹持ってきた。こんな短期間で取ったのかって聞いたらローは焼き魚好きだから頑張ったって。涙が出そうになったのはきっと煙のせいだ…窓ガラス何枚か欠けてるとは言え家の中でキャンプファイヤーするのやっぱ少し煙るんだよな。

夕食はおれが作った名もなき野菜と貝(シャチが魚取りのついでに拾った)のスープで体温めて、ペンギンが魚焼いてみんなで食べた。新鮮だからか腹減ったからかめちゃくちゃうまかった。ローが一人で一匹まるごと食べた。その魚お前くらいのサイズなかったか…?食事後ペンギンがお湯沸かしてさっき雑貨屋で買ったココアを淹れてくれた。ベポは腹いっぱいになって後ろでぐーぐーに寝た。シャチがコップをローに渡そうとしたけどローがおれの背中に隠れて出てきてくれない…しょうがないからおれが2人分まとめて受け取った。ありがとな。

聞いてみたらローが幼体化したことは前にも何回かあったけど、この第二段階になると何故か長引くことが多いらしい。重度の人(OP?)見知りで心が開くまで時間かかるけど、心が開いた時点で大体あとちょっとで幼体化が終わるとか。あんたがいて助かったよってシャチがお礼を言ってくれた。そうなのか。おれはこれでも役に立ってるのかなと胡座をかいているおれの足の上に座って無心にココア啜ってるローを見下ろしながら思った。そろそろ足の感覚がなくなる。


そういえばお前らどうやってローと一緒になったんだって何となく聞いた。口に出したらペンギンとシャチは確か飼い主に捨てられたって思い出して後悔した。嫌な思い出だったかもしれない。でも2人ともそんな素振りしなかった。ローはおれたちを助けてくれたんだとペンギンが言った。捨てられた2人で彷徨ったらこの辺りに行き着いて、元々海が好きでよく潜って貝拾ったり魚取ったりしたら近所の子供たちにギョジンだと勘違いされたらしい。ギョジンは海を荒らす化物とかこの地域の古い伝説でもあったみたいでガキ共に怖がられて、見つけられる度に出て行けと言われ石投げられる。何回か雑貨屋のおばちゃんが通りかかって助けてくれたけど、一回離れた場所でいじめがヒートアップして集団リンチになったみたい。囲まれて殴られ蹴られるのずっと終わらないかと思った所でベポを連れたローが現れて能力で2人をあの中から出してガキ共を蹴散らして、助かったとお礼言ったら目立った外傷はなかったけど内臓がやられかけてるとか治療までしてくれたらしい。

シャチとペンギンは明るく話したけど本当は危なかったかもしれない。子供だから力加減も分からないしいい事してるつもりだったかもしれないからそんなに責める気もないけどやるせない気持ちになる。


こんな話をちっちゃいローに聞かせちゃ悪いかな…と思ったら空のコップを持ったままいつの間にか寝ていた。聞いてないと良いんだけど…

ローを寝かそうと痺れた足で立ち上がったらローが落としたコップに躓いて転んだ…痛ってえ、あ、ごめん起こしちゃったか…

愛想笑いして布団で寝ようねって寝ぼけてるローをあやしてたら横でペンギンとシャチが慌て出した。おれが蹴ったコップがピタゴラスイッチ発動して焚き火の上に置いてる鍋が倒れそうになったらしい。倒れたら火事だってシャチが騒いてる。申し訳ないと思って手伝おうとしたらローが凄い力でおれを掴まった。危ないからどかそうとしたけどビクッともしない。どうしたと聞いても何も言わない。顔を覗いてみたら青ざめていた…焦点の合わない目を見開いて唇震わせて全身が固まってる……

それでようやく昨夜聞いた話を思い出した。ローは火事で家族を失ったんだ…偽物の火事だったけど。だから火は平気なのに火事って言葉がダメかな。

パニック状態になってるローを抱きしめたら顔を胸元に埋めた。そっと毛布をかけて上から撫でる。お前の元飼い主はあの時こうやって落ち着かせたっけ…今のお前ならこれは効くかな。おれの心臓の音でも良ければ安心して寝てな。昔のあれは結局嘘だったけど、今回は本当だからな。


ローが寝た。おれたちで火見てるからあんたはローについて寝てくれとシャチに言われた。言葉に甘えて寝袋に潜った。こんな空き家で一晩過ごすかと思ったら夜中に起こされた。起きたらベポは元の姿に戻ってて、ペンギンとシャチはもうほぼ部屋を片付け終わってる。どうやら夜中にベポの幼体化が解けて目が醒めたら何か動きを遠くから聞いたらしい。動きってなんのだよ…って聞いたら三人が一度目合わせてから分からないけど嫌な気配がするからとにかく移動しようとペンギンが言った……なんかもう怖がっていいか分からなくなってきた…

まだ寝ているローを自分のコートの中に包んで、先陣を切るシャチとベポに続いて夜明け前の冷たい空気を吸い込みながら静かに隠れ家を後にした。少し歩いだら海岸に出て、小舟があった…これに乗れってんのか……おれ泳げるけど冬の海に落ちたら凍えて死ぬんだぜ…

こんな小舟で夜の海に出るの不安が凄まじいけど3人の船の扱い上手くてびびった…ペンギンとシャチが後ろで漕いでベポが前方で海流読みながら方向指示してる…月は出てるけど海真っ暗なのに何の超能力だ…

暫く乗ってたらおれたちどこに向かってるんだと今更疑問が浮かんだ。ベポに聞くとこの先に街があるらしい。地形の影響で陸路は遠いけど海からだと近いよってベポが空中で地図を描きながら説明した。地図記憶してるのかと驚いたら半分は野生の勘みたいなものかなって。30分くらいで着くと聞いて時間を見ようと携帯を取り出したら多分向こうの電波が届く範囲に入ったから何と圏内になってた。船があまりにも安定してるから余裕こいてネットで生存報告までした。


気が付くと周りが少しづつ明るくなって来た。夜が明ける。ベポの後ろ姿の先に高いビルがそびえ立つ港みたいなのが見える。文明世界だ。一晩だけだったのに長い時間が過ぎた気がする。

朝日の方向へ見てると登ってきた太陽が目に刺さって眩しッ…ってなった。急いで視線を下に向いたらローがいつの間にか起きてたのに気付いた。朝日がちっちゃい顔に当たって暖かそう。かわいいなと思わず口角が上がった。ローはまだ寝ぼけてるかボーとこっちを見てるだけだからおはようと挨拶した。そしたら腹にパンチ喰らった…な…に…なぜ……よく見たらローの顔に白い痣が戻ってる…あ…これファミリー時代のローだ…と…薄れていく意識の中で理解した……


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