夏祭り 1

夏祭り 1


 「花、似合ってるよ!」

 さくらが浴衣を着た花に言った。


 今日は地元の夏祭りだ。さくらは、そういった行事を体験したことがないという花を誘った。

 折角だから浴衣を着ようということになり、さくらと花は幸実に着付けてもらった。さくらは紺地に淡いピンク色の桜柄の浴衣にオレンジ色の帯を締め、花は真っ赤な雪花絞りで帯は檸檬色。

 髪も結ってもらい、準備ができた。


 ふたりはリビングへ。

 浴衣に着替えた一輝と玉置が待っていた。

 「お待たせ!」

 さくらが声を掛けると、一輝から、おう、と返ってくる。

 一輝は花の方を向いた。

 「いいじゃん」

 花の浴衣を見てあっさりそう言う一輝にさくらはホッとする。


 先日、リビングに花そっくりな女の人のグラビア写真集が置いてあって、一輝が買ったのではないかとの疑惑が上がった。結局、それはしあわせ湯の常連客が忘れていったものだとわかったのだけど。それ以来、一輝と花の仲が微妙にならないかが、さくらは気懸りだった。――それは杞憂だった。

 さくらは胸を撫で下ろした。






 ピンポーン

 インターフォンが鳴った。

 「はーい」

 幸実が出る。

 「一輝、さくら、彩夏ちゃんが来たわよー」

 さくらは玄関に向かう。

 そこには、白地に濃い桃色と水色のあさがおが描かれた浴衣に珊瑚色の帯を着けた彩夏がいた。

 「彩夏ちゃん、それ可愛い~」

 「ありがとう。さくらちゃんの浴衣も可愛いね」

 「ありがと!」

 女子ふたりで盛り上がっているところへ、一輝が顔を出した。

 「一輝くん…」

 「……よぉ」

 短く言葉を交わして黙るふたりに、さくらはあちゃーと思う。


 ―――気まずくなっているのは一輝兄と彩夏ちゃんだったか…


 さくらは、花そっくりな女の人のグラビア写真集が見つかった‘あの’日の彩夏を思い返す。








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 「一輝くん、カノジョできたんだ…綺麗な人だね…」

 ぽつり、彩夏が零す。

 「彩夏!これはその…」

 何とか誤解を解こうとする一輝に対し

 「(私は悪魔と契約してあんなこと引き起こしたんだもの…一輝くんと釣り合う訳ない…)おめでとう」

 彩夏は淋しそうに笑った。


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 ‘あの’ときの、彩夏の淋しげな横顔が頭を過って、さくらは痛々しく思う。

 そのとき、さくらは一輝兄!彩夏ちゃんを泣かせたら、私 許さないから!花のこともね!って一輝に釘を刺したし、大二が兄ちゃんは彩夏のこと大切に思っているよ…とフォローしていた、けれど、

 まぁ、気にするよね…――さくらはそっと溜息を吐いた。


 「一輝兄、」

 さくらは一輝を手招きすると耳元で囁く。

 「彩夏ちゃん、オシャレしてきてるんだから!褒めなよ!」

 ほーら、と一輝の背中を押し出す。

 「…えーっと、」

 一輝は目を泳がせ、しどろもどろになりながら

 「その、…似合ってるな、それ」

 視線を逸らす。

 「あ、ありがとう…」

 彩夏はお礼を言って下を向く。


 そんなふたりを見て、さくらはじれったくなる。

 ―――一輝兄、花のことはあっさり褒めてたじゃん!どうして彩夏ちゃんにはちゃんと言えないの…!!

 瞳を見て伝えればいいのに。

 それをしないできない一輝にやきもきする。


 さくらは内心、あーもうっ!と思いながら、気持ちを切り替えて

 「じゃ、行こっか!」

 明るく促す。

 「あぁ、そうだな」

 一輝が肯き、

 「母ちゃん、父ちゃん、行ってくる!」

 声を掛けた。

 「はいはーい、行ってらっしゃい」

 「ママさん!幸四郎が泣き止まないんだー」

 元太が玄関に出てきて、抱きかかえている幸四郎を幸実に託す。幸実は幸四郎を腕に抱いて身体を揺らしながら、よしよしとあやす。

 そんな幸実に穏やかな眼差しを向けてから

 「おぉー、皆、いまから夏祭りか!気をつけてな」

 元太は言う。

 「うん、行ってきます」

 さくらは応え、

 「幸四郎、お留守番でごめんね」

 花が幸実の腕の中の幸四郎の顔を覗き込む。

 幸四郎は花に手を伸ばし、花はその小さな指を握った。

 「この子、すっかり花ちゃんに懐いちゃったわね~」

 幸実は笑って、花も笑顔を返す。

 「「「「「行ってきます」」」」」


 こうして、一輝・さくら・花・玉置・彩夏の5人は夏祭り会場へ向かった。

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