士道

士道


粘っこい唾液が、抵抗もなく首元を濡らす。元々紺だったこのスポーツウェアは、さらに色を濃くして模様を作っていた。

荒く甘みを含んだ息と舌の裏から湧き続ける唾を、唇と噛まされたギャグボールの隙間からだらだらと垂らしながら、士道は眼下を睨みつける。

眼下__とは言っても別に高く浮いている訳では無いが、とにかく直立させられている士道からすれば眼下__には、サッカーボールが転がっていた。それから、あられもない声を上げながら腰を振って媚び続ける男たちも。艶かしいと言うよりも痛ましい、みっともないと言うべき後者はそこまで問題じゃなかった。意志の介在がないにも関わらず、士道を煽るように床を転がるその球体に比べれば。


レクリエーションとして鬼ごっこが始まったのが5時間前。捕まった奴の所在が知れてから3時間半。

とうとう士道も捕まって、他と同じように桃色の注射を打たれ、しかしそのまま嬲られることなく1人だけ拘束されたのが2時間前。

状況は1ミリも変わらず、ブルーロックマンに犯される奴らを目の前に置かれながら、身体の自由を奪われたままである。嬌声の数は二時間前よりいくらか増えたのだが、士道にとってはごくごく些末な違いでもはや気づくこともない。

聴覚すら意識の外に追いやるほどに、士道の焦点はサッカーボールに釘付けになっていた。


士道はサッカーが大好きである。愛している。サッカーの世界一の恋人である自負もある。それこそ最高のゴールで絶頂に達するほどに、士道にとってサッカーは性欲に結びついた"恋愛"だった。

だから、そんな士道の前に置かれたサッカーボールなど据え膳以外の何物でもない。男たちの律動に伴って発生する激しい振動にボールが揺れる度、左右へ転がる度、身体の中心が疼く。しばらく前に立ち上がったまま、放置されている熱芯は、じわじわと周辺の布地の色を変えながら痛みで訴え続けていた。打たれた注射__たぶん精力剤の類__の効果は抜群で、体温の上昇は頭の鈍化をもたらして、反応がどんどん感覚的なものに寄っていく。拘束具の擦れ、顎から滴った唾や汗が鎖骨に落ちる振動さえも、腰の疼きを増幅し神経を逆撫でしてくるまでに士道は敏感になっていた。

これが縛られた状態じゃなかったらどれだけ良かっただろう。床に押し付けられ精液かも分からない液で種付けされる方がよっぽどマシだ。だって気持ちいいから。『発情悪魔』の異名は伊達じゃなく、士道は快楽にめっぽう強い自信があった。セックスの気持ちよさも十分理解している。

痛かろうが、辛かろうが、性感を突かれればどうせ気持ちいい。それすら感じれないまま、溜まり続ける肉欲を発散出来ずにストレスを抱え込む方が士道にとっては拷問だった。


クソが、と口の中で呟くと、唾液の塊が口から垂れた。つぅと喉を撫でる液体の感触にすら身体はぴくりと反応する。

首元を根源に下へ下へ広がった染みは、もう腹の下の方へ手を伸ばしていた。

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