夕暮れ
ある日の夕刻。
拠点屋外のテラスで手すりにもたれ脹相は物思いに耽っていた。
「やあ、隣、良いか。」
声の主、日車が脹相からやや距離を取って手すりにもたれた。
「……」
「……」
11月も中頃を過ぎると明らかに日が短いのを感じ取れる。日没は近かった。
日車が口火を切った。
「…あの時は済まなかった。…その…」必要も無いのについ何度も致してしまって、とはハッキリ言えなかった。
「…気にするなお互い様だ」
脹相は意外なほどそっけなく答えた。
「……」
「……」
またしばらく沈黙が続く。
日車が横目で脹相を見やると視界の端に白い顔が目に入る。
否が応でもあの時の情事を思い出す。
白い腕を自分の首に回し、自分の名を何度も呼び、白い顔を赤く染め潤んだ目で自分を見つめてきた脹相。
そして…。
いやあれは謎の領域の影響で今は関係ない事…過ぎた事と日車は自分に言い聞かせた。
手すりに目を落とし聡明な頭をそんな事で一杯にしていると、いつの間にか脹相が自分の方に顔を向けている事に気づいた。
その頬には赤みが差しており鼻梁の呪印は乱れていた。
「…あ…あれ以来何かがおかしいんだ。オマエの姿を見るととても苦しい。が、熱い気持ちにもなる。姿が見えなくても苦しい。何なんだこれは?弁護士だったら分かるのか?教えて欲しい」
脹相はそこまで一気に喋ると顔をブンッと正面に戻した。
黒い毛束の間から見える耳は真っ赤に染まっていた。
日車はその様子に驚愕しつつも可愛らしい、と思った。相手は立派な成人男性だと言うのに。
「偶然だな。俺の気持ちと一緒だ。」
脹相に触れられる程まで近づき日車は言った。
「……」
「……」
お互いの視線が絡み合う。
どちらからともなく2人の顔が近付き、唇が触れた。