夏のワンピース
上司と部下の2人「ご準備よろしいですか?隊長」
時間に少し余裕はあったが藍染は構わず平子に声を掛けると、引き戸の向こうから「うっわ…」と焦った声が聞こえた。
「あー…まぁエエか。開けてエエぞ惣右介」
引き戸を開けると、平子は金色の髪と白いワンピースを翻していた。
「どうや。夜鍋して作ったったわ」
肉のない体で白いセーラー服に着られている平子は、藍染の目からは酷く滑稽に見える。
「現世の西洋寝巻ですか。よく作りましたね…下に置かれている寝巻は、幾ら隊長でもサイズが小さいのでは?失敗作ですか?」
「海水浴着や。今度の休みにひよ里と海に行くねんけどナァ……
アイツ初めてやから、どうせなら似合う水浴着仕立てたろうと思って作った…いうのは嘘や。余った布でひよ里のも作ってやってん。そっちはひよ里の分」
似合うやろ
化粧気のない顔で、唇を吊り上げて笑う姿はまるで少女だ。
「ミシンを買ったんですね。それにしても、猿柿くんが素直に採寸されたとは思いませんが」
凝り性で裁縫も得意な平子であるから、ミシンの購入自体は驚くことでもない。
問題は猿柿ひよ里だ。あの平子に対して反抗的な女は、採寸など許さないし、服を作って欲しいなど口が裂けても言わないだろう。
それをどうやって納得させたのか。
藍染は首を傾げる。
「海水浴着は洋服みたいにきちんと仕立てんと、緩やかで良し、丈と腰回りの太さがわかっとればエエんや。ぶかぶかちゃうなら問題ないやろ」
「……なるほど……」
流石、現世に精通しているだけあって雑学は豊富だ。
猿柿くんが律儀に海水浴着を着るとは思えませんが、といえば着んでもええんや、俺の自己満足やからな、と返された。
脚の長さが際立つ様、計算され尽くした丈から伸びる白くまっすぐな脚の中に手を差し入れたい衝動を抑え藍染は笑顔の仮面を被り話を戻す。
「お似合いですが…隊長、急いでご準備を」
始業時間に間に合うよう行動するのは、平子の数少ない美点の一つである。
「わーっとるわ。すぐ着替えるから待っとけ」
「わかりました」
平子はそう言うものの一向に着替え始める気配がない。
「惣右介…?」
何故引き戸を閉め部屋を出ないのか。平子は不審そうな、困ったような顔で藍染を見る。
「何でしょうか?」
藍染の目は笑っておらず、心なしか瞳孔が開いている様にも見える。
「…先に行っとけ。間に合うヨォには準備するから」
「わかりました。海水浴着の上に死覇装を羽織っても構いませんが?」
「もっとボケの引き出し増やしとき」
引き戸を閉め、慌て出した平子の足音を聞きながら藍染はやれやれと首を振り、背を向け、1人廊下を歩き出す。
アイツいつも以上にボケとんなと平子は思ったが、今日は大きな会議があるのだ。急がねば、と準備をしている内に、藍染の変な挙動の事などすっかり忘れてしまった。
だから陰で「今日の藍染副隊長、なんか殺気だってるよな。誰かなんかしたのか?」と隊士たちが話し合っていたこと、平子の生白い肌、鶏の様に骨ばっている脚を思い出す度に藍染の脈拍が早くなっていたこと、そして平子の前でだけはいつも通り抑えていたことを誰一人理由を知る由もなく、その日は恙無く過ぎていった。
・当時ビギニなさそうなので平子♀はセーラー服風水着作ってます無念
・ひよ里の水着が先に完成してるのはそういうこと
・好きな人の生足初めて見てしまい可愛げしかない藍染惣右介