夏メロコ
>>1ちょうど日陰になったベンチに座り、口にため込んだ言葉をゆっくりと吐き出す
「「あっつ」」
二人の声が見事にシンクロした今日この頃。パルデア地方で記録的な猛暑が観測された。低気圧だか高気圧だかをどうこう言って言っていたがあんまり覚えていない。
ほのおタイプのポケモンでさえ、若干の鬱陶しさを感じるような日差し。普段のオレならこういう日は部屋でネットサーフィンに勤しんでいただろうが、今日は違う。隣に座る赤毛がチャーミングな少女、メロコに誘われこの気温の中外出中。
どういう意図があるのかと数回問うたが、返ってくる言葉は「別にいいだろ」の一言。何か喉元に引っかかっている様子だったので承諾したが、ちょっと後悔している。っと今朝のことを脳内で逡巡していると、件のメロコが催促してきた。
「アイス、はよ寄越せ」
「はいはい」
先ほどコンビニで買ったアイスの片方を手渡すと、暑さで限界なのか奪うように受け取り、バリバリと包装を破った。
彼女の赤く鮮やかな髪色と対極の水色のソーダ味の棒アイスが、俺よりも一回りも二回りも小さな口の中へ入り、消えていく。暑さでやられてしまっているのか、うまいように思考が回らない。俺の視線に気が付いたのか、メロコが怪訝な顔を浮かべ
「早く食わねえと溶けるぞ?」
半分ほどアイスが消えてしまった棒を口で咥えている姿が何とも愛らしい。言われるがまま、コンビニの袋からグレープ味の棒アイスを取り出し、包装を破く。
おオレも思いのほか冷気に飢えているようで、包装のなくなったそれを何の躊躇もなく頭からかぶりついた。口の中に冷たさとぶどうの風味が広がる。
しゃくしゃくと無心でアイスを食らっていると、棒になにやら黒文字が書かれているのが見えた。もしやと思い急いで残っている可食部を平らげると、出てきた出てきた。『あたり もう一本もらえるよ』の文字。ただの運ではあるが何とも勝ち誇った気分になれるものだ。俺がフフンと鼻を鳴らすと、
「……んだよ その得意気なツラは」
メロコが気に入らないといった様子で軽く肘鉄をかましてくる。ガードもままならなかったのでもろにあたってしまった。普通に痛い。
しばしの沈黙。どちらが言うでもなくただ静寂の時が流れる。ただ、風の涼しさが心地よいため、もう少しこの状態でいたかったりもする。
「なあ」
「ん?」
オレが適当なおふざけでも言おうかと思った時、メロコが口を開いた。神妙な面持ちである。どうやら真面目にやらなければならないらしい。
「お前、夢ってあんのか?」
「…今はない。んでも、やりたいことはある」
「やりたいこと?」
「メロコともっと色んなところ行きたいし、色んなことしたい」
先ほど出たあたりの棒を見つめながらポツポツと話す。特に考えることもなく、脳から出力した言葉をそのまま口から出す。
「そんで今年の夏も来年の夏も、一緒に過ごしたい」
「んだよ、そりゃあ。くっだらねえ。バーカ」
視界の端に映った顔が少し赤くなる。その顔はまるでりんご飴のように美しく、輝きを放っていた。
「考えといてやるよ」
「そっか。じゃあ俺も考えとくよ。メロコと行きたいところ、やりたいこと」