夏の日の記憶
「お〜い、モレ〜!」
川辺で石を拾っていると、耳馴染んだ声が聞こえてきた。
振り返ると、アテルイの姿があった。
「何でここに?」
「今日は特別暑いから! 水浴びでもしようかと思ってな!」
(水浴びなんて麓の村でいくらでもできるだろうに……)
あえて口にしなかった方の理由に推測がつくが、そんな理由が生まれる程の親しさになったことが素直に嬉しい。
しかしまた1人で来たのか……。村民との仲は大丈夫なのだろうか。
そんな私の疑問を見抜いたのか、はたまた顔に出ていたのか、アテルイが口を開いた。
「ふっ、気にするな。誰も俺に文句など言わんさ。」
随分とらしくない言い訳だったけど、それはアテルイの不器用な優しさなのだと私は知っている。
「……うん、そっか。」
そう返すと、アテルイは微笑み、服を脱いでざぶざぶと川に入っていった。
「モレも来いよ〜、気持ちいいぞ〜!」
アテルイに手招きされ、私も川に入る。
冷たくて気持ちがいい。身体中が冷やされる感じだ。
水は透き通っていて、偶に射す木漏れ日でキラキラと輝いている。
私たちはしばらく無言で川に入り、冷たさを享受した。
(こんな時間がずっと続けば良いのに……)
そんなことを考えていると、水底が深いところだったのか、気づかずにバランスを崩す。水底に沈んでいく身体に混乱し藻掻いていると
、アテルイに身体を引き摺り上げられた。
「大丈夫か?」
心配そうな顔をするアテルイを見て、なんだか申し訳なくなった。
「大丈夫、ありがとう」
「そうか?なら良いが……もう少し浅くて広いところに行こう。」
私の返事を聞いて安心したのか、川岸に座ると水を掛けてきた。私も負けじと水をかけ返す。
そんな子供らしい遊びを私たちは気が済むまで続けた。