夏の涼みは好きな人と
黒庭勇者さん夏。
四季の変化を強く感じる季節。
私と勇者様は和を重んじるという宿屋に泊まることになりました。
「西洋風の建物がいっぱいだと思ったら、こういうのがあったって嬉しくなっちゃうな」
「どうしてですか?」
「元々そういう場所に暮らしてたからかな」
素朴な雰囲気を感じさせる宿屋はのどかな空気も感じさせてとても心地よいです。空気も透き通っていて快適です。
「それにしても暑いよね、水遣い」
「そうですね、少しバテてしまいそうです」
「そんな時にいいものがあるんだけど……ここの宿屋に売ってるかな。ちょっと聞いてくるっ。水遣い、ちょっと待っててね」
「あっ、勇者様っ」
ひとりでどこかに行ってしまったので言われた通り待つことにします。
チリン。
風流な音が聞こえてきて、ふとその音の先を見てみます。風の力で鈴がなっているみたいです。穏やかな涼しさを感じさせる音についうっとりします。
のんびり風を感じながら勇者様を待つこと数分。勇者様は再び戻ってきました。
「おまたせ、かき氷だよ」
「かき……ごおり?」
「これこれ」
とんと、器を渡されて、その上に乗っているものを、確認します。
氷がちりちりになっている上に赤いシロップがかけられています。見るからに冷たそうな食べ物です。
「これはね、夏の風物詩なんだ」
「そうなんですか?」
「うん、地元でよく食べてたんだ。ここでもみられて嬉しいかも」
「勇者様の地元で食べられるものでしたら、きっと美味しいですねっ」
「うん、食べてみてよ」
そっとスプーンで掻き分けて、口に運びます。
キーンと来る食感。甘いイチゴの味。ひんやりとした味わい。その全部が氷の力で包み込まれているような感覚。
「美味しいですっ」
すぐに次へ、次へと食べちゃいたくなります。そんな私に勇者様がストップをかけます。
「ゆっくり食べないと頭がきーんってなっちゃうよ」
「あの感覚が頭にやってくるんですか!」
「そうそう、気を付けた方がいいよ」
「うぅ、自粛します」
流石にきーんってなったら動けなくなりそうです。そう思った私は勇者様に習ってのんびりと食べることにしました。
「さてさて、こっちも忘れちゃだめだよっ」
そういって次に持ってきたのは冷たいスイカでした。先ほどまで冷やしていたみたいで冷気が伝わってきます。
「スイカは、スッキリした味わいがいいですよね」
「わかるわかる、じゃんじゃん食べたくなっちゃう」
切り分けられたスイカを手渡されて、のんびりと口に運ぶ。
しゃり、しゃり。
心地よい感触が口を包み込みます。
独特な味わいなスイカは、珍しい味ではありますが、とてもスッキリした味わいで美味しいです。
「スイカバーとかも食べさせたいんだけどなぁ」
「スイカバーというのは?」
「チョコチップとかが入ったアイス。作ってみようかな」
「勇者様の手料理は美味しいですからね、期待しちゃいます」
「うーん、水遣いにそう言われると頑張りたくなっちゃう」
ゆっくり、ふたりきりの時間を楽しむのも素敵です。そっと肩を寄せあいながら一緒に、います。
「仲間を誘って浴衣とかも着たいね」
「夏祭りですか」
「そうそう。あっ、花火とかあったら……」
少し気恥ずかしそうな様子で言葉を続ける勇者様。
「水遣いとふたりきりで、見てみたいな。これはちょっとしたわがまま」
「勇者様となら、いつまでもっ」
「ありがとう、水遣い」
「これからの夏も楽しみましょうね」
「うんっ」
冷たいものを食べたり、美味しいものを味わう。そんな時間もこれからはいっぱいあるはず。
隣で明るい表情になる勇者様の笑顔がとても眩しい。そう思う午後でした。