夜の風
「なあ なんであの呪いはあの指狙ってんだ?」
「喰ってより強い呪力を得るためだ」
「なんだあるじゃん 全員助かる方法」
「あ?」
「俺に呪力があればいいんだろ」
「なっ」
伏黒が止める間もなく、虎杖はあーん、と呪物を口入れる。
「馬鹿!!やめろ!!」
ゴクン。
(詳細不明とはいえ、特級呪物だぞ!?猛毒だ!!確実に死ぬ!!)
(だが万が一 万が一……!)
『お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙』
呪霊が雄叫びをあげ、虎杖へ突進する。
次の瞬間——
呪霊の上半身は、弾けとんでいた。
『やれやれ、起き抜けの相手にしては少し役者不足だな?』
虎杖の肉体に変化が起きた。
ブロンドの長髪が夜の闇になびく。日本人離れした顔立ちは端正だがどこか攻撃的な色を帯びている。
振り上げた腕は、ネコ科の様にしなやかで鋭い。
(最悪だ! 最悪の万が一が出た!)
(受肉しやがった!!)
本来、特級呪物“両面宿儺の指”がある筈の百葉箱。
しかし、どういう因果か。
その場所には別の呪物が設置されていた。
その名も“黒曜石の鏡の破片”。
メキシコにおけるアステカ神話、その主神の一人たるテスカトリポカの義足の一部である。
『さて、この国にオレのお眼鏡に叶う戦士は居るか?』
『そこのオマエ。伏黒恵といったな?なかなか悪くない。
この身体の奴と合わせてギリギリ及第点をくれてやる。感謝し「ちょっと待て」……なに?』
右腕が首を絞める。
無論、テスカトリポカは意図していない。
「人の身体で何してんだよ 返せ」
肉体の主導権を取られまいとして、虎杖の意識が浮かび上がる。
テスカトリポカは少しの驚愕を見せたが、数秒後には平静を取り戻した。
『……そういうことか』
(どうもこいつは、本当にオレを押さえ込めるようだな。だが……)
『断る。——”テスカトル”』
「うぁ…」
『それでいい、少し眠っていろ。』
(たかが眠らすだけで、臓腑がいくつか持って行かれた。身体に何か細工してあるな?)
テスカトリポカが一人で逡巡を巡らす。
伏黒はその様を見ながら、気が気でなかった。
(不味い……!よく分からんが、完全に乗っ取られたか!?)
(いざとなれば……!)
「布瑠部由良由良……」
覚悟を決め、構えを取ろうとする伏黒。
だが、そこへ一人の人間が舞い降りる。
「今どういう状況?」
現代最強の術師、五条悟がそこに居た。