夏祭り 6

夏祭り 6



 帰り道。


 「一輝兄、彩夏ちゃんを家まで送ってあげたら?」

 さくらは兄の背中を押した。

 「お、おう…」

 一輝はそう返して彩夏の方をこっそり窺う。

 「……お願いしようかな」

 「…っ、あぁ、勿論…///」

 言って下を向く彩夏と横を向いて応える一輝。

 そんなふたりをもどかしく感じながら、彩夏の家へ続く分かれ道、さくらは

 「じゃあね、彩夏ちゃん!」

 手を振った。

 「うん、またね。さくらちゃん」

 彩夏は手を振り返してくれた。

 「花さんも玉置さんもありがとう」

 「いえ、今日はお邪魔してすみません」

 「……私の方こそ…ありがとう」

 「彩夏、おやすみ」

 「おやすみ、大二くん」

 彩夏と彩夏に付き添う一輝を見送る。






 さくらは大二達と夜道を歩く。

 「大ちゃん、今夜どうする?ブルーバードに戻るの?」

 「否、明日の昼過ぎに戻るつもりだよ」

 「そっか。 花も家に泊まるでしょ?」

 「いいの…?」

 さくらはてっきり泊まっていくものだと思っていたから、びっくりしたような表情(かお)をする花に、当たり前だよ!と続ける。

 「もう夜も遅いし、今から夏木探偵事務所に帰るの怖いじゃん。

  大ちゃんと一緒なら…と思ったけど、大ちゃんが今日は戻らないなら花も泊まっていきなよ。パパもママもいいって言うと思うから」

 「あぁ、そうだな。

  花さん、宿泊先が決まってないんだったら家へどうぞ」

 大二も歓迎の姿勢だからだろうか、そしたら…遠慮なく…と

 「ありがとう…」

 花は笑みを浮かべた。

 「玉置は?どうする?」

 さくらは玉置にも投げ掛ける。

 「お、おれは…」

 迷惑にならないかとでも考えているのか、悩んでいる様子の玉置に

 「父ちゃんも母ちゃんも許可してくれるだろうから…家に泊まりたいなら泊まっていいよ」

 大二が言葉を掛ける。

 「あ、ありがとうございます…!」

 スマイルをする玉置に大二は苦笑いしている。さくらと花はクスっとなった。


 と、そこで。

 大二が花に近づいて、耳打ちする。

 「花さん、足は大丈夫?」

 隣に並んで歩いているさくらにも聞こえた。

 「…平気…」

 そう答える花にさくらは少し眉根を寄せる。


 全然 歩けないくらい痛いということはないのだろうけれど、花が足を擦ったことに多分 気づいていない玉置の案内で花火がよく見える‘あの’場所まで行って疲れているのじゃないかと思うから。


 さくらは小さく息を吐いて。

 「花~」

 隣を歩く花の手を握った。

 「さくら?」

 「疲れてない?」

 小声で尋ねる。…大二が足は大丈夫か訊いた以上、そして花が平気と返した以上、自分がまた足は痛くないかと問い掛ける訳にいかない。

 こっちの真意が伝わったかわからないけれど、花は

 「ありがとう」

 小さく笑い返してくれたからよしとしよう。


 花の隣を歩く大二に目配せすれば、兄もやさしく微笑んでいて。きっと大二も同じように花を気に懸けているのだと安堵する。


 ―――花と大ちゃんが笑い合える日が来ますように…


 そんなことを祈りながら、さくらは夜空を仰いだ。


 空には満天の星が輝いている―――。

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