深夜のモノクロ映像
あの頃の平子真子の夢を見る。
『何や言いたい事でもあるんか惣右介?』
虚化実験を行ったあの夜から、藍染の夢には時折平子が現れるようになった。
夢の中の藍染はこれが自身の見ている夢だということを認識している。
それ自体は特に不思議な話ではない。ただ奇妙な点をあげるとすると、執務室、風呂、藍染の部屋、場所は様々だが、藍染と平子は必ずセックスをする。
最初は欲求不満かと思い行動を起こしたり、様々な自己分析をしてみたが頻度は減らず、むしろ夢は長くなっていく。
夢の中の平子は藍染に優しい女だ。
『状況を報告しろ』
任務中、藍染を心配する素振りが可愛らしい。隊舎で後ろから抱きしめられようと、離せとは言うが拳を握らない。甘味屋で美味しいですねと話しかけられると、せやな、と幸せそうに頬を緩める。書庫で全てを見せてとお願いされると、こんな所でと言いながらも素直に裸体を晒し、小さな喘ぎを漏らす。
『んあっああっそうすけ、こっち、見て』
視線が重なり、平子が笑う。
『そうすけ、あっああ』
平子が藍染に揺さぶられている。気持ちイイ、きもちいい、あぁ、そうすけ。漏れ出る声は全て藍染のものだ。
『ん、ん、そうすけ…』
藍染の首に腕を巻き付けている平子は、そのまま耳や目に口付け、顔を近づけた。しかし藍染は顔を背ける。
『オィ』
平子は不満を漏らす。
『ああ、すみません。
僕はあなたの嫌がることをしたいし、沢山してきたなと思ったんです』
『自覚があるならええわ、許したる』
『僕のことを好きですか?』
『ん』
唇同士が重なり、舌がぬるりと侵入する。唾液の立てる音が激しく大きくなっていく。
『お前が何も言わんなら、こっちから言うたるわ……おれはおまえをー』
ーー夢はここで終わる。
「………」
何度も唇に掌を押し付けられ、藍染は目を覚ました。
くぅくぅ。
小さくイビキをかきながら、尚も藍染に密着して眠る寝相の悪い娘を押し除け、布団を掛け直してやる。
あの夜、虚化を進める為に藍染は平子の体を暴いた。
どれ程夢の中で平子と寝ようと、実際の平子がどんな行為を好むのか、死覇装と仮面に阻まれた藍染はその身体の全ても、唇の味すら知らない。
平子真子が消えたこの100年。どこで何をしているのか。
夢の中の平子はその余韻のみを残し、現実には触れられない筈だった。
だが今は違う。
この娘さえいれば、いずれ平子は藍染の前に姿を現す。
そしてその時、藍染は平子の身体と魂に、漸く触れる事が出来るのだ。
眠る娘の頬を、藍染はゆっくりと撫であげる。
「今は眠りなさい、平子真子の娘。私が君を強くしてやろう」
そのかわり、君は私の夢を叶えてくれ。
記憶に残る平子の夢は、藍染に異様な清々しさを感じさせた。