夜を越えて
長い長い、夢を見た。薄っすらと開いた瞼の向こうでは、暗い夜が明けて、朝焼けが街を照らしていた。
ここは、どこだろう。
おれを抱えこんでいた温かい腕の中から抜け出して、自分の体の軽さに驚く。
おれの病は、夢の外でも確かに癒えていた。
「コラさん」
そうだ。あの夢に行く前のおれは酷い熱を出していて、ヤーナムの街でどうしてかはぐれてしまったコラさんに見つけてもらえるまで、いつものように恐怖の滲んだ罵声を浴びせられていた。
バケモノ、出ていけ。
痣の消えたおれはともかく、コラさんはかなり目立つ。あの時に姿を覚えられていたなら、早くこの街から出たほうがいい。
教会なんて行かなくたって、病気ならコラさんが治してくれたんだから。
「コラさん」
通りに人が増える前になんとか目を覚ましてほしくて、規則正しく寝息を立てている体を揺さぶる。
「コラさん…?」
頬をつねっても、耳を引っ張ってみても、その両目は閉じたまま。
なんでだよ。寝起きの良さには自信があるって言ってただろ。
怖ろしい考えが背筋を伝う。
「姉様…お爺様…」
怯えた子供の声が鼓膜を震わす、そんなときだった。ファミリーへの連絡に使っていた電伝虫が、真っ黒な羽の装束から這い出してきたのは。
痣の消えた手で受話器を取り、ダイヤルを回す。
喋れないフリをしていたコラさんの代わりに毎日の報告をするのは、旅に連れ出されたあの日から、ずっとおれの仕事だった。
「…ドフラミンゴ」
「どうした」
定時連絡からずいぶん外れた早朝の呼び出しに、待っていたのかと疑うような早さで応えた声には、聞いたことのない響きがあった。
脳裏に浮かぶのは、夢の中の眠りにいつも魘されていた、お爺様の姿。
「コラさんを助けたい」
おれはコラさんに、この命と心とをもらった。
足りないものがあるとするなら、あと、ひとつ。
「おれに、悪魔の"力"をくれ」