夜にCui Cui
非お客様ァ私がトマトのために肥料の会社のホームページを見ながらスレッタのホームワークを見てやっているときに一仕事終えたらしいエランが近づいてきた。
「スレッタ・マーキュリー」
「はい?」
宿題内容に集中しているスレッタは珍しく画面から目を離さずに応答している。タブレットを覗いたままで、問題文を目で追っている確かに少々詰まりやすいところではある。
先の騒動の後でまだそう日がたっていないのでスレッタは少し緊張しているが、それでも日常は流れているので、宿題なりなんなりは当然ある。スレッタはまぁ、勉強面では多少頑張ってもらいたいところだ。いや頑張っているのは知っているから結果がついてきて来てくれたらいいな、というところか。
液体肥料のページを見ながら思う……これ、スレッタは誰に話しかけられてるのか意識してないんじゃない? と。
エランも同じことを思ったのか。
「スレッタ・マーキュリー」
呼ぶ、声を荒げるということはないが、先より少し大きい、いや、通る声。
「え、えらんさ……?」
ようやく自分を呼んでいるのが誰かということを認識したようで振り向こうとして、
「スレッタ」
流れるように長椅子に座ったエラン。
「えらんさん!?」
向きは互い違いでスレッタの隣だ。
「いい?」
何がいいのかを聞かずに、ただ良いかどうかだけを問うてスレッタに体重を預けている。
「え……エランさん!?」
スレッタは今度は逆に緊張のせいでタブレットから視線を外せなくなったらしい。がちがちだ。体重を預けるにはどうだろうか?
エランがどういう表情をしているのかは、こちらからは見えない。スレッタの表情は下向きで赤くなって、目を見開いている。
「……だめ?」
少しだけ首を傾けてスレッタの耳元でそうつぶやくエラン。
「よ、よよよ、よい……です!」
「ありがとう」
ふわり、とエランの纏っている空気が緩んだ気がした。
……意外と緊張してた? この男。
弛緩していくエランと対照的にスレッタの緊張は上がっていく。
それこそ、肩が凝りそうなほどに。
ほほえましいと、私はページを閉じてスレッタのほうをじっと見る。
多分、私は少し悪戯っぽい表情になっていたと思う。
「はい、チーズ」
こちらに背を向けているエランに体重を預けられてカチコチになっているスレッタの写真が撮れた。